理外の邪悪に抗う者に、正道の祝福あれ
――パキッ、パキパキッ――
アークは見た…己の名を呼ぶ人間達が…己の名を呼んだ理由を。
「ッ――」
ソレは…〝生命〟の芽吹きであった…地中から伸びた気の幹が、草の蔓が…地面に広がり…人々を包んでゆく。
〝攻撃〟か…明らかに普通では無い〝超常の現象〟に、アークは思考を巡らせ…その〝植物〟達に、警戒と焦燥を向けて人間達へ迫る。
――しかし。
『――〝彼方の獣〟、〝異界の生命体〟、〝此の世成らざる道理の異端者〟よ』
アークが植物を剥ぎ取ろうとしたその時、ふと…アークの脳裏にそんな、声と光りに包まれた〝何者か〟が現れる。
『――〝汝に問う〟…汝は〝淀みに属する者か〟』
その声の主はそう言い、逆光の奥から視線を送る…その言い知れぬ圧力に、アークは冷や汗を流しながら…返答を紡ぐ。
「――〝違う〟…僕は人の…〝人間の味方〟だ」
『……そうか』
その返答に、〝何者か〟は…静かにそう呟くと…アークに根を伸ばす。
『――ならば、汝に大地の祝福を与えん…〝淀みの病〟を刈り取るが良い…人を護りたくば、受け入れよ』
「……力を、貸してくれるのか?」
その言葉に、アークはそう問い掛けると…その〝何者か〟は…ただ、淡々と告げる。
『――我は生命を区別しない、遍く生命に恵みを与え、遍く生命に裁きを与える…ただ、〝世界を維持する〟為に』
そして、その〝何者か〟はそう言い終えると…その姿を光の粒子に変えて消え失せ…その光の一部をアークの身体に注ぎ込む…。
《新たな【称号】を獲得、〈穢れなき獣〉を獲得しました!》
――ブワッ!――
その瞬間…アークの身体から、白い魔力が立ち込め、ソレを見た人間は驚きとその美しさに口を空けて立ち呆ける。
「誰だか分からないけど感謝するよ」
そんな彼等を見ながら、〝聖鳥〟アークは…勝機を見出し、笑みを浮かべた。
○●○●○●
――ズル…ズル…ズル…――
赤黒い大地の上を、赤黒い〝猪〟の彼が這い進む…。
「ハァ…ハァ…ッこの――」
その目には強い恐怖と焦り、口から突いて出た言葉は、彼の前に居る私へと向けられ…私を否定する。
「〝化物〟が…!」
「随分な物言いね、何方かと言えば化け物は貴方の方でしょうに」
私はそう言いながら、血溜まりを啜り…抉り取られた〝前足〟を噛み砕く…その容姿は、赤黒い球体では無く――。
――ゴポッ、ゴボゴボッ!――
赤黒い…粘体の身体をした〝猪〟の様に…確かな〝造形〟を象っていた。
「どんなにステータスが高くても、部位破壊のシステムは変わらないわよね?…牙を失えば牙の能力は使えない、翼をもがれれば空は飛べない…脚を喪えば…大地を蹴る事も出来なくなる…〝致命的〟よね?」
そう言いながら…私はその脚を更に作り変える…堅固な骨と、強力な筋肉で構築された〝前足〟へ。
「ん…まだ〝形だけ〟しか無理か…もう少しレベルが上がれば骨格や筋肉も再現出来るのかしら?…楽しみね」
戯れの演出に、目の前の猪に化けてみたけれど…その模倣を解いて、私は再び…元のスライムに戻る。
「――中々に楽しかったわよ、猪の貴方♪」
そして、そのまま彼の腹に触手の斬撃を叩き付け…私は、彼との短い夜の長い戦いを終える。
「スゥゥゥゥ……ハァァァッ…フフフッ、〝楽しかった〟♪」
空を見上げれば、既に大分と数を減らした星と、既に傾き始めた月が私達を見下ろしている…此処が地獄の一丁目でなければ、その美しさに見惚れていても良かったかも知れない…けれど。
「――でもでも、まだ…此処には〝獲物〟が残ってる…♪」
暗い愉悦が私を満たす、血と、死と、生命の蝋燭が轟々に燃え盛るこの場所が、私を掴んで離さない。
「――次は…誰が相手――」
そうして、次の闘争に足を踏み入れようとした…その時。
――ゴオッ――
私の横…人々の暮らす村の中から…白く、凄まじい魔力が吹き荒れ…村の防壁から立ち登る。
「――何かしら…アレ?」
(白い…魔力と――〝アーク〟?)
私の視線は自然とその魔力の放出と、ソレを成している〝白い鳥〟へと注がれ…ソレに意識を向けた…その瞬間。
――ヒュンッ!――
空から降り注ぐ…〝白い魔力の籠もった矢〟が…私達を襲った。
「〝魔力壁〟!」
咄嗟に壁を構築し、その攻撃から身を守ろうとする…けれど。
――パキンッ!――
幾度に渡って降り注ぐ矢の雨が私の壁を削り取り…私の身体を少しずつ削り取っていく…。
(何て威力…ただ矢に魔力を込めただけで、魔力壁を突破した…?)
その攻撃に、私は心の中で驚き…そして、よくよく観察してその認識を改める。
「〝魔力の付与〟…支援系の〝魔術〟…!」
(技術として確立された〝魔術〟の力!…矢に魔力を纏わせて、単純な攻撃に魔術ダメージを付加した…だから総合火力が上がった…それに――)
私の視線は、村の側から外れ…同じく矢を受けている〝魔物〟達にも視線を向ける…其処には。
「「「ガアァァァァッ!?!?!?」」」
同じ攻撃に晒されながら、私以上にダメージを受け倒れて行く魔物達の姿が有った。
「〝あの黒いオーラ〟に対して、特攻の作用があるのね…!」
白い魔力に溶かし、消されていく黒いオーラを見ながら悠長にそう呟く…だが。
――ヒュンヒュンヒュンッ――
私は自身の置かれた危機的な状況に…我に返り…忌々しく空を舞う〝彼〟を睨み付ける。
「此処で勝負を決めようって腹積もりみたいね…!」
彼は此方を認識し…〝笑う〟…その笑みが意味する事は一つ――。
〝不可侵の協定〟は破棄されたと言う事だ…。
「――随分な真似、してくれるじゃない…!」
――ゴッ――
私が魔力を更に放出すると、アークは眼下の人間に何かを紡ぐ…その瞬間。
――ヒュンヒュンヒュンッ!――
気持ちの良い音を立てながら、私目掛けて無数の〝矢〟が放たれたのだった…。




