魔の鬼と、人の鬼
――ズドッ…ブンッ!――
「――やっぱり、ゴブリンはゴブリンね」
ゴブリンの死骸を捕食しながら…私は若干の肩透かし感を感じていた。
「まぁあまり期待してなかったし、槍の練習に使うだけのつもりだったから良いんだけど…肝心の第二エリアの敵の強さが分からないわね」
「もう少し探索しますか?」
「〝変形〟――〝人間〟…ん、そうねレイナ……この能力、捕食の時いちいち元の姿に戻るのが面倒ね…レベルが上がればその辺解決するのかしら?」
そんな事を考えながら、地面に突き刺した槍を引き抜き…林の方に目を向けた…その時。
――ヒュンッ!――
林の中から風切り音を鳴らしながら、1本の矢が私へ迫る。
――ブンッ――
しかしソレが私の胸を貫くより前に、私の槍の横薙ぎが矢を叩き落とし、私は矢の放たれた先に目を向ける。
「あぁ、成る程?…〝鬼〟は〝鬼〟でも…〝殺人鬼〟の方だった理由ね」
その視線を受けて、隠れ潜む事は無駄なのだと悟ったのか…林から続々と人が姿を現す。
「…〝山賊〟ですね」
「えぇ、そうね…徒党を組んで人を襲う〝犯罪者〟――」
――――――
【カーロ・ブスンタ】
【人間】
【山賊弓兵】LV14/30
HP:8700/8700
MP:5000/5000
満腹度:46%
――――――
――――――
【アトム・イベージー】
【人間】
【山賊】LV18/20
満腹度:32%
――――――
「――そして、私にとっては、大事な大事な〝養分〟…ね♪」
(数は5人、厄介なのは一人、あの弓持ちだけ…他は格下の山賊だけ)
「レイナ――〝何時も通り〟…後方支援をお願いね♪」
「分かりましたッ」
私はレイナにそう言うと、ズカズカと歩を進めながら彼等の注意を引く。
「出会い頭に攻撃だなんて、随分野蛮じゃない、山賊君?」
「ハッ…人に化けて襲おうとする化物が良く言うぜ…テメェ、あの餓鬼の使い魔か何かか?」
「う〜ん…形式上はそう言えるわね」
不用心な素振りで近付く私にそう言いながら山賊達が私を上から下まで眺め…下品に笑う。
「――っと、化物とは言ったが、お前さんもガワは最高だなぁ…服の下もちゃんと人間に化けれてんのか?」
「あら?――気になるなら試してみる?」
そんな山賊の下心が透けて見える問いに、私はそう答えながら…山賊のリーダー…カーロに挑発を送る。
「――何だよ、テメェも結構〝乗り気〟か?…まぁどっちみち、テメェ等捕まえてからじっくり調べさせたもらうぜッ」
――ヒュンッ――
その瞬間、カーロの一矢を皮切りに戦闘が幕を上げる…ただし。
「――〝残念〟…〝勝負〟はもう着いてる♪」
その時点で、既に勝敗は決していたのだけれど。
「〝古き五元の赤と緑〟――〝荒巻く風は嵐へ〟――〝炎は嵐の下僕となりて〟――〝生命枯らす災いと成らん〟――〝炎嵐〟…!」
レイナの祝詞が完成したその瞬間…凄まじい炎嵐が私達を包み込む。
「ハァッ!?――〝複合魔術〟!?」
「――驚いてる暇は有るのかしら!?」
炎に閉じ込められた…その状況に混乱する彼等に、私はそう言いながら、駆け出す。
――ドォッ!――
「――グァッ!?」
「先ずは一人――!」
手始めに一人、山賊の心臓に槍を突き立て…そのまま炎の渦の中に投げ込む。
「――この…!」
その様子に漸く我に返った山賊達が一斉にナイフと剣を構え…飛び掛かる…けれど。
「――〝魔力壁〟」
――ガキィィンッ!――
一斉に振るわれたナイフと剣は、その瞬間半透明の障壁に阻まれて静止する。
「ッテメェも魔術使――グッ!?」
突然の出来事に一瞬硬直する山賊達の隙を見逃さず、魔力壁を解除し武装をはたき落とすと、目の前の一体を片手で掴み上げ…そのまま残る山賊の片割れに投げ付ける。
――ドォッ!――
「「ガァッ!?」」
投げ付けられた山賊達はマトモな受け身を取ることもままならず、そのまま地面に押し倒される。
「ッおい!?――ブゲェッ!?」
焦り敵から視線を逸らす山賊の残党の頭部に蹴りを放ち、そのまま槍をもつれ合う二人の山賊目掛けて投げようとする――。
「――〝貫射〟」
――ヒュンッ――
しかしその瞬間、私の腕を魔力の付加された矢が貫き、腕が吹き飛ぶ。
「ッ――おい、直ぐに体勢を整えろッ!」
「――」
(再生して投げるまでに体勢が立て直される、魔術は構築の時間差で間に合わない)
叫ぶカーロの言葉に山賊達が慌てて起き上がろうとする…状況は仕切り直し――
「――フフッ♪」
になる事は無かった…地面に倒れ掛けた槍を上に蹴り上げ…空中に持って行くと…そのまま別の足で槍の石突を蹴り抜く。
「なッ!?――滅茶苦茶かよッ…!」
その一撃は、もつれ合った山賊の心臓を貫き…二人は地面に縫い付けられたまま息絶える。
――シュウゥゥゥッ――
《レベルが上がりました!》
《レベルが上がりました!》
殺した人間の経験値が私の身体に流れ込む…やはり、山賊と言えども人間であるからか、その経験値は目を見張る物が有る…そんな〝お宝の山〟が――。
「後…二人♪」
○●○●○●
(クソったれ…使えねぇ阿呆共だぜ…!)
戦闘開始から早くも息絶えた元部下の死骸に、カーロはそう吐き捨てながら目の前の〝怪物〟に視線と矢を向ける。
――ニヤニヤッ♪――
最後の部下の攻撃を片手間に躱しながら、挑発的に俺を見るその視線に、俺は内心で悪態を吐く。
(常に俺との間に部下を挟みやがる…同士討ちを狙ってやがるのか…!)
ヒラヒラと、剣を躱しながら…絶好の機会だと言うタイミングで部下を挟み攻防を繰り広げる其奴の姿に…俺は苛立ちを覚える。
「――〝畜生め〟…やってやるよ…!」
そして遂に、俺はこの状況を切り抜ける方法を作り上げ…矢に魔力を付与する。
「〝レイデン王国弓術〟――〝貫射〟!」
その瞬間、俺は奴の視界が部下で覆い被さったタイミングで矢を放ち…部下に命じる。
「畳み掛けろ、〝ゾルタン〟!」
「オォォォ!」
部下が雄叫びを上げ猛攻撃を繰り広げる…怪物を倒すにゃ程遠いが、それでも振るわれた剣の嵐を完全に無視出来るほど、奴も強くは無い…部下の猛攻を前に、遂に怪物の意識が俺から外れた…その瞬間。
――ズドォッ!――
肉を貫き、突き抜ける魔力の一矢は…部下諸共奴の胸元に大穴をブチ空けた。




