夕闇の包囲網
――ギリィィンッ!――
「――ッぶねぇ!?」
「ッ――チッ」
襲撃者の魔の手がレイナを掴もうとした瞬間、寸前で間に入った冒険者の剣戟が、その手を振り払う。
「アルフレッドッ!」
「おう、噛み殺したらぁ!」
仰け反る襲撃者に対し、冒険者と犬の聖獣が連携し飛び掛かる…その牙が襲撃者の喉笛へ迫ったその時。
「――フフッ♪」
――ググッ…ボキボキボキッ!――
襲撃者は自らの足を異常な程捻り、無理矢理体勢を整え、その場から飛び退く。
――ガシッ!――
「ギャンッ!?」
飛び掛かる犬の、その首を掴み上げて。
――ザザァッ――
「う〜ん、惜しい惜しい…実験には〝人間〟を使いたかったんだけどなぁ……でもまぁ、〝聖獣〟は〝聖獣〟で…試すには良いか」
互いに距離を取り、襲撃者はそう言いながら自身の手に掴まれた聖獣に顔を向け…腕に〝魔力〟を込める。
――ボコボコボコッ――
「ッ…!?」
すると、襲撃者の手は異常に膨れ…その瞬間、肉々しい触手の様な〝ソレ〟が…聖獣の口から、目から、鼻から脳に侵入する。
「――ガゥッ、ガッ…ギィッ…ァッ〜〜〜!?!?」
「テメェ、ソイツを離せ――!」
異物の侵入に、聖獣は悶え苦しみ身体を暴れさせる…その異様な光景に冒険者は怒りと焦りで冷静さを失くし…襲撃者へと突き進む…しかし。
「――ッ…ロ…ニゲロ――〝フリューゲル〟!」
聖獣がそう叫び、彼を諭したのも最早遅く…その瞬間…聖獣の身体は一際強く跳ねると脱力し…手を離されると、無慈悲に地面へと落下する。
――ドサッ!――
「ッ……アルフレッド!」
ソレはピクリとも動かず…完全に〝死んでいた〟…しかし…そんな死骸の頭部に満ちる不穏な魔力が、その肉体全域に渡った時。
「〝起きなさい〟…私の可愛い〝息子〟」
その肉体に…異形の華が咲き開いた。
●○●○●○
《新たな【能力】を獲得…〈眷属作成〉を獲得しました、〈変形〉に統合します》
《〈変形〉のレベルが上がりました!》
――ゴポッ、ゴポポッ――
音を立てて、〝聖獣の死骸〟と融合する〝己の一部〟…ソレに伴い脳に響くアナウンスを聞いて…私は自身の試みが成功した事を悟る。
「起きなさい…私の〝息子〟」
完全に魔力が肉体に染み付いたのを確認し、私がそう言うと…その声に反応して〝その子〟は自身の身体を動かし…立ち上がる。
〝眷属〟…ソレは、自らの肉体を…自身の命の欠片を与える事で作り出せる〝己の子等〟…。
ベルゼが生成する〝蟲〟から着想を得た…私の〝新たな戦力〟…。
――――――
【無名】〈能力制限〉
【触魔の眷属(戦犬長)】LV15/20(LV27/30)
HP:2100/2100(4200/4200)
MP:1800/1800(3600/3600)
満腹:32%
筋力:D(C)
速力:D(C)
物耐:D(C)
魔耐:F+(E+)
知力:F+(E+)
信仰:F−(F−)
器用:E(D)
幸運:G(F)
【能力】〈寄生により初期化〉
〈鋭牙〉、〈鋭爪〉LV1/10、〈嗅覚強化〉LV1/10、〈指揮〉LV1/10、〈気配察知〉LV1/10
【称号】〈寄生により称号消失〉
〈マオ・ディザイアの眷属〉、〈下級眷属〉
――――――
〝寄生〟…〝眷属化〟である。
「――〝人間を殺せ〟」
自身の眷属をけしかけながら、私はレイナと、彼女と共にいる冒険者へと迫る。
「〝―――ッ〟!!!」
甲高い叫び声を上げて眷属は冒険者へと肉薄し…その触手から、無数の骨の歯を作り出しその触手を巧みに行使し敵を追い立てる。
「グッ…コイツ…!」
「〝―――ッ〟!!!」
――ザンッ!――
「ッ〜〜〜!?!?」
「ッ――この程度なら!」
とは言え、流石に生まれたばかりの眷属では攻めあぐねるか…二人の攻防は刹那逆転し、冒険者が果敢に眷属へと迫る…。
――ギンッ!――
だが、その剣戟が私の眷属を切裂くことは無く…振り抜かれた剣戟は、私の異形の腕によって抑え込まれる。
「〝残念〟――そう簡単に殺させないわよ?」
「ッ――しま…!」
この攻防に私が入ってくるとは思わなかったのか、彼は驚き…私の攻撃へ対応を遅れさせる…その隙は大きく、ソレを見逃さず…私は彼へ追撃の拳を振るう。
――ブンッ!――
振るわれた拳が目指すのは、彼の頭部…その頭部に私は魔力を込めた掌を差し向け…彼にもまた、眷属の〝苗〟を植え付けようとする。
「ッ……!」
ソレが分かったのだろう、彼の目にも明確な恐怖が浮かび上がり…その目は私の掌を捉え離さない…。
敵が恐怖している…だからといってこの掌が止まるはずもなく…私の手が彼を掴もうもした…その時。
――ゴォッ!――
「「「ッ!?」」」
刹那…もつれ合う私達の間に、〝高密度の魔力反応〟が突如現れ…瞬間、暴力的な熱波と衝撃が敵味方の区別無く放たれる…。
――ザザザァッ――
「〝――〟…〝―――〟…!!!」
「ケホッケホッ…やってくれたわね…!」
黒煙が私達を包む中、焼け焦げた腕と胴体を修復しながら…私の視線が彼女を睨む…同じく腕と胴…そして、顔を大きな火傷で覆った瀕死の冒険者を抱える、魔女レイナを。
「でも、コレでアナタの盾は居ない…仕留めるチャンスね!」
その姿を捉え、私は再び彼女を仕留めようと異形の腕を使い肉薄しようとする…しかし、まさにその瞬間…私は頭上から感じる殺気に、その場から飛び退いた…その行動から僅か数秒と経たず…空から――。
――ズシィィィンッ――
〝夜〟が降ってきた…。
「……怪我は?」
「ッ…私は無傷です、この方は重篤です、早く治療を…!」
現れた褐色肌と黒髪の男はその金の瞳でレイナを見捉え…それから、彼女の腕に抱かれる男を見据える。
「…〝アーク〟」
状況を把握すると、彼はその名を呼び…それから、凄まじい魔力を周囲に吹き荒らす…その高ぶりに連鎖して。
「――あぁ、任せてくれ」
「…それじゃあ我々は〝彼女の捕縛〟を優先しようか…ヴォルフ君」
――ドッ…ドッ…ドッ…――
凄まじい魔力の塊達が、一瞬にして私を包囲した…。
「さぁ、〝降参〟するのが身のためだよ…レディ?」
「……時間を掛け過ぎたかしらね」




