城壁を撃ち破る者
ギリ2本目…やったぜ。
――リンリンリンリンッ――
鈴の音が、鳴り響く…其処は戦場、血と肉で満たされた地獄の釜口…死の縁が満ちた、その場所で、躍動する影が居た。
「――チッ!」
黒い挑発を靡かせた男だ、その男は血と肉で満ちた朱い大地を踏み、その手を一人の〝少女〟へと向ける。
「〝鈴の音色に気を付けろ〟」
――フワッ――
掴み取る、握り潰そうとしたその掌は少女に確かに触れた…しかし、その手が肉を掴むことはなく…黒髪を靡かせた男の手を抜けるのは、ただ湿気た〝霞〟だけ…。
「〝沼地の魔女には気を付けろ〟」
気が付けば、周囲に目に付く程立ち込めた霞は…その奥に不穏な影を産み落とし、鈴の音は相も変わらず鳴り響いていた。
――リンリン、カラカラ――
「〝鈴の音は、沼地の霊を呼び寄せる〟」
そして、再び…霞から響く歌声が…男の耳に届くと、それと同時に、男の周囲には凄まじく重い、幾つもの視線と…霧に隠れた〝人影達〟が男を囲んでいた。
「〝霊は魔女の従僕で〟…〝霊は生者を獲り殺し、その生命を啜り喰う〟」
「ッ…」
そして、霧の中から〝腕〟が伸び…霧の中から〝人影の本体〟が姿を表す。
――ウアァァァッ!――
ソレは、知性無く呻きを叫ぶだけの生命の残滓…魂の欠片、即ち〝亡霊〟の群れ…亡霊達は、一度姿を表すと…それから、その空洞の黒い眼に、男の持つ〝魂の輝き〟を映し…執拗に男に襲い掛かる。
――ドンッ!――
その瞬間、男はその場から姿を消し…それから、凄まじい音を立てて、地面に着地する。
「――ハァ……〝面倒〟だ」
男がそう言うと、立ち込めていた霧がいつの間にやら振り払われ…天井に空いた穴から差し込む陽の光が、すべての霧と亡者を焼き払う。
――パチッパチッパチッ――
その光景を独り…死骸の山から見下ろす様に…青白い肌のエルフの様な娘は、気怠げな目に感服をのせて男へ告げる。
「〝8回目〟の生還をオメデトウ…流石〝黒い孤狼〟…継続戦闘能力は超人的」
少女はそう言うと…自身の錫杖を持つ手を広げながら、黒い男をエメラルドの様な眼で捉える…そんな彼女へ、男は相変わらずの仏頂面でただ、己が見解を紡ぐ
「……〝相性が悪い〟」
「そう…私とアナタは〝最悪の組み合わせ〟」
男の言葉に、少女はそう言い己の錫杖に付いた鈴を振る。
「〝霊呼びの錫杖〟…このイベントの為に新調した星4触媒…効果は〝魔力を用いた悪霊の召喚〟…悪霊は物理攻撃無効で魔術攻撃手間のみ倒せる…300万z以上する上に、装備要項に知力と魔耐をB −以上必要と言う装備難度…その代わりに、〝悪霊生成〟のコストと性能は優れている」
そして、笛を鳴らすと共に…彼女はその身体から霞を戦場に放ちながら言葉を続ける。
「そして、〝水属性魔術〟と〝種族特性〟によって手に入れた〝惑わす水霧〟…コレが有れば〝霊体〟特有の弱点である〝日光〟を遮り、日中での行動攻撃も可能…ムフ、コレが完成されたビルド…ニャミィにも自慢する」
「……厄介だな」
再び、霧が立ち込めた戦場で…黒い男はそう呟き…更に、再び響く〝詩〟に、言葉を続ける。
「〝歌唱〟…〝詠唱〟の派生能力…〝詠唱による魔術効果の増強〟と、〝ステータス〟へのバフを付けている」
(自身の戦闘スタイルを絞り…余分を削った洗練された〝ビルド〟…厄介な相手だ)
その言葉へ、彼女からの返答はない、しかし返礼と言う様に…再び彼を人影達が包み込む。
「……」
(……このままイタチごっこに暮れるのは、戦局で見てもアウト…ジリ貧に成る前に、相手の残基を削りたい)
男の思考が高速で巡る…それと同じに、少女の〝攻撃〟は進み…男の思考は一つの結論に到達する。
(俺の〝物理攻撃〟は…奴には届かない……「だったら、仕方無い」
思考と音声が並列して言葉を紡ぎ上げ…己は迫り来る〝災い〟を前にそう、自らに結論を告げる。
「温存していた〝手札〟を切る」
その瞬間…男の身体から、凄まじい〝魔力〟が立ち上った…。
○●○●○●
――ヒュンヒュヒュヒュヒュンッ!――
「クソッ、猿かよコイツァ!?」
「――失礼、ね!」
迫り来る攻撃の全てを視界に捉え、交わし…聖獣達を処理して行く。
(〝魔術の飽和攻撃〟と言っても…基本の魔術は速度が遅く避けるのは問題無い)
所詮こんな物は〝反射神経テスト〟と変わらない…発射から着弾までが0.5秒も有れば最低限の回避は出来る。
――ガシッ!――
「グァッ!?」
「〝鳴きなさい〟…〝鶏の様に〟」
「グエッェッ…!」
――ボキッ!――
回避と同時に敵の首を締め上げ力を込める…すると、抵抗の力は消え去り…脱力した獣の死骸を地面に放り捨てる。
――ギンッ――
「さぁ、〝次〟は?」
『ッ…!』
その眼光と、血濡れた私の姿に聖獣達は後退る…此処で暴れ始めて数分…聖獣達は目に見えて数を減らし…其処は少しの人間と、数多の聖獣達の骸で満たされていた。
「次、次次次ッ――私に挑み掛かるのは、何処の誰?…空を舞う鷹?…大地を這う蛇?…鱗の生えた蜥蜴?…それとも人の英雄か?…さぁ次の〝獲物〟を寄越しなさい…そうでなければこの場にいる全てを一切合切〝殺し尽くすわよ?〟」
その骸を踏み付け、肉を食い千切り飢えを満たして叫ぶ…始めはあれだけ威勢の良かった聖獣達も、気が付けば躊躇が芽生え…私と聖獣達の戦局に、とうとう〝ドクター〟は痺れを切らして私の前に立ちはだかる。
「――仕方無い…こうも容易く蹂躙されるのは予想外だが…諸君、作戦変更だ…〝彼女〟は私が抑える…君達は〝敵兵力の殲滅〟と〝冒険者の支援〟を」
「ッ…了解!」
そして手早く行動を指示すると、その後…深い溜息と共に全身から〝虹の魔力〟を醸し出し…その眼で私を睨む。、
「さぁ…もう殆ど空な〝魔力〟で私を倒せるかな?…レディ?」
「――勿論、〝生きているなら誰であろうと殺せる〟わ…捕まえて羽を折ってその羽1枚1枚引き抜いてやる♪」
その視線が私一人へ集中しているのを感じながら私は彼へそう言うと…その刹那放たれる無数の属性の魔術の嵐に、私は単身で飛び込んだ。
「――そう言うのなら、やって見せるが良い!」
「〝上棟〟!」




