閃光玉になりたい3
この学校では、水曜日に、全ての授業終了後に体育館で集会を行う事になっている。
普段ならば絶対にサボるところなのだが、俺は珍しく出席していた。
「げっ」
俺が居るのを見て、分かりやすく隣に並ぶ予定の男子が、嫌悪感を表す声を上げた。
「ねぇ、何で今日はアンデットが居るの。居て欲しくないんだけど――――」
「知らいないよ、そんな事――――」
遠くの方からも、女子生徒達のそんな声が聞こえて来る。
だが、俺は気にせずに、ポケットに手を突っ込みながら、集会の開始を待った。
そして、ステージ下の袖側にある演台に教頭が経ち、全校生徒に気をつけの号令が掛かる事により、集会が開始する。
先ほどまで俺を噂していた女子生徒達は一瞬で静かになり、嫌悪感を表情に出していた隣の男子生徒も、こちらには目もくれず、気持ち悪いほど正確な気をつけの姿勢を作っている。
きっとここで俺が突然肩を組もうが、こいつは表情一つ変えずに、気をつけの姿勢を守り続けるのだろう。
これが、この学校の生徒の特長。
どこまで行っても従順で、教師の号令があれば全ての個性を捨てて、まるでロボットのようになってしまう。
今この体育館に居る生徒全員が、金属で出来たことを隠そうともしない、ロボットらしい人間…………いや、ロボットらしいロボットと化している。
俺も、退学を言い渡されるまで――――アンデットになるまで、こいつらと同じような機械じみた人間だったのかと思うと、思わずゾッとしてしまう。
でも、今の俺は違う。
――――今の俺は、輝かないシャボン玉ではなく、やかましいほど輝く閃光弾になる男だ。
「スー」
俺は意図的に、周りの人間に聞こえるよう、大きく息を吸った。
そして――――。
「ヨイショッ」
俺は飛び跳ねた。
当然、跳躍力は一般人のそれとは大きく違う。
俺は前に居る全ての生徒を飛び越えて行き、ステージ上に降り立った。
「絶景かな、絶景かな」
この俺の突飛な行いには、流石の無個性で無関心な生徒達も、気をつけの姿勢を破ってザワつきだし、俺の掟破りの行動に、最初は呆気に取られていた教師達も、段々鬼の形相になっていく。
俺は、綺麗に整列している一般生徒達を隅から隅まで見渡した。
こいつらには、今の俺がどう映っているのだろう。
出来れば、灰色の日常を走る、一筋の稲妻のように見えていて欲しいものだ。
誰もいないステージ上で、生徒のザワつきも教師の怒鳴り声も無視して、俺は演台のマイクを抜き取った。
「えークリアさん、見てるかね」
俺はマイクに声を乗せ、クリアを探す。
彼女の髪色が中々にド派手という事もあって、すぐに人混みの中のクリアを発見した。
やはり君は、周りのシャボン玉たちとは一味も二味も違うのだな。
「これが、それ相応の答え方ってやつだ。俺に任せれば、お前もこんぐらい輝けるぜ」
俺は、クリアを真っすぐ見つめて、言葉を投げかける。
そしたらクリアも、嬉しそうな笑顔で俺を真っすぐ見つめ返した。
「さあ、お前の提案に対する俺の答え、受け取れッ――――」
俺は力いっぱいに、クリアに向かってマイクを投げた。
マイクはハウリング音を鳴らしながら、山なりなどでは決してない、弾丸のような軌道でクリアに向かって一直線で飛んで行く。
生徒達のザワつきがより一層増す。
そして、クリアはそのマイクを難なく受け止めて、笑みを深めた。
「へへ」
そんなクリアの顔を見て、俺も思わず嬉しくて笑ってしまう。
「おいッ、そこのお前ッ」
ただいい加減、俺を叱るべく二人の教師が壇上に上がって来た。
「今すぐ生徒指導室に来いッ」
鬼の形相で、二人の教師は俺に接近してくる。
「へいへい」
流石に俺の実力では抵抗できないため、両腕を上げて、素直に従う事にした。
でも、そういえば、今の俺には頼もしい仲間が居るのだったな――――。
「桜君、僕に捕まって」
俺が飛んだ時と同等――――いやそれ以上に素早く、そして轟音を鳴らして、ステージ上にクリアが飛び乗って来た。
「オーケー」
俺はクリアが差し出してきた手を、今度こそ取る。
そして瞬きする頃には、なぜか俺は青空の中に居た。
空の中で、自由落下をしていた。
「ハハハ、スッゲェなお前」
どうやら俺達は文字通り、瞬きをする間に、体育館の天井を突き破って遥か上空まで飛んでしまったらしい。
「僕にかかれば、こんな特大ジャンプなんて、ちょちょいのちょいよ」
「ああ、ホントに」
この月面基地は、青空があるといっても全体がドーム状に囲われていて、空にも限りがある。が、きっとそのギリギリの高さまで、クリアは一瞬で、しかも俺も一緒に飛ばしてしまった。
クリアの力は本当に狂っているのだなと、身をもって実感する。
そして、こいつと一緒なら俺は輝けると、確かに確信する。
「これは、後でかなり怒られちゃうねっ」
「いいだろ。やりたいようにやって怒られるなら、本望だ」
例え怒られる事になっても、怒られるだけの価値があることを俺達はした。
後悔なんて、ある訳がない。
「桜君、これからどうする?」
落下しながら、クリアが俺に尋ねる。
「一つ、行きたいところがあるんだが、そこに連れて行ってくれるか」
「うん。いいよっ。どこに行きたいの?」
「本当は勝手に行っちゃダメな所なんだけどさ、でも俺は、特に理由はないけど、そこに行きたいって思うんだ。そこに行けば、ここよりも楽しい日々を過ごせると思うんだ」
俺の話を聞いて、クリアは不思議そうな顔で俺の事を見る。
「俺が行きたいのは――――地球だっ」
空に浮かぶ地球に向かって、俺は手を伸ばした。
「あの青くて真ん丸な星に行ってみたい。シャボン玉とは違って、色づいたあの美しい星に」
初めて、俺は他人に、夢を――――やりたい事を語った。
地球がどんな場所なのか、俺は知らない。
もしかしたら俺の想像とは違って、そこは汚くて、つまらない所なのかもしれない。
でも、それでも、機械のようじゃない、人間らしい人間たちが日々を営んでいるあの場所に、俺は行きたい。
あの場所で誰よりも、人間として輝きたい。
「クリアはどう思う」
「フ、フフフ――――」
突然、クリアは嬉しそうに笑い出した。
まるで、夢を見る少女のように。
「いいねっ。うん。凄くいいよ、ソレ。実は僕も地球には行ったことが無いんだ」
俺と同様に、クリアも地球に手を伸ばした。
「僕たちの二人の第一目標は、地球へ行くに決定!」
クリアは嬉しそうに笑いながら言う。
「ああ」
それに応じるように、俺も微笑んだ。
「くたばるその日まで、狂っちまうほど、面白おかしい毎日にしようぜ」
「うんっ」
俺たち二人は、高らかに笑い合いながら落下して行った。
輝く未来を期待しながら、落下して行った。
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