闇の主 タカスギ・シンクウとの戦い3
二人の男はただひたすらに殴り合う。
その生々しい行為に悲鳴を上げる観客すらいない。
ミツバはいるが、血を吸った後の後遺症である睡魔に負けて寝てる為に声も出ない。
『……おおおおおおおおおっ!』
スザク王国では暴力行為は多少の事でも大袈裟に取り上げられる事が多く、人と人とが激しくぶつかり合わないこの世界の人間達にどこか弱さを感じていた。それが異世界から転生した俺が強いと言われる由縁でもあるんだろう。
「おい、タカスギ。お前中々根性あんな。そのダイヤモンドシリーズと盆暗煙管をもっと使えば俺を苦戦させる事は出来るはずだぜ」
「ケケッ。俺はお前さんの血を見たい……そして敵と理解し合うには拳で殴り合うしかない。スザク王国では国王の息子の俺はそれが出来ない以上、こんな堂々と殴れるなら戦いってのは愛の道標……って言ってもいいかもな!」
わけがわからねぇ……と溜息をつき俺はイラつくが、このタカスギは面白い男だという事は認めざるを得ない。武器も魔法も使わずただ己の身体で殴り合う――。
まるで肉体の限界を超える感覚の戦いは、互いのアドレナリンを洪水のように放出させる。
『うおおおおおおっ!』
バシッ! と二人の男は交差し、俺はは口から血の混じる唾を吐く。
そしてタカスギは右手のダイヤモンドアームを破壊され、驚きの顔をする。
「やってくれるな。一体どんな攻撃力してるんだ血ート野郎。興奮が止まらないぜ」
「バカ言え。俺の拳もだいぶ皮が剥けてやがるんだよ。痛いから次で終わらせるぜ」
「やっと剥けたのか? 俺は十の時にはズル剥けだったぜ」
「減らず口の多い奴だ。だが、それでこそタカスギ・.シンクウ」
サァァ……と二人の殺気が空気の流れを生み、破れた畳のカスを散らす。
いつの間にか、タカスギの腹心であるモンタにシュン、金粉シスターズに見つめられていた。
ふと、目覚めたミツバは金粉シスターズに支えられ壁にもたれて観察している。
俺とタカスギを見つめる観客は、この戦い最後の瞬間を息を飲んで待ちわびる。
そしてタカスギが全身の全てを込めた渾身の一撃に出るのを察した。
「行くぜ! タカスギ・シンクウ!」
「来い! アオイ・コウケン!」
『おおおおおおおおっ!』
二つの光の軌跡が和室の中央で炸裂し、ミツバのポニーテールを纏める赤い紐が解けた。
そして俺は肩と腰を正面から掴まれた
「ふぇ!?」
ぐるんっ! とそのまま空中で一回転させられ平衡感覚を失った状態になると、口を大きく開けて笑うタカスギは叫んだ。
「ひいいっさぁつ! タ・カ・ス・ギおろしーーー!」
ズガガガガガッ! と嵐のような勢いのスクリューパイルドライバーが叩き込まれ、畳に大穴が空く。その俺が沈む大穴に足が取られないようにタカスギはジャンプして背後に後退した。その和室に静寂が訪れる。そして、紫の髪をかきあげるタカスギは言う。
「……死んだか。タカスギおろしをくらって生きていた奴は今までにいない。やはり俺は肉弾戦も強いな……」
「今まで、弱い奴としか戦った事がなかったんじゃないかタカスギ?」
「生きてただと!?」
ボロボロになった浅葱色のダンダラ羽織を脱ぎ捨て、その下の藍色の着物も左右に脱いだ俺は多少痛む身体の状態を確認しながら言う。
「どうしたタカスギ? 肉弾戦じゃなかったのか?」
「サービスタイムは終わりだ」
タカスギはまた、盆暗煙管を持った。
今度こそ、最終ラウンドのようだぜ!
「俺が勝ったら貴様には、スザク王国の安定を保つ仕事についてもらう。いいだろうな?」
「いいだろう。俺はタカスギ・シンクウ。約束はそれなりに守る。決着をつけようぜ! アオイっ!」
タカスギは盆暗キセルに全ての力を込めた。
そして装甲の厚いダイヤモンドシリーズをパージして身軽になる。
(カウンターだ。タカスギの残り体力は少ないからカウンターで必殺技を発動させるはず――)
「ボン! ボン! ボボボン! ボンクラぁ!」
その気合は肉体の能力となり昇華され、タカスギは盆暗煙管の煙の全てを身に纏う五光観音姿に変化した。瞬間的に攻撃力も防御力も激増させるこの力をタカスギが得た事により、俺も全開の血ートパワーを発揮する。
「血ートパワー! フルバースト!」
「ぬうっ!? このタカスギおろしに対抗出来る力だと? やるな血ート野郎! 異世界血ート剣客ってのは伊達や酔狂ではなかったようだな!」
「へっ! 言ってろ!」
二人は笑い、互いの両足の地面が歪む。
完全に互角の力比べになり和室に叫び声が上がる。
充血する目をカッ! と見開いたタカスギは恫喝するように喚く。
「潰れろ! 潰れろ! 潰れろっ! 二倍の力だーーーっ!」
強力な重力を浴びたかのように、俺の身体は限界を超えるタカスギに押し潰されるように沈む。
そして、俺は今の限界を超えるように叫んだ。
「三倍だぁーーーっ!」
俺はタカスギおろしを逆にかけ、タカスギは和室に突き刺さり倒れる。
それをモンタやシュン、金粉シスターズは驚愕し、ミツバは弱くガッツポーズを取る。
それに俺は微笑んだ。
「さて、決着はついたな……ぬ?」
「……グフッ。やりやがったな血ート野郎」
何とか最後の力を出し、タカスギは立ち上がる。
そして、モンタやシュン、金粉シスターズが駆け寄る。
いつの間にか現れたろくろ首のロコがそれを制止した。
ケケッとロコに微笑むタカスギは言う。
「覇王武具を持って、一つ気付いた事がある」
「それは何だ?」
「この世界バクーフは他次元の歴史が流れて来る世界。他の時代からの歴史で成り立ってる妙な世界なんだよ」
おそらく、タカスギの言う事は正しいだろう。
この世界は探索すれば元の世界との繋がりがわかりそうだ。
この男に似た男、長州藩士高杉晋作なども明らかにこの男に似ている以上、元の世界とこの異世界は何かの関連性がある。もし、他の転生者がいるならば俺はその人物が悪にならぬよう、監視せねばらん。そして……。
(……ここでこやつを倒しても、歪んだ心だけは変えられん。こやつには信念があるからな)
「お前はこの世界の悪を退治する事に貢献してきているが、それが本当に正義だと思ってるのか?」
「少なくとも俺は信念を持って戦っている。剣にしか生きられぬ俺は、剣を持って他者に、世界に貢献する。それがアオイ・コウケンの生き様だ」
「ならば俺が貴様の貢献を無為にしてやる」
盆暗煙管の煙が、俺の頭上に雲のように浮いていた。
それは紫色に怪しく光る。
ズズズ……と、俺の身体が異様な重みを感じた。
「!? 重力だと?」
「煙幕重力。名の通り、これは重力の倍加だ。どんなにもがいても普段の半分のスピードでしか動けないぞ。死んでいけ異世界の棒切れ屋」
スッ……と匕首で腹を刺されるが、俺は血を流せば流すほど強いからさしたるダメージではない。
「俺は血が流れるたびに強くなるぜ」
「死に向かうたびに強くなるか。火事場の馬鹿力だな」
ズブッ……と更にタカスギは突き刺し、横に引こうとする。
重力の重さで、動くに動けない。
死が、背後に見えた――。
(……俺は負けるわけには――)
ふと、新選組の総帥である近藤局長との話を思い出した。
それは土方歳三さんの話だった。
「葵。歳は何故、剣才があるわけではないのに俺達に勝てると思う?」
「……わかりません。副長は副長だから強いとしか……」
「諦めないど根性があるからだ。それは狂気と言ってもいい」
「狂気?」
「剣術の試合で負けが続けば誰でも嫌になる。普通なら諦める所を、歳は諦めない。どんな手段を使おうが相手を殺してやろうと言う明確な意思がある。奴は自分が受けた屈辱は何倍にもして返す男。幼少から常に強者、逆境に挑み、打ち負かされても這い上がり勝つ。強き者は自分が強いという過信から倒した相手はいつまでも自分より下だと思うが、それを覆してくる歳に恐怖し、やがて負ける」
「……」
「腕かもげようが、足が無くなろうが、目が見えなくなろうが自分が生きている限り相手に喰らいつく鬼……故に、剣術で組長達に劣ろうとも、実戦では鬼の如く強いのだ」
「実戦で生き残る強さ……」
「天然理心流とは流派が違うとは言え、清流鬼神流も気組みで押して行く流儀。竹刀剣術と比べれは野暮ったいながら実戦になると強い流儀どうし上手くやろうではないか。葵にも、どこまでも諦めないど根性があるからな」
そうだ……近藤局長の言う通り。
俺にもそれがある。
だからこそ、新選組時代も数々の死線を生き残って来た――。
「俺には、どこまでも諦めないど根性がある!」
ズバアアアアアッ! と煙幕重力の重力の煙を、気合でかき消した。
切り札を破られるが、狂喜するタカスギは叫ぶ。
「血の力が回復した? まさか、本当に血を流せば流すたびに強くなるとでも言うのか? ケケッ! 最高じゃねーか!」
「俺には思いがある。この国に貢献する思いがな。それが俺の諦めないど根性と強さだ」
盆暗煙管の紫煙を吐き、肩で息をするタカスギは額の汗を拭い言う。
その瞳はやけに乾いているようで、輝きに満ちていた。
「想いで全てがかたずくか?」
「想いを持たぬ者に時代は語れない」
「そうだ。だから俺はこの世界を変革する」
「そこに誠はあるのか?」
「さぁな。なってみねぇとわからんぜ。曖昧なものだ。夢とはな」
「……会話は無用。決着をつけるぞタカスギ」
タカスギの腹心であるシュンとモンタは動く。
金粉シスターズも動いた。
すでにタカスギに残る力が無いのは誰の目にも明らかだった。
しかし、ろくろ首のロコは止める。
「これはタカスギさんの私闘ロコ! たとえタカスギさんが死んでも自分達の大将の闘いを邪魔してはいけないロコよ! 自分の大将が信じられないロコか!」
『……』
その一声で、腹心達は動きが止まる。
金粉シスターズにキャバクラで聞いたが、ロコはタカスギに助けられた妖怪。
元々身体が弱く、小さい為に妖怪の中でもバカにされた存在だった。
たまたま通りかかった所を助けたタカスギにとっては気まぐれだったが、ロコにとってはそんな事で割り切れる出来事では無かった。それからロコは剣を学び、タカスギの奇兵軍に入るまでになったらしい。
ロコの覚悟に武士道を感じた俺は、煙で分裂したタカスギの攻撃を回避する。
「清流鬼神流・無明朝夜」
流れる水のように、どんな状況や状態からでも回避する回避技。
全ての攻撃を回避し、俺は上空に飛び上がる。
その場の全員の目が俺に注がれ、勝利の女神であるミツバは微笑む。
「清流鬼神流・流星斬!」
そして流れる流星の一撃・流星斬を放ち、タカスギとの決着はついた。




