魔獣会議
本日の投稿!…2本目は0時前後に成りそうです。
――カチャッ、カチャッ――
「〜〜♪」
鼻歌交じりに、彼女は茶器と茶菓子を用意する…その姿はまるで人の様だが、彼女の背を見る4人の〝魔獣〟達の…その強張った目を見れば、〝彼女〟が彼らにとってどういう存在なのかは凡そ見当が付くだろう。
特段魔力が突出している訳では無い、ステータスも決して低くはないが、彼等より抜きん出ていると言う訳でもない…しかし。
――コオォォォッ――
洗練された魔力の流れが。
――コッコッコッ――
研ぎ澄まされた身体の操作が…彼等四人に、無意識の圧を与え…彼等に〝勝てない〟と言う潜在的な〝戦力差〟を見せ付けていた。
「――お茶をどうぞ♪…安物だけど、レイナ…私の契約者の子と一緒に選んだ上質な物よ…茶菓子は、余り物だけどね」
「にゃぁ…にゃんか、思っていた会議と違うにゃ、ね?」
「応…祭りの規模的にもっとカッチリしてるかと思ったが…若干肩透かしだぜ…いや、悪くねぇがよ」
そうこうとする内に、黒髪の美女が両手に〝おもてなし〟の数々を持って、彼等の集まるテーブルへ移る…そして広げられるお茶会の様相に二人が思わずそう呟くと、黒髪の美女は何食わぬ顔で二人に言う。
「――変に気負われて、肝心な所でガス欠は困るもの、ソレに…ちゃんと計画の内容は伝えるし、貴方達に任せる役割もしっかり説明するから、気は緩めすぎないようにね」
そう言うと、彼女は自身の頭髪を粘性を帯びた赤黒い触手に変えて…ソレをテーブル横に設置された〝タスクボード〟に向けて差し向け、地図を一枚、ボードに張り付ける。
「――それじゃ、早速本題ね…先ず、この計画の大まかな目的は…〝街の人間を鏖殺する事〟よ、オーケー?」
そして、彼女は説明を始めながら適宜彼等へ理解の共有を確認し、話を進めてゆく。
「で、この襲撃での貴方達の役割は〝街の包囲〟と〝木っ端聖獣達の足止め〟…貴方達は〝兵士〟を率いて包囲と〝城壁突破〟を目指して欲しい…城壁を打ち破れば〝指揮官〟としての役割は終わり、貴方達は出来るだけ兵的損害を減らしつつ、コレを成し遂げて欲しい」
「――城壁を破った後はどうするんだ?」
そして、説明を続ける彼女へ…不意にファニルが疑問を紡ぐと、彼女はその疑問に頷きながら、ファニルへ視線を合わせて答える。
「〝兵士達〟には冒険者や木っ端聖獣と戦わせる…貴方達は兵士だけじゃ相手にならない〝中堅層〟を処理して欲しい…コレには私も参加する」
「成る程…んじゃも一個疑問だ――」
その問いにファニルはそう頷く…しかし、その疑問だけに留まらず、彼は手元の〝資料〟から一つを皆に見えるように開き…彼女へ問う。
「今ニュートの街にゃ〝聖鴉アーク〟、〝虹輝のアルス〟、〝影狼ヴォルフ〟…βテスターの中でも厄介所な〝聖獣〟達が屯してるが…コイツ等をどう処理するんだ?…流石に俺達じゃちと手に余るぜ?」
そう紡がれた、その問いに彼女が口を開こうとする…だが、その瞬間。
「『〝問題無い〟』」
そう紡がれた言葉と、其処から漏れ出すドス黒い魔力の放出に…其処に居た4人は途端に顔を焦りで強張らせ、その場を凝視する。
「貪食の…」
「ベル…ゼ……!」
其処には、1人彼等とは離れた場所に自ら豪奢な席を設け、片足を組んでティーカップを傾ける〝高慢さ〟を隠そうともしない、貴族風の装いをした男が居た。
「その3匹は我と其処の小娘が相手をする、貴様らは何も考えず作戦通りに動けば良いのだ」
「あら、来ていたのミスター…アナタを此処に呼んだ覚えは無いのだけれど…それと、身勝手に来た挙げ句私の部下として動くメンバーの心象に悪影響を与えないでくれるかしら?…その内殺すわよ?」
「フンッ貴様如きに我を殺せるものか小娘、自惚れるな」
男と美女は、強張る4人を尻目に軽口を言い合う…そして、美女が折れたのだろう、面倒臭そうな溜息を吐きながら、周囲の魔力を散らして、4人を落ち着かせる。
「……ハァ、面倒だけどもういいわ…皆も座ってちょうだい…一応、〝アレ〟が私達の〝大将〟…厄介な連中にぶつける〝切り札〟ね…それと、一応〝私〟も…場合によってはベルゼと一緒に〝主力聖獣〟と戦うわ…幾つか策も用意してるから、貴方達の方には行かないよう対処するけど、戦場が戦場だけに出くわしたら即退散…リスポーン出来るとは言え、此方の主力戦力が抜けるのは痛いから、死にそうになったら退いて回復を徹底して、良いわね?」
美女がそう言うと、4人はチラチラとベルゼと呼ばれた男へ視線を向けながら頷く。
「結構…それと、恐らく襲撃時に街の外縁から敵の矢や魔術が飛んでくると思うけど…暫くの間耐えてくれれば、此方で邪魔な敵は処理するわ…それも〝兵士〟に伝えといてちょうだい」
その四人へ美女はそう言い、それから行動開始の合図や、開始前の配置等を四人と話し合いながら、作戦を進めていく――一方で。
「東方地区はアタリなし…南方地区も外れ」
「西方北方も同じく、目立った魔力反応は感じられなかったと報告が有りました」
冒険者ギルドのギルドマスターの執務室では、街を脅かす〝蟲〟への対応に追われていた。
●○●○●○
「……クソ、相手の正体は掴めても、根城までは割れねぇな」
「街の至る所で起きている事件の発生地点から、敵の位置が割れるかと思ったのですが…駄目でしたね」
壮年のギルドマスターレリックと、黒髪の魔女レイナがそう言い、険しい顔で印の刻まれた地図を睨む。
「――君の所の使い魔とは連絡は取れるのか?」
「いえ…それが全く…何処かに居る事は分かるのですが…詳しい場所は分からないんです」
「…そうか」
2人の間に満ちる沈黙が、場の空気に感染り…執務室を冷たい雰囲気で満たす。
(本当に…何処に言ったんでしょうか…マオさん)
少女、レイナは独り…心の内でそう疑問を紡ぐ…彼女の手には、己の〝主〟と交わした契約の証が刻まれている…しかし、その証から彼女に与えられる情報は、〝契約者は生きている〟と言う事実だけ…それ以外は何も無く…彼女は若干の不安に駆られる。
(呼び戻す…のは、駄目ですね)
不安によって彼女の心に浮かんだ〝選択肢〟を、彼女は理性と冷静な思考で却下する。
(マオさんがどんな姿をしているのかも未知数だし…仮に人型なら、マオさんが〝彼方の獣〟である事が露見する)
そうなれば、必然的に〝魔獣〟である事も解き明かされるだろう…そうなれば私達は詰みだ。
「どうにか…居場所を探さないと――」
口に出した言葉は、二つの意味を併せ持ち…そうして、地図を見詰めていた時…ふと、私はマオさんの指示を思い出す。
『〝冒険者と一緒に調査して〟』
「……レリックさん」
本当になんとなく、ただふと、記憶を振り返った中で掠めただけだったけれど…その言葉が何故か私の中で強く反響する…そして、気付けば、私はギルドマスターのレリックへある提案をしていた。
「――この〝殺害現場〟…少し見てきてもいいでしょうか?」
「ソレは……あぁ、分かった…一応の護衛に聖獣と冒険者を用意しよう…少し待っていてくれ」
私の言葉にレリックはそう言い、それから少し席を外すと…部屋には私だけが残る…しかし。
――バサバサバサッ――
窓辺から響く羽搏きの音と、白い翼は…其処に〝もう一人の傍聴人〟が居たことを、然と示していた。




