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街編 その2

この街にソレイルが現れてもう二か月が経った。

最初は怪しげな魔法使い、という視線も、今ではすっかり、あの変な魔法使い、へと変わって、馴染んでいる。

……俺は……なぜか、視線を感じることが増えた。

何か特別なことがあったわけじゃない。なのになぜか、誰かが、どこかから見ている……?

気になりつつも、今日も素振りのノルマを終えて、巡回の当番を交代する。

ソレイルは……よく、あの孤児院に居るらしい。どうやら子供たちに字を教えてほしいと頼まれて、今では先生先生と懐かれているらしい。

最近ではなんだか体調も良さそうで、少し安心している。

今日も……?孤児院の前に知らない人がいる。道端で蹲って、どこか怪我でもしているのだろうか!?


「大丈夫ですか!?」


膝をついて、目を合わせる。怪我を軽く治療する水の簡易魔法陣は携帯しているが、状態異常を治療する光の簡易魔法陣は持ち歩いていない……!

……ゆっくりと目の前の人が顔を上げる。

不思議な既視感があった。

全く似てなどいないのに、初めてソレイルに会ったときの表情が、ふと思い出された。


「貴方は……?」


問いかける男に、騎士であること、巡回中であることを告げ、医者まで肩を貸そうか聞いた。

男は緩やかに首を振り、


「場所を案内していただけると助かります。」


そう言った。俺は頷いて、立ち上がり……ふと、あの視線を感じた。バッと振り返る。不思議そうに小首を傾げる男しかいない。


「どうなさったんですか?」

「いや……」


気のせいか。違和感を無理矢理飲み込み、俺はゆっくり、手を引きながら、街の医者までその青年を連れて歩いた。


「申し訳ありません、お金を貸していただけないでしょうか……」


医者に着いたとたん、青年は、手を合わせて頼み込んで来た。


「もちろん!返すのはいつでも大丈夫ですよ!それより、気分は大丈夫ですか!?」


すぐに返答すると、なぜかびっくりされたようだった。なぜ……?


「その、いきなりの事で、持ち合わせが……」

「いくらですか?この金額までなら今手持ちが」

「あの!」


突然会話を切られて、少し驚く。


「あの……貴方、お人好しすぎるって言われませんか?」

どこかで聞いたような言葉で、少し笑ってしまった。

「大丈夫ですよ!お人好しすぎて悪いってことはないですから!」




「坊ちゃま、まだ様子をご覧になりますか?」

執事が問うてくる。

分かっている。あの騎士がお人好しだということくらい。むしろ、お人好しすぎて逆に怖くなり裏まで探ったが何も出てこなかったことも。


「もう少し……」


けれど、まだ信じきれない。家族の隠れた悪意が、表沙汰になった今だからこそ、心は揺れている。


「……時期を見計らって、僕から声をかけます。」


全てを守ることはできないかもしれなくても、せめて、少しだけでも。




「壊れちゃったの」

「壊れちゃったのか……」


割れた保温魔石を前に、俺とクロエは呆然としていた。


「結構高価だったのに……どこに修理に出したらいいのかしら?工業街?魔法街?」

「俺に任せろよ!」


両手から少し余る程度の割れた大型魔石を手に持ち、俺は自信満々にそう言った。


「魔法街はこの後行く予定だからさ!帰りに直ったやつを届ければいいだろ?」

「本当に?お願いしてもいい?私、今お店を離れられないの。」


クロエは困ったように盛況な店内をちらりと振り返る。


「かかったお金は後でお父さんが払ってくれるって!だから……お願いします!」

「そんなに言われなくても、任された!」


俺は意気揚々と鞄に大型魔石をしまい込み、魔法街へと向かった……



魔法街は、人と魔石と魔法陣と、わけのわからないもので溢れかえっていた。

謎の老婆が道端で壺を磨き、眼鏡の青年が箒になにやら魔法陣を固定し、気品ある髭の壮年男性が魔石をためつすがめつ眺めている。

巡回の為に何度か通ったが、いつ来てもよく分からない場所だ。

……その中で、見知った顔を見つけた。


「あっ!ソレイルじゃないか!よく会うな!」

「お前が勝手に俺を見つけて寄ってくるだけだろう……」


そうはいいつつも、前より雰囲気が気安い。少し、嬉しい。


「なんでお前こんな所に……巡回か?」

「いや、今日はこれを直せる人を探しに来たんだ!」


布に包んでいた割れた魔石を見せると、ソレイルはあからさまに顔を曇らせた。


「これは……直らないぞ」

「えっ?」

「普通はここまで魔力が空になる前に、補充魔石で継ぎ足すんだが……これはサボっていたな……」


聞いているうちにどんどん顔色が悪くなるのが分かった。大きな加工済み魔石は、そりゃあそれなりの値段がする。つまり……手持ちでは、買えない?


「コレは駄目だな。完璧に壊れている……どうした?」

「直して帰るって約束しちまった……どうしよう……」


そんな俺の声に対して、ソレイルが軽く息をついた。


「倒れた時の借りも返していなかったからな……お前の手持ちでどうにかなるようにしてやる」

「えっ……?本当か!?神様!」


ソレイルの両手を握りしめると一瞬で振り払われた。


「止めろ。近い。」

「それで?俺はどうしたらいい?」

「割れた魔石と同じくらいのサイズの魔石を探せ。無加工ならそれほど値段はしない。」

「けど、加工費ってバカ高いし、加工って炎属性しかできないって聞いたけど……」


それを聞いたソレイルは、ニヤリと笑って自分を指差した。


「お前の目の前にいる男が誰だと思う?炎属性、かつ、この数の魔法陣を改良、加工した男だぞ。」

ソレイルの杖に付いた魔法陣のストラップが、じゃらりと音を立てた。

「そんな魔石くらい、朝飯前だ。」



俺たちは、ソレイルの言う通り、無加工の大型魔石を探し始めた。……それでも結構な値段がするが、出せないほどの値段じゃない。

俺がソレイルに見せてはダメ出しを食らい、何度も見せているうちに腕が疲れてきた、その時。


「これだ。」


まだなんの刻印もされていない、普通の石にしか見えない魔石。魔力を通すと、透き通るのが不思議だ。

ソレイルは満足そうに頷くと、石を手渡してレジを指差した。行ってこい、と。


「ありがとな!ソレイル。これできっとクロエも安心する!」

「――その事なんだが。」


ソレイルの空気が変わった。


「魔石事故は魔法陣ほどではないにしろ、火事などを起こす場合がある。……その魔石の持ち主の知り合いに、メンテナンスはきちんとするよう伝えろ。」

「あっ……はい………」

「しっかり伝えろよ」


ソレイルのまとう空気がもとに戻る。


「次は工業街だ。ついてこい。どうせ巡回ルートだろう?何度も通った」

「道覚えるのに役立っただろ?」

「は?」


……またソレイルの周りの空気が冷えた……しばらく黙っておこう。

歩いて歩いて、次は工業街。

どこもかしこも金槌の音やなにかを叩く音、あるいは謎の爆発が起きている。……帰りに事情聴取に行こうかな……

ソレイルは迷わずその中の工房の一つに入っていった。どうやら店主とは顔見知りらしい。


「2時間だ。銅貨5枚」

「はいよ、2時間な」


奥の部屋に付いていこうとしたら、睨みつけられた。


「……加工は集中力が肝だ。2時間ひとりにしてくれ。その頃には出来てる」


……どうやら事情聴取のほうが先になりそうだ……



事情聴取が終わった頃には、空はもう紫色に近くなりかけていた。 慌てて工房へ戻る。

既にソレイルは奥の部屋から外へ出てきていた。


「……遅い。」

「ごめん!……それで……結果は?」


加工は学校を好成績で卒業した炎属性の高位技術だ。一瞬、不安がよぎる。


「問題ない。割れる前と寸分違わぬ働きをするものを作っただけだ……新しい魔石に刻むのは、疲れるな」

「良かった!これでクロエも安心できると思う!今日は本当に助かった!」


布に包まれた石を手渡され、大事にしまい込んで笑うと、ソレイルはふいと顔を逸らした。


「………借りは返したぞ!」

「気にしなくても……いや、本当に助かったんだ。返してくれて、ありがとう。」

「……変な奴め。もっと大ごとに使ったって良かったんだぞ」


今度は不思議そうな顔。今日だけで、なんだかずいぶんといろんな顔を見た気がする。


「やっぱり友達って大事だよな。」

「友達じゃない。」


……そこはまだ認めてくれないんだな……



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