護るモノ、壊すモノ
「僕に協力してくれ」
「――嫌よ」
私は、空から此方へ要請する彼の頼みを一蹴する。
「…理由を聞こう」
「私が貴方に手を貸す道理が無い、以上の説明は必要かしら?」
空を舞う彼に、私はそう言いながら跋扈する魑魅魍魎達を撫で殺してゆく。
――ビュンッ――
「――〝礼〟はする」
「そう、なら話は聞いて上げる…具体的に何をしたくて、その礼に貴方は何を私に提示するのか」
私の言葉に彼は考える素振りを見せながら、迫り来る空の魔物達を片端から撃ち落としてゆく。
「――僕は人を〝護りたい〟…でも、この数を相手にするのは流石の僕でも難しい」
「だから強い魔物を仲間に引き入れる…成る程、それで?…〝何故人間を助ける〟必要が?」
「――単純な良心半分、打算半分だね…〝人間〟を助けるメリットは大きいよ、多分…このイベントで解放されると思うけど、先行プレイ時イベントで人と〝契約〟が出来る様になるイベントがあった」
「契約?…続けて」
「〝契約〟…要は〝使い魔契約〟だよ…〝人間と魔物〟が契約する事で、互いに利益を与え合う…単純な戦力を対価に、契約者を外付けの魔力タンクにしたり、経験値を共有したり、〝魔術〟や〝能力〟の共有も可能になる…最後の方はちょっとした手間が居るけど…他にも、人間との交流によるメリットはかなり多いんだ」
白い鴉…アークの言う事を考える…確かに、そんな機能が有るなら中々悪く無い契約だ。
「――でも惜しいわね、情報は感謝するけれど、その〝契約〟において私は彼等を必要としていない…貴方の仲間に成るのは難しいわね」
「そうか…なら――!」
アークがそう言い、私に敵意を向ける…成る程、交渉決裂と見れば即座に敵対する…切り替えの良い子ね。
――ヒュンッ――
風が薙ぐ…無数の風切り音を乗せて…空から降り注ぐ白い羽根の刃は、私目掛けて迫り…その速度は私が回避する事を赦さない。
「ッ!」
私の眼前に、白い殺意が迫る…その羽根は主の敵意を告げるメッセンジャーとしての役割を全うし…私の心臓を抉り抜かんと月光の光を反射する…今までの私で有れば…その攻撃に対応するのは難しかっただろう。
「――〝魔力壁〟♪」
そう…〝今までの私〟ならば。
○●○●○●
――ドドドドドッ!――
土煙に、ソレの姿が消える…。
「……」
抵抗の素振りは無かった…諦めたのか、それとも単に間に合わなかったのか…間違いなく〝直撃〟する間合いだった。
千が一、万が一にも…生きている筈が無い…筈だった。
「――フフッ、フフフフフッ♪」
「ッ――!?」
不意に、砂煙の中からそんな声が響く…腹の底から楽しくて仕方が無いと言う様な、笑い声…。
――ズォォッ!――
その声に気を取られた瞬間、土煙を貫いて赤黒い触手が無数に迫る…寸前でソレを躱し…僕は、その土煙の先にいる〝ソレ〟を見た。
「…馬鹿な…「何故…生きている?」……何て、チープなセリフは吐かないわよね?…Mr.アーク?」
其処には…己の言葉に被せるようにそう言い…愉しげに伸ばした触手を体内に収縮させる〝赤黒いスライム〟が居た。
「――〝レベルの差〟は歴然なのに、〝生きている〟…まさか、フィジカルで耐え抜いた訳じゃない…なんてことは、態々口に出さずとも分かると思うけれど…それじゃあ、〝何故〟…私は生きているのか?――先行組の貴方なら、分かるんじゃないかしら?」
「まさか…〝魔術〟…使えるのかッ…その、レベルで…!?」
「――ザッツライト♪…まぁ、魔術と呼ぶにはまだ拙い、〝技術未満〟の腕だけどね?」
そのスライムは、驚く僕にそう言い、笑いながら自身の周囲に展開した半透明の魔力の〝壁〟で自身を守る。
「――〝魔力壁〟…言ってしまえば〝魔力を整形しただけ〟だけれど…この〝整形〟と…〝術として事象を確定させる〟と言うのが、無から魔術を習得する際の難関…その点で見れば、あの短時間で魔術に昇華したあの子は優秀だったのね?」
その防壁は揺らぎ…如何にも不安定な様子で、其処に顕現していたが…その防壁は僕の羽を防ぐと言う役割を終え、スライム自身の手によって、その顕現を解かれる。
「――それは兎も角、貴方が私に構うのは良いのだけれど…本当に良いのかしら、私ばかりに意識を割いても」
「ッ!」
スライムの言葉に僕は周囲を見渡す…既に周囲は死屍累々の様相であり…その地獄の中で生き残っていた獣達は…見違える程〝力〟を蓄えていた…。
「あらあら…随分と獲物を食い漁られちゃったじゃない…この様子じゃ他のプレイヤー達がどんどん進化していくわよ?…ソレは貴方にとって痛手じゃないかしら?」
「クッ…!」
まるで誂うようにスライムはそう言うと…その触手を周囲の魔物達に伸ばし……襲う。
「私としても、此処で貴方の邪魔をして粘着されるのは困る…此処は一度、互いに〝不干渉〟と行きましょう♪…別に私は積極的に人間を襲うつもりはないし、ね?」
「………分かった」
「いい子ね♪…それじゃあ私は私の好きにやらせてもらうわ♪」
鋭い刃を撓らせ、屍の山を築き…死肉を貪りながら、スライムはそう言い…背を向ける。
「――ちょっと待ってくれ、君の名前を聞いておきたい」
そんなスライムに、僕は最後に引き留める。
「?…必要かしら…まぁ良いわ、〝マオ・ディザイア〟よ、よろしく〝アーク〟」
「〝マオ・ディザイア〟…君の名前を覚えておこう」
そんな僕に、彼女は…〝マオ・ディザイア〟はそう言い放つと、要件は済んだとばかりに僕に背を向け…生き残った獣達に刃を振るってゆく…。
「ッ――僕も、集中しないとな…!」
そして僕も再び、この戦場で…〝人類の支援者〟としての立場から、魔物達に牙を剥く…。
そうして夜は深く深く…濃い死と、噎せ返る様な甘い血の匂いを地面に染み渡らせて行くのだった。




