満月の夜までの時間
翌日、拙者は魔法研究所の自室にて異世界バクーフに転生した新選組について考えた。
転生した新選組隊士は全てでは無く、土方歳三・沖田総司・永倉新八といった幹部の三人を中心にしたメンバーでござった。それも拙者のように完全体ではなく、霊体として復活している。その為に、1日の活動時間が限られており、満月の夜に完全な妖気を手にして妖怪の死を撒き散らす行軍である〈百鬼夜行〉を発動させこのスザク王国を支配し、やがてバクーフ大陸全土を支配すると言う話でござる。
「……新選組隊士全てではないとは言え、総帥にあの土方殿がいる限りどんな戦法で来るか検討がつかぬ。もし、百鬼夜行で攻め込まれスザク王国の対応が後手後手に回れば、その日を境にスザク王国は新選組の支配下に置かれてしまうだろう。そして国王の首は飛ばされる……」
ふぅ……と溜息をつき、拙者は茶を飲む。
満月の夜は近い。
それまでに霊体としてどこかに潜伏している新選組のアジトを見つけ出し、それを殲滅せればならぬ。どんな理由があれ新選組がこの国を支配するという私利私欲に溺れている以上、許してはおけぬ。
「これはタカスギに依頼してスザク王国周辺の隠れ家になる場所を教えてもらうしかないでござるな。新選組が百鬼夜行の力を得る前に拙者が全てを終わらせてやるでござるよ」
すると、ピンポン! ピンポン! と魔法研究所のインターホンが連打されるでござる。
そこにはスザク王国魔法騎士団の兵がいた。
「ア、アオイさん! タカスギ・シンクウ様より伝言です! 飛ぶが如く、俺の王宮へ来い。最近スザク王国周辺で多発している亡霊騒ぎの件で聞きたいことがある。との事です!」
「……タカスギは自分勝手でござるな。まぁ、拙者も用があった。行くとするか」
拙者はミツバの研究室に行き、出かける事を伝える。
ボンッ! とビーカーから煙が上がり桃色のボンバーヘッドになるミツバはすぐに魔法で直毛になるでござる。
「……失敗でござるか。魔法の研究も大変でござるな」
「失敗してないし! ミツバちゃんは天才だからね!」
「今は何の魔法でござるか?」
「ひみちゅ☆ ひみちゅ☆ だよ! フォーーー!」
流石はミツバ……一度や二度の失敗ではへこたれぬな。
自分の失敗を認めないミツバに拙者は言う。
「頑張るでござるミツバ。拙者はタカスギの依頼を解決し貢献してくるでござる」
「私、あの男嫌い! あの男の仲間の女達に、変な事されちゃダメだよ?」
「変な……事?」
何やら不安そうなミツバに近づき、その桃色の瞳を見つめる。
急に近づかれミツバは息を飲む。
二人の呼吸が顔に当たる距離まで近づき、拙者は口元を笑わせる。
そして、その背後の壁に片手でドン! としながら言う。
「拙者はミツバにしか興味は無い」
「! ……お、おー、そうだね。そーだね、そーだねソースだね。よし、今晩はカツにしましょー!」
顔を赤くするミツバは後ろを振り向きまた実験に没頭する。
実験失敗の爆発で直毛にしたはずのボンバーヘッドがまた再発してるでござるな……。
また魔法で直すでござろう。
そして拙者はドアを閉め、スザク王宮へ向かう。
さっきのは最近スザク王国で流行の壁ドン! という技らしいが、中々タイミングが難しいでござるな。
成功してよかったでござるよ。
拙者はタカスギに呼ばれ、最近起こった亡霊騒ぎについて聞かされる事になった。
どうやら、その亡霊は殺人を行っているらしい。
主に妖怪を中心に……。
タカスギのいるスザク王国城内の一室に通された拙者は、盆暗煙管を吹かし待っていた紫の髪の着流しの男に言う。
「待たせたでござるタカスギ」
「ケケッ、急に悪いな。伝達した通り亡霊によるちょっとおかしな事件が最近起こっていてな。お前さんに調査を依頼したいわけよ。女はどうした? もしかしてもう別れたか?」
「別れておらぬ。ミツバは国王から依頼されている様々な魔法研究があるでござる。拙者との冒険は事件が起こった時のみでござるよ」
「ケケッ! 結構、結構。あの桃色髪女に飽きたら他の女を紹介してやる。今度は桃尻女がいいか?」
「別れぬでござるよ。ミツバは拙者にとって大事な相棒でござるからな」
「人の縁ってのは、案外いきなり切れたりするもんだぜ? 言葉一つで終わるくらいにな」
何やら意味深な事を言うタカスギの話を終わらせ、拙者は本題に入る。
「亡霊というのは、本当に亡霊でござるか? はたまた面妖な事件でござるな。このバクーフ大陸には当たり前の存在でござるのか?」
「いや、亡霊は当たり前の存在じゃねぇよ。存在はするが、殺人までとなると異常な存在だ。死人が生人を殺してるわけだからな。退治せざるを得ん。特に殺人をする亡霊とは、中々の強敵であるのが通例だからな」
「ほーほー。中々の強敵でござるか」
タカスギが言うならば、亡霊というのはかなり強いのであろう。
だからこそ拙者に退治を依頼している。
拙者はタカスギに貢献する為に聞くでござる。
「その亡霊とやらは現れる場所や、見た目。死体の傷から手持ち武器は何かはわかるでござるか?」
「手持ち武器はお前さんと同じ刀かソード。死んだ奴等は皆、鋭利な刃物で尚且つ、一撃で死んでいた……ありゃ、人を斬り慣れた殺人専門家だな。故にこの事件はお前さんにうってつけのはずだぜ。ケケッ」
殺人専門家か……かつて新選組はそう言う呼称で呼ばれた事があるでござる。
外敵だけでなく、身内にまで手をかける鬼の集団。
殺人を専門にしている阿修羅。
しかし、今は新選組での話ではなく異世界バクーフ大陸で起こる話。
拙者はタカスギが差し出した一つの印籠を見て絶句する。
「その亡霊が落としていった物はある。この丸に傘が書かれた印が書いてある木のケースにだ」
「……!」
「? どうした? 何か見覚えがあるのか?」
顔が青ざめる拙者にタカスギは顔をしかめつつ聞くでござる。タカスギがこの印の意味を知って、わざと拙者にこうしてるようにも一瞬感じたのを恥じて、喉の奥の唾液を飲み込む。明らかに表情が変わる拙者に、タカスギは不信感を募らせた。
この亡霊の殺人事件は新選組の霊体が起こした事件。どうやら、新選組の連中は百鬼夜行を急いでいるのか……それに……。
(この男には誤魔化しはきかないな……言うしかあるまいか……)
そして、拙者は目の前の次期スザク王国国王であるタカスギ・シンクウに言うでござる。
「お主には言っておこう。これは拙者の世界のとある組織の印でござるよ」
「とある組織の印?」
拙者は、元新選組というその土地を守る守護者だと伝えた。
主君の大義の為ならば、身内であろうと斬殺する殺人専門家の一団の一人だったと――。
そして、この事件の犯人はかつての拙者の仲間であると。
それを聞いたタカスギはケケッ! と笑い、
「なるほど。内部粛清を行い、怠惰や妥協を消して常に高みを目指さなければ死ぬ環境を作る。確かに、そんな所にいれば強くなるしか生き残る道はねーな。それがお前さんの強さの秘密か……。そして、その仲間が転生して殺人事件を起こした。面白くなってきたじゃねーかオイ!」
「……人が死んでいる。面白くは無いでござろう」
「まぁ、いいさ。この件は俺の部下達にも探らせておく。お前さんはお前さんなりの探索を頼むぜ」
「当然でござる」
これは拙者の手で解決せねばなるまい。
本当に新選組が事件を起こしてしまっている以上、この件は拙者にしか解決出来まい。
全ての隊士が復活していなくても、新選組には変わりない。
(早急に……飛ぶが如くこの新選組動乱を片付け、新選組の百鬼夜行を阻止せねばならぬ。百鬼夜行が始まれば、このスザク王国など一夜にして壊滅するであろう……人を殺す事に慣れた連中と、そうで無い連中とでは戦いにすらならぬでござる。先日まで行われていた人妖戦争はもう末期で、ほとんどまともな戦闘も無く死者もほぼ出ていないらしい。故に、そんな危機的状況を経験していない人間達では新選組相手には荷が重すぎるでござる)
そして、拙者は魔法騎士団の稽古する武道館に立ち寄る。
拙者は剣術師範として週に数度稽古をつけているでござる。
肉ではなく、骨を斬る剣を教えている為に、防具をつけていても骨に伝わる一撃でなければ一本は許さないルールで竹刀稽古を行っているのを眺めた。中々、撃ち込みが鋭くなってきていて、実戦でもこれなら使えそうでござる。後は戦場での気構えのみでござろう。真剣での戦いは小手先の技術よりも、相手を殺すという覚悟に満ち溢れた度胸、狂気でござる。これは土方殿に……教わった事でもござるな。
(普段の拙者の剣術稽古と、ロコが魔法騎士団団長として育成している結果を出す時でござる……まぁ、そんな状況になる前にカタをつけなければならぬが……)
常に、拙者の行動の正しさを証明するように存在する土方殿を心に思い浮かべ、拙者は武道館に入り魔法騎士団に稽古をつけたでござる。
※
そしてその夜――。
ピンポン! ピンポン! と魔法研究所のインターホンが連打されるでござる。
だいぶ連打しているが、この夜にイタズラなのか故障なのか?
ミツバは魔法研究で疲れて寝ている為に出られない。
とりあえず、拙者が出るでござるか。
「ほーほー。誰でござるか?」
「ア、アオイさん! 大変です! スザク王国の王宮が!」
すると、朝に現れたスザク王国の緊急の使者が現れたでござる。
随分息をきらし、必死の形相でござった。
その兵の話によると、スザク王国の城下町が拙者の決戦服と同じ、浅葱色のダンダラ羽織の群れに襲われているらしい……!
(まさか……新選組!? いや、それしか考えられぬ!)
すぐに清流刀を腰に帯び、拙者はその兵を置き去りにスザク王国の城下町に向かい駆ける。
臍を円を描くようにくすぐり、無理矢理起こしたミツバは後から追いかけて来るでござる。
ミツバは臍が弱いでござるよ。
(しかし、まさかこんなに早く堂々と攻め込んで来るとは……まだ百鬼夜行を行う妖気は無いはず……何か切り札でもあるでござるか? いや、考えても仕方あるまい――)
そして、煙と悲鳴が上がり戦場となるスザク王国城下町に辿り着いた。




