ただ何気無い日常
本日1本目、2本目は有ります。
――ガヤガヤガヤッ――
朝日が登る街並み…大多数の人間が何ら変わらない日常を過ごしていた…昨夜起きた事件など、知る由もなく。
――ピラッ――
そんな街の中…冒険者ギルドのギルドマスターである彼…〝レリック〟は…今し方届いた〝報告書〟に目を通し、考え込んでいた。
「――〝例の死亡者〟の検死結果が出た様だね、ギルドマスター殿」
そんな彼へ、ある一つの声がそう語り掛け彼の気を引く…唐突に現れた気配と声に、彼は身体をピクリと反応させて窓辺に目を向ける。
「ッ!…君は?」
其処にいたのは一匹の梟だった…首に紫色の澄んだ首飾りを付けた乳白色の翼を持つ梟に彼が問うと、その梟はその姿に異様な程馴染んだ落ち着いて、しかし含み有りげな声色で彼の質問に答える。
「失礼、名乗っていなかったね…私は〝アルス・アスクレス〟…同郷からは〝ドクター〟の愛称で呼ばれているよ…〝彼方の獣〟…君達言う所の〝聖獣〟の一匹だね」
「コレはご丁寧に…俺はレリック、見ての通りこの街の冒険者共を統括してるまとめ役だ」
――バサバサッ――
自己紹介を終えると、ドクターと呼ばれているらしい梟は男の肩に飛び乗り、報告書を覗き込む。
「――失礼、聖獣の間でもこの街の一件は話題になっていてね、問題なければ私にも例の死亡者の検死結果を見させて欲しいのだが」
「嗚呼、構わない」
そんな彼に、エリアギルドマスターはそう言いながら報告書をドクターの方に傾け、その知見に耳をそばだてる。
「―脚部、腕部には擦り傷や切傷…倒れた拍子に出たものだけで目立った損傷は無い、直接の死因は頭部の著しい損壊による生命維持の停止…随分と酷いね…頭部が原型を留めていないじゃないか」
「嗚呼…相手はとんだイカレ野郎だな」
「残念ながら魔術や【能力】がある以上男が犯人とは断定出来ないね…兎も角かなり凶悪な犯人である事に変わりは無いか…うむ、報告書だけでは大した情報は無さそうだね」
ドクターが呻くようにそう言うと、エリックはパサリと報告書をテーブルに投げ置き…肩の梟に言う。
「ニュートの領主からも犯人捕縛の依頼が出されている、聖獣達へも参加要請が出されているし、アンタも参加してくれると有難い」
その言葉に対して、ドクターは首を縦に振りながらエリックの言葉に肯定的な返答を返す。
「勿論そうさせてもらよ…所で、此処にはアーク君が居るんだろう?」
「あぁ、〝聖鴉アーク〟か…彼もこの街に居るよ…今は別件の調査中だと思うが」
「成る程、では後程挨拶しておこう…ではギルドマスター、私はコレで…あぁ、唐突に部屋に入り込んだお詫びをしよう――〝ほら〟」
それから二人は他愛もない会話を幾らか交わすと其々頃合いを見て交流を終える…その去り際、ドクターは軽く伸びをするエリックにそう言いながら自身の魔力でエリックを包む。
――〝パァァッ〟――
「ンッ…おぉ?…身体が軽くなった」
「軽い治癒魔術だよ、疲労が溜まっていた様だし、気休めにはなるだろう…それでは、デスクワークも良いがあまり根を張りすぎると肩がキツくなるから気を付けた方が良いよ」
その魔力を受けて、身体を軽やかに動かすエリックを見ながら…ドクターはそう忠告し、その場を飛び去る――。
○●○●○●
――パカラッパカラッパカラッパカラッ――
その一方で、草原を2匹の〝獣〟が駆け抜ける。
「ヒヒィィィィンッ――」
一匹は…馬の身体をした、首から上がドス黒い泥の触手で詰まった〝異形〟…。
――パカラッパカラッ――
「――逃がしはしないわよ♪」
もう一つは、精巧に作られた馬の身体に…人の上半身が繋ぎ合わせられた〝人馬〟…二匹は並走し…槍と触手を振り合いながら、草原を走破し続けていた。
――パカラッ…パカラッ…――
恐らく、もう数十分は駆けずり回っていたのだろう…黒い異形の馬は。その速度を落とし…触手のキレも悪くなる…並走する彼女も同じく、数十分の間駆け回っていた筈だが…疲労どころか、より一層苛烈に敵を攻め立てる。
「フフッ♪――」
――ゴォッ――
「〝魔力付与〟――〝魔弾〟」
無数に迫る触手を全て切り払い…触手が再生するその最中に、彼女は槍に魔力を通し…〝狙い〟を定める。
――ゴウッ!――
そして、投げる…振るわれた槍は轟音を靡かせて異形の心臓を横から貫き…その一撃が致命傷となり、異形の黒馬は崩れ落ちる。
――ゴプッ、ズオォォォッ――
「――〝魔術の付与〟…物質に魔術の性質を付加する〝魔術〟…レイナに教わって漸く使える様になったけど…コレは良い物ね♪」
誰が見ても分かる決着の瞬間、彼女は自身の下半身を誘拐させて人型に戻りながらそう言い…異形の黒馬へと歩みを進める…その刹那。
「――〝ギュィィィッ!!!〟」
先程まで動く気配のなかった黒馬が、その瞬間耳を塞ぎたくなるような、虫の様な叫び声を上げながら、触手を彼女へ差し向ける。
――ジリィンッ――
しかし、意表を突いたかに見えたその一撃は…その瞬間現れた〝半透明の防壁〟に阻まれ、潰れる。
「残念、〝アナタ達〟が自分の死よりも嫌がらせを優先する連中だって事は理解してるわよ」
――ドンッ、ドンッ、ドンッ――
「しかし案外、〝魔術〟を主軸に戦うのも良い物ね…必要な魔術を取捨選択し、一手先を読みながら戦局を操る感覚は中々心地良い…今度近接戦を縛って戦ってみようかしら」
ドス黒い肉の塊にトドメを刺しながら…私は黒いオーラを失せさせたソレの槍を引き抜く。
《戦駆馬を討伐しました!》
《レベルが上がりました!》
《戦利品〈戦駆馬の皮〉、〈戦駆馬の鬣〉、〈不浄の結晶〉を獲得しました!》
「――さ、次の獲物を〝教えなさい〟」
そしてまた…私は次の獲物を指し示す〝コンパス〟に、視線を落とすのだった。
●○●○●○
――ピクッ――
其処は、辺り一面が花畑の世界…木々と草木、大地の恵みに満ちた世界の中で〝ソレ〟は目を開く。
ソレの目線はある一点を捉え…その眼には〝忌むべき病魔〟を捉えていた。
〝草木を病ませる災い〟
〝生命を蝕む穢れ〟
〝邪道より持ち込まれた毒虫〟
〝世界を捩れさせる歪み〟
在るべき世界に在ってはならない異物…その蠢動に…ソレは〝動き出す〟…。
――ザワザワザワッ――
楽園が震える…草木は、その地に住まう精霊達は彼の怒りに逃げ出し…其処には静かな〝怒り〟だけが満ちていた。
「――■■■■■」
その怒りはソレの言の葉によって形を無し、大地から伸びた無数の根を伝い、〝楽園〟を渡る…その一連の行動を終えると、ソレはまた静かな気配と、遠巻きに此方を見詰める生命達への深い慈しみを見せ…静かに目を閉じる…。
そうして、楽園は再び…元の平穏な時を取り戻す…ただ。
――ピキッ…ピキッ…――
〝荒々しく猛る〟…異端の排斥者を世に解き放って。




