姦しき欺瞞
――ガヤガヤガヤッ――
騒がしい街道を…独り歩く…人の声と気配が私を囲み…その全てに私は、染み付いた憎悪が腹の中で渦巻くのを感じる。
「…」
ソレを、心の内に押し留め…街の中から、周囲を観察する…その目的はズバリ――。
「あの、大丈夫ですか?」
「んん?…あぁ、何だ嬢ちゃん」
〝人助け〟の為だ…とは言え、ソレが彼らの為と言われると、私は首を横に振るだろう。
――ジッ――
1匹、2匹、3匹…後を付ける三毛猫が、物陰を這い進むネズミが、空から覗き見る鷹が…私を監視している為だ。
「いえ…少々顔色が悪そうなので…体調が悪いのですか?」
「ん…あぁ、いや…ちと風邪でな…教会で治療してもらうために来たんだが…気分が悪くなって休んでた所だ…」
「そうですか…ちょっとすみません」
私は街道の脇道に腰を下ろしている顔色の悪い冒険者にそう断りを入れながら、魔力を流し、彼の肉体に〝呪い〟を掛ける…すると、その変化に気付いたのか、彼は顔の血色を良くして立ち上がり…驚いた様な言葉を紡ぐ。
「驚いた…こいつぁ、随分と身体が軽くなったな…頭に張り付いた痛みも嘘みたいに消えちまったぜ…!」
「――ただ、魔力で全身を軽く強化しただけですよ…飽くまで一時的な作用なので、今の内に教会に行って下さいね?」
そんな彼に私がそう言うと、彼は私をじっと見つめ…それから私へ感謝の言葉を紡ぐ。
「おう、有り難うよ嬢ちゃん!…この礼はまた今度するぜ!」
「いえ、お気になさらず…お身体にはお気を付け下さいね」
その言葉を、私はそう言い流すと…彼と別れると、再び街の中で起こる様々なトラブルに介入していく。
――ドサドサドサッ――
荷運びを魔術で補助し。
――ギュッ!――
往来で小競り合いする馬鹿な冒険者達を諌め。
――キィィンッ――
街の人混みに紛れ〝スリ〟を働く犯罪者を拘束し衛兵に引き渡し…街の小さなトラブルを解決してゆく。
(……監視が着いた状態では、表立った行動は難しい)
加えて、マオさんと連携を取ることも出来ない今…私が出来ることは〝人間〟と協力し…何れマオさんが引き起こす人と魔物の戦いまで、人からの信を得る事、それしかない。
(マオさんは…今、何をしてるのかな…)
そうして、適当に街をふらついていた…その時。
――タッタッタッ!――
「キュピッ!」
「待って〜!」
「……ん?」
不意に、私の背後から…そんな声が聞こえ…振り向く…すると。
街道の人混みを裂きながら、小さな獣と一人の少女が此方へ向かって駆けてくる。
「ッ……!」
――ヒュッ――
「キュィッ!?」
その姿を見た、その瞬間…私は誰よりも早く、風の魔術で街を疾走する角兎を拘束する。
「――ッ…大丈夫ですか?」
そうして捕らえると、角兎は助けを求める様に背後に居る少女に悲痛な鳴き声を上げる…その声に少女は肩で息をしながら、角兎に手を伸ばし…両手で抱き締めると…私へその顔を見せる。
「はぁっ…はぁっ…ありがとう〝お姉ちゃん〟!」
その子は…私よりやや幼い位の背をした少女だった…服装は何処にでもある麻で出来ただけのもの、特別目を引く者は無く…何処にでも居る普通の女の子の様だった。
――ジッ――
その、艶のある黒髪と…深紅に輝く眼さえなければ。
「もう!――この子ったら急に飛び出して言っちゃうんだから!」
「きゅうぅ…」
彼女は、自身のペットにそう叱責の言葉をかけると…それから私の瞳に目を合わせながら自己紹介を始める。
「私は〝アリス〟!…この子は〝カーバル〟!…貴女は?」
「ッ……私は…〝レイナ〟よ…宜しくね、アリスちゃん」
「うん、宜しく!」
彼女の勢いに釣られて、私もそう自己紹介をすると…アリスはまるでこの世の穢れを知らないかの様な、純粋な笑顔を浮かべて私の横に着いて、歩き始める。
「レイナちゃん、今暇?」
「え?…うん、まぁ…暇だよ」
「だったらお話ししようよ!…私、こうしてお友達と話すのは久し振りなんだ〜♪」
少女…アリスがそう言い話し始める…その余りにも自然な雰囲気に、私は一瞬…自分の考えが外れているのかと悩む…しかし。
――ジッ――
そんな私を見透かす様に、アリスの視線が私を貫く…ソレと同時に身体に走る〝視られた〟感覚に…私は、自身の考えが合っていることを理解する。
「ねぇレイナちゃん!…レイナちゃんは〝お友達〟は居るの?」
歩きながら…アリスがそう聞いてくる。
「ッ……はい、居ますよ…とても大事な〝友人〟が、1人だけ…」
「へ〜…そうなんだ――私もね、昔住んでた街に大切な友達が1人居たんだよ!…その友達も、レイナちゃんみたいに魔術を勉強してたな〜!」
「へぇ…だったら、何時かその友達と会ってみたいですね」
「えへへ、私もまた会いたい!…きっとレイナちゃんとも気が合うと思うよ!」
子供同士の話に花を咲かせながら…私と彼女はどんどんと人混みを進んで行き…そして、広場のベンチに腰掛ける。
「――ねぇ、レイナちゃん!…レイナちゃんは今、〝何をやってるの?〟」
「ッ…えぇ、冒険者…の様な事をしていますね、今は冒険者ギルドの人達とある〝事件〟を追っている最中です」
「へ〜…凄いなぁレイナちゃん」
「…アリスちゃんは、〝何をしてるんですか?〟」
「私?…私はね〜…最近出来た友達の誕生日〝パーティー〟の準備!…〝色んな友達〟を呼んでお祝いするんだ♪」
一見すると年頃の少女の歓談に見える…しかし、その言葉の随所に隠された〝メッセージ〟の共有が…この歓談を欺瞞に変える。
「――良かったらお姉ちゃんも来てよ!…私の〝友達〟なら、きっと他のお友達も仲良くしてくれるよ♪――はい♪」
そんな、見せ掛けだけの歓談が一段落した頃…アリスはベンチから立ち上がると、その手から小さな指輪を取り出し、ソレを私に差し出す。
「…コレは?」
ソレは一見すると、奇妙な文様を刻んだ木の指輪…アリスはソレを私に贈ると、ペットの角兎を抱えて私へ返答する。
「私の〝お気に入り〟!…コレが有ると私のお友達にも、貴女が私の友達だって事が伝わるから、持ってて!」
そう言うと、アリスは正午の鐘が鳴るのと同時に駆け出し…去り際に私へ告げる。
「〝領主館〟の近くに私の家があるから!――絶対に来てねー!」
そしてまた、人混みの中に駆け込み消えてゆくと…私は再び独りになる。
――ギュッ――
その手に…〝アリスからの贈り物〟を握りしめ…そして、私は確かな足取りで、自身の宿に向かう…。
人も獣も…冒険者も魔女も…皆が其々の目的を持って、ニュートの街で活動する…。
――カチッ…カチッ…カチッ…――
〝来たるその日〟を…待ち侘びながら…。




