舞台仕掛けは公平に
3本目が出来た…出来たぞぉ。
「――駄目よ駄目駄目駄目ッ、折角計画してた第一イベントがこのままじゃ御破算じゃない!」
――バンッ――
〝ケイオス・ドリーム社〟…〝E&M開発運営部門〟…その管理室の中で…5人の幹部職員が白熱の議論を交わしていた。
「んなこと言ったってしょうがねぇだろ柏原ァ…プレイヤーが企画した作戦が此方の企画と被っちまったんだ…オマケに向こうは独力で組織構成を作って計画もちゃぁんと練ってんだ…〝此方のイベントが二番煎じになるから中止してくださ〜い〟…なんざ、プレイヤーが納得しねぇ…どころか俺がぶん殴るわ」
――ガタッ!――
「でもでもだって!…このままじゃ1大イベントだからって入念に練り込んだイベントがパーじゃない!」
「……でもまぁ、実際プレイヤーを止めるのは難しいよねぇ…〝弱肉強食のファンタジー世界〟がテーマだから…奇襲に裏切り何でも御座れだし…それで片方が不利になっても仕方無い…けども」
とは言っても、明確に否を唱えているのは1人の女性職員…〝柏原令子〟だけであり、他の面々は思う事が有れど、険しい顔をしているだけ…なのだが。
――ズズズッ――
「ふぅ……しかし、見れば見るほど、〝練られた作戦〟だな…(ブツブツブツ)」
「……ねぇ〝藤崎〟…状況分かってるの?」
「ん?…あぁまぁ…皆さん状況打開に苦労してる様で」
そんな5人の中…1人の男だけは、呑気に茶を啜りながら画面に映された〝映像〟を眺め観覧している…その態度が気に障ったのか、柏原と名を打った女性はジトッとした目で男を睨み、言う。
「――だったらアンタはどうなのよッ、このままじゃ頭を抱える事になるのは貴方も同じなんだからね!?」
「ふん……まぁ確かに…とは言え、そう焦る事ですかね?」
「ほぉ…なら、何か手立てが有ると?」
藤崎と呼ばれた男は、柏原と言う幹部の問いにそう答える…すると、他の幹部達もその言葉に頭を上げ、藤崎へ視線を集めると…藤崎は一瞬、面倒な事を口走ったと言う風にげんなりとした様子を見せるが…直ぐに諦め、肩を竦めて皆へ言う。
「〝彼女〟…〝マオ・ディザイア〟と言うプレイヤーが構築した作戦は、高い完成度を誇っています…この作戦をそのままおじゃんにするのは勿体無いでしょう」
「…〝イベントに組み込む〟…か?」
「でも、それじゃ彼女等にとって〝敵の不意を突く〟と言う唯一にして最大のメリットが潰れるのでは?」
「ただでさえ、彼女等は聖獣側のプレイヤーに追われているものなぁ…此処で聖獣に〝時間の猶予〟をくれてしまえば…それこそ彼女の計画が破綻するのではないか?」
藤崎の言葉に、柏原以外の幹部達が賛否の意見を語る…だが、ソレに対し藤崎は首を横に振り、他の幹部の発言に否を告げる。
「逆ですよ逆…〝マオ・ディザイアの作戦を中心〟に、構築するんですよ…彼女の〝作戦〟を〝イベント〟にすれば良いじゃないですか」
「「「ッ!?」」」
その言葉に幹部達は一瞬様々な思惑を交錯させ、柏原は藤崎へ疑問を飛ばす。
「それは…〝可能〟なの?」
「其処は彼女と〝交渉次第〟では?…兎も角、此処であーでもないこーでもないと言い合っても始まらないでしょう…他に案が有りますか?」
「……無い、わね」
「では決まりで…そうと決まれば、早速〝修整案〟を考えましょう…〝事象記録〟の自動生成イベントの構想を探せば良さげな物も見つかるでしょう…後はソレを〝イベント〟に落とし込めば良い」
藤崎がそう言うと、周囲の職員達が騒がしく動き始める…幹部達も皆示し合わせる様にコンピュータを操作し、其々プランを練っていく…その光景を見ると、彼は一息付き…そしてまた、己の趣味と作業に戻るのだった――。
○●○●○●
「―――まぁ、まさか〝お前が主導したんだから交渉はお前がやれ〟…と、面倒事を押し付けられるとは思いませんでしたが」
「御愁傷様ね…色々と」
長い長い回想をへて、そう言う藤崎の溜息に…私は呆れと同情の言葉を掛ける…まぁ、経緯は理解したけれど。
「――まぁ、それはそれとして…それで?…差し当たってそちらの要求は〝私の作戦のイベント化〟と…聖獣側への〝猶予の設定〟って所かしら?」
私が藤崎さんへそう問うと、彼は頷いて説明を始める。
「はい…具体的には〝イベント〟として、幾つかのギミックを設ける事…そして、〝イベント準備期間〟として〝2週間〟の猶予が欲しい…と言うのが運営側の要求です」
その取引内容は、つまるところ〝運営主導のイベント〟として〝公平性〟を持たせたい…〝2週間の準備期間〟は〝聖獣側〟への備えの時間と言う所でしょうね。
「――成る程…良いわよ?…その〝条件〟を受け入れて上げても」
私からすれば、この状況に否を唱える必要は無い…イベントとして〝公平性〟を付加すると言うことは、此方として最悪のケースだった〝一方的な勝負展開〟が起こり辛いと言う事だ…とは言え。
「……無論〝タダで〟…とは言わないのでしょう?」
私の考えを見透かした様に、藤崎さんはそう投げ掛ける…勿論、この譲歩は〝タダ〟とは行かない。
「えぇ…作戦の大幅延期は〝参加者〟に相応の〝対価〟を与えなければならないもの、〝魔獣側〟に有利なイベントにしろ…とは言わないけれど、〝此方側〟に多少便宜を図ってもらわないと呑めないわね」
「では、何が良いでしょう…猶予期間中…魔獣側の獲得経験値を175%…聖獣は150%ではどうです?」
「ん……それプラスでもう一つ欲しいわね……そうね…」
藤崎さんとの協議に、私も案を考える……現状で…魔獣側のプレイヤー全員にとって不足している物…ソレは。
「……ねぇ、〝こう言う事〟は出来るのかしら?」
「拝聴しましょう」
私は、ふと思い付いたその〝考え〟を藤崎さんへ伝える…その内容は余りにも突飛で…流石に厳しいだろうと思っていた…のだけど。
「――成る程、ソレは良いですね…えぇ、はい…〝可能〟です」
「……マジで?」
藤崎さんは、私の案に悩む間もなく肯定を示し…そのあまりに早い承認に…思わずそんな驚愕の声が漏れるのだった。




