醜悪の置き土産
――アハハハハッ!――
彼女は、その死より酷い体たらくの中、愉悦に蕩けた笑声を上げる…そのあまりにも異常な行為に、ドクターは否が応でも警戒心を掻き立てられ、彼女に目を釘付けにされる。
「――うん、うん…あぁ、満足した!…〝一度は〟♪――フフフッ、楽しかったわよドクター♪…でも、ちょっと〝詰めが甘い〟んじゃない?」
そんな彼の視線に、彼女はそう笑いながら…悪戯に染まった赤い視線をドクターに向ける。
「何を――」
その瞬間、ドクターは疑問に脳を働かせ…その卓越した知性で持って〝違和感〟を探り当てる。
「ッ――まさか…!?」
瞬間、焦燥が胸に満ち…ドクターが城壁から眼下を捉える…其処には…〝地獄〟が有った…。
――ゴプッ、ゴボォッ…‥――
ソレは、〝蠢き歩く死肉〟の大地…打ち捨てられた獣、人の死骸に根を張り、異形の頭部を持って彷徨い歩く〝肉塊〟達の世界。
「ミミッ、ミミミミッ…!」
「キィィ、キキキキキッ!」
「「「「※※※※※※――!!!!」」」」
其れ等が広がる〝地獄の中心〟には……〝大鴉の骸〟が有った。
「――クッ!」
「〝助けに行く〟つもり?…あぁ、それも良いわね―」
――ゴプッ!――
「〝此方の人間〟が、どうなっても良いのなら♪」
飛び立とうとするドクターに、私がそう語り掛ける…それと同時に、壁上に広がる〝死骸〟達が一人でに動き出し…その身体の傷跡から赤黒い触手を伸ばして立ち上がる。
「ッ…くそっ」
「――それじゃあ、楽しんでね?」
私は、最後に顔を顰めるドクターへそう言うと…遂に生命を使い果たし…意識を閉ざす…そして。
『リスポーンまで:あと29分――』
私は、暗闇の中に立ち…機械的な音声と共に網膜に浮かぶ〝タイムカウント〟を聞く…此処が〝待機所〟か。
「〝トレーニング・バトル〟――〝トレース:アルス・アスクレス〟…〝ボーナス:0〟…〝エリア指定:ランダム〟」
『申請受諾――〝対戦相手〟を生成します』
其処につくやいなや、私は暗闇にそう告げる…すると、時刻を表すだけだった〝声〟が、そう言い…黒一色だった世界は途端に陽の光溢れる森林に様変わりする。
――バサッ…バサッ…――
『……』
「ん…ん〜……さっきは随分追い詰められたけれど…〝万全な状況〟なら、どうなるかしらね?」
そして、私は尻目でリスポーン時間を確認すると…本物と同等の力を纏った〝AIドクター〟と、戯れの〝殺し合い〟を始めるのだった。
○●○●○●
防壁の上部で、苛烈な〝戦闘〟が繰り広げられていた…同刻…丁度、マオ・ディザイアが奇襲により、腹を貫かれていた頃。
――ザッ…ザッ…ザッ…――
「ハッハッハッ…とんでもねぇなぁ、〝あの女〟」
死肉と触手の化物が入り乱れる〝地獄絵図〟に、小鬼の男は楽しげに牙を剥く。
「――あの女は…クソッ、〝ドクター〟とやり合ってんのか…良いなあ畜生…俺も向こうの【指揮官】と戦いてぇ」
そして、その視線は…完全に戦線を崩壊させた〝人類陣地〟の奥…硬く閉ざされた扉へと向けられ…その男…〝シュテン〟は、己がやるべき〝仕事〟に…得物の〝棍棒〟を握る手に力が籠る。
「――その為にゃ、先ずは〝全員〟…〝街の中〟に叩き込まねぇとなぁ?」
――ブワッ!――
そう言い、シュテンが大きく息を吐き…そして、身体一杯に酸素を取り込んだ…その瞬間…シュテンの髪が逆毛立ち…全身の筋肉が膨張し…その体躯を、一回り、二回り大きく変貌させる。
「アァ…しまった…コイツじゃ小さ過ぎて殴れねぇか」
そんな変化を遂げたシュテンは、軽く身体を回しながら…己の手に収められた〝小さな棍棒〟に眉を顰める。
「流石に、こっから森まで走る訳にゃ行かねぇし……しょうがねぇ」
そして、シュテンは棍棒を軽く投げ置くと…その拳を固めて…閉ざされた城門の前に立つ。
「殴り飛ばして、ぶち抜くか」
――ドンッ!――
そして、地面を軽く踏み抜くと…シュテンの拳は空を引き裂く。
――ゴンッ!――
その一撃は、鉄で補強された城門を撃ち抜くが…その一撃では、城門はピクリとも動かない。
――ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ!――
2度目、3度目と振るわれる拳も、城門を軽く軋ませはするもののやはり城門は動かない。
しかし、その拳が振るわれる毎に…撃ち抜かれる衝撃は大きく、鳴り響く殴打の音は大きく強く成る…拳が退いて、殴りつける速度も加速し…城門も耐えきれず徐々に、その防壁に傷を付けていく。
――ドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッ――
「ウオォォォォォォォォォッ!!!」
鬼の雄叫びが、戦場に響く…その声と、放たれる殺気に聖獣達も気付き…シュテンの行動を止めようと動く…しかし、ソレを阻むように〝触手の怪物〟と〝魔獣〟が現れ…聖獣達はその数を更に減らして行く。
――ゴゴンッゴゴンッゴゴンッゴゴンッ――
――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!――
城門が目に見えて形を歪ませ…鬼の拳が更に突き進もうとした…その時。
――ズドォッ!――
「グゥッ――!?」
シュテンの胸に…赤く燃え上がる炎の槍が突き刺さる…その熱にシュテンは一瞬顔を顰め…その視線を〝攻撃者〟へと向ける。
『〝――〟』
其処にいたのは、少し離れた城壁の上から…持てる魔力を込めてシュテンを抑えようとする〝ドクター〟の姿…それと、ドクターの身体から放たれる魔力の量をシュテンは捉えると…その顔を悪い笑みに歪め…アークから視界を外し…〝城門〟へ向き直る…。
――ボッ!――
「――〝腕部強化〟…!」
そして、最後の駄目押しとばかりに…その身に詰まった魔力の殆どをその右手に集約させると…シュテンは、無根拠な確信を持って…迷いなく〝撃ち込む〟…。
――ゴッ!――
その一撃は、城門へ減り込み…その歪みは一際大きく刻まれる…しかし、それだけに留まらない。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!――
その一撃があまりにも強過ぎた為か、百を超えて振り下ろされた拳によって、蓄積した〝ダメージ〟が、駄目押しの一撃によって解き放たれ…その瞬間、城門は凄まじい土煙を上げ…〝吹き飛んでゆく〟…。
「――……」
その光景に、興奮しているシュテンは、一瞬何事かと呆け…遅れて実感する〝事実〟に、胸の奥を掻き立てるような感覚がシュテンの喉をせり上がる…そして。
「――ウオォォォォァァァッ!!!!」
荒々しき、悪鬼羅刹の咆哮と共に…〝西の城門〟は、その機能を喪った。




