スザク王国の宴会
タカスギ一派との戦いから一週間が経ったでござる。
この戦いは表立ってタカスギがスザク王国に対して戦線布告したわけではなく、あくまで退治された大妖怪ぬらりひょんのアジトと残りの妖怪達の討伐の一環として処理され、タカスギ達の行いは不問となった。
現在、タカスギ達はスザク王国の外交役として働いているでござる。魔王のような出で立ちで現れるタカスギの雰囲気と話しは他者を圧倒し、スザク王国に不利にならない外交政策をしている点が民衆にも認められ盆暗息子も成長したな……と国の者達も認めた。
ぬらりひょんの部下の妖怪達は新しくミツバを中心とした魔術師達と国王によって今はキリン都市と呼ばれる妖怪森に張られた結界の中で暮らす事になり、新しい紛争はなくなったでござる。流石に長く続いた戦争に妖怪達も疲れていたようで、ぬらりひょんが倒された事で安堵する者もいた。
実際は、タカスギなどが裏でぬらりひょんを操っていた事に関しては妖怪達には知らされず、もう人間は妖怪を襲う事は無いという人妖平和協定が結ばれ、妖怪達は広大な結界の森の中でひっそりと暮らしたでござる。そして、拙者は自室にて茶を飲み思案していた。
「……あの時、魔の森に入ろうとした時にあそこの結界を一部破壊したのは間違い無く新選組関係者の者。合傘に丸印の刻印がされた者は新選組の密偵がよく使っていたものでござるからな……」
拙者はこの異世界に存在するはずの無い新選組の面々を思う。
本当に新選組が存在するならば、今は何をしているのか?
という疑問が拭えない。
表舞台に出てこず、裏で新選組が活動しているとなると、明らかに不穏な動きしか感じられないでござる。それは元新選組隊士である拙者が一番よくわかる事だった。新選組が闇に潜んでいる時、日向にいる誰かが殺害される算段を立てているのは日常茶飯事でござるからな……。
「まぁ、考えても仕方あるまい。拙者に用があるならいずれ尻尾を出すでござろう。さて、今日の夜はスザク王国内での宴会。カツラ国王に貢献するでござるかな」
あまりカツラ国王個人には貢献しすぎると拙者の身が危ないので貢献したくない感情が働くが、拙者はやはり他人に貢献してこそ拙者でいられるでござる。なのでカツラ国王の好意を上手くかわしつつ、宴会の警備人として貢献するでござるかな。
※
スザク王国宴会――。
夜になり、スザク王国宴会が始まったでござるよ。
ざわめく群衆が楽しげに立食パーティーを楽しんでいるでござる。
豪華に彩られたパーティ会場は多くの人間で賑わい、スザク王国国王タカスギ・カツラ殿の開くパーティーは金にものをいわせたメニューそのものであり、キャビアやフォアグラなどの値が張るものを率先して食べる拙者はその味が美味とは思えず、普通の豚肉を中心に食事をしているでござるよ。
新選組の屯所でも西本願寺以降は豚や鶏を飼い、身体に力が付くものを食していたでござる。ミツバはと言うと、この宴会の料理をチェックし美味しいものがあれば自分でも作るといい会場全体の食品をくまなくチェックしている。
そしてその肉をポーションで胃に流し込む拙者は独り言を言う。
「この異世界でも同じ味を再現出来るでござるが、拙者はどうやら庶民派の味しか受け付けないみたいでござるな……ぬ?」
すると、パーティー会場のメインステージに華麗な衣装を身に纏う女達が現れた。
それにより会場全体が更に騒がしくなるでござる。
同時に、拙者に話しかけてくる一人のおかっぱ幼女がいる。
「ぬらりひょんを倒した英雄が一人で食事とは寂しいものロコ」
「ロコでござるか。拙者は無意味に持ち上げられたりするのは嫌いでござるから、一人でいるのがいいでござる。腰に刀を帯びていると、案外近寄ってこないものでござるよ」
生ハムメロンを大量に皿に乗せて妖怪幼女・ろくろ首のロコが現れた。現在ロコは、その実力でのし上がり魔法騎士団団長としてスザク王国の軍隊をまとめていたでござる。軍隊ブックで軍事の基本を学んだ成果も生かせているようだ。
「見て、見て。あのステージは凄いロコ! 金粉シスターズもいるロコよ!」
「ほう? 確かにそうでござるな。人間と妖怪の混ざったショーでござるか。これは確かに新しい時代が来そうでござる……」
ふと、拙者は過去の自分の世界を思い出す。
幕末の世から刀槍から鉄砲や大砲主流の戦になった。鉄砲はそもそも戦国時代からあったが、最も戦国時代を長く生き、徳川幕府を開いた徳川家康殿が武士の魂は刀である――という教育を日本の全藩に強制し、便利な鉄砲は卑怯とされ武士が見下していた足軽が持つものになったらしいでござる。その教育は二百年以上続き、日本の文化として根付き、徳川幕府方は鉄砲主体の官軍に遅れを取り敗退に次ぐ敗退を喫した。
(来るべき新時代……か)
「……ねぇ、アオイ? ボーッとしてるロコよ?」
ぬっ……とロコはまん丸の目を拙者に近付けて言った。
「あぁ、すまぬでござる」
「ステージを見るロコ! 面白い人がいる!」
「ほーほー、面白い人? どーれ?」
美しい美女達は華麗に踊り拙者の視線は釘付けになる。
桃色髪のツインテールのミツバが混じっているからであったでござる。
それを知るロコは自分の皿を拙者に渡し、
「ロコも舞いは出来るロコ!」
言うなりステージの方へ駆け出したでござる。
そして拙者の背後に紫の髪の雲が描かれる着流しの男が現れる。
そのロコの舞いを見てタカスギは笑う。
「ケケッ、愉快、愉快! ロコは中々の舞いではないか! それにお前さんの女も金粉シスターズに負けじと踊ってる。今宵は無礼講ぞ! 飲むべし、飲むべし!」
すでに出来上がっているタカスギは顔を赤らめながら酒臭い吐息で話し続ける。
この国は魔法で酔いは覚ませる為に、多少なら未成年でも酒は飲めるでござる。拙者も元の世界では元服という十五歳になってから成人の儀式をしているから酒はそれなりに飲めるが、あまりこの男の前では酔いたくないでござるのぅ……。タカスギは酒瓶を持ち、拙者にグラスを渡して来た。ここでこの嫌な笑みをかわす事は出来なさそうでござる。
「では、タカスギ。頂くでござる」
「飲め、飲め。アルコールなど酔う感覚がするだけで問題あるまい。この世界は酒に自由なんだ」
(この男、本当は酒に酔えぬ癖によく飲むものだ……)
拙者はタカスギから渡されたグラスを閃速で他のグラスと変える。
これ以上飲まされたら、新選組三番隊組長・斎藤一殿のように酔剣を使う事になりそうでござるからな。
そしてメインステージのショーが終わり、楽器隊が音楽を奏で始めるでござる。
「ほーほー……」
異世界の音楽は不思議でござるな。拙者の世界は三味線一本で歌を歌うのが主流でござったが、この世界は多数の人間が違う楽器を使い音のハーモニーというのを奏でているでござるよ。へっ……とタカスギは笑う。
「俺の太鼓の妙技を見せてやろうぞ」
言うと、雲が描かれる着流しを左右にもろ肌脱ぎになり、上半身裸になるタカスギは準備された太鼓の方へ向かった。
「ん?」
拙者は少し先のテーブルの下に隠れている人間が存在するのを知覚した。
(誰だ……? 拙者を狙う敵か……)
入れ替わるようにワイングラス片手に言い寄る女達から逃げていた金髪美女オネエ・カツラ国王はテーブルの下からひょっこりと現れた。
「カツラ国王。女にもモテるでござるか?」
「女など嫌いぞ! カツラちゃんはみんなの為の国王だよ? 色恋沙汰は大好きだけど、やっぱカッコいい男がいいな……」
そしてズズズ……と密着してくる。
「……近い。近いでござる。乳が当たるでござるよ!」
「ええじゃない! ええんじゃない! 無礼講! 無礼講!」
「ほーほー。確かに今は無礼講でござるが……」
拙者は呆れ顔で目の前の女装国王を見た。
カツラは拙者に甘い吐息を吹きかけ、膝をツツキながら言うでござる。
また、この漫才でござるか?
「アオイ……いいじゃろ?」
「駄目です。駄目でござる」
「じゃあ、唇だけでいいから」
「駄目です。駄目でござる」
「じゃあ指を舐めさせて」
「駄目です。駄目でござる」
「じゃあお臍をペロペロさせて」
「駄目です。駄目でござる」
「乳首をコリコリさせて」
「駄目です。駄目でござる」
「お尻をモミモミさせて」
「駄目です。駄目でござる」
「アオイー! 余を受け入れんかー!」
「尊敬する人物は男でござるが、拙者は男色の気は無いでござる」
カッ! と拙者は刀の鯉口を切る!
カツラ国王はそれにビビリ半泣きで退散したでござる。
悪霊退散!
いや、悪霊ではないでござるな。
まぁ、今はこれでよしでござるよ。
タカスギは拙者を見つめ、激しく太鼓を叩いている。
それを見る拙者はその無鉄砲な跳ねっ返り男に呟く。
「金と命を天秤にかけ過ぎて失敗するなでござる」
ドドドンドン! ドドンガドン! とタカスギの太鼓は更に激しく躍動し、踊り子達のリズムも加速する。すると、さっきまでメインステージで舞を披露していたミツバ来るでござる。
「アオイ! 私の舞見てくれた?」
「当然でござる。ミツバの舞が一番良かったでござるよ」
「やっぱそうよね! ミツバちゃんは最強よ! フォー!」
全く、このミツバには敵わぬな。
拙者が月でミツバが太陽。
本当に拙者はいい相棒を持ったようだ。
すると、カツラ国王から鉄鋼士のナベシマ・カンソウによる花火打ち上げが始まるとのアナウンスがされた。それに観客は夜空を見上げるでござる。
(……)
スッ……と拙者はミツバの腰に手を回し、見つめた。
花火が上がる瞬間の、誰もが視線を花火が咲くのを見る最中、拙者とミツバの影は重なる。
ドーーーン! パラパラパラッ……と夜空に花火は散り続けた。
「ミツバ、これからもよろしく頼むでござる」
「……うん! オッケーーーッ!」
二人は明るい夜空に明るい未来を希望し、見上げた。
そうしてパーティは深夜まで続いたでござる。




