母たる海蛞は息絶えて、地の底で未知は蠢く
本日の投稿…今日は夜に2本目を投稿する予定。
――メキメキメキッ!――
音を立てて〝天井が揺れる〟…天井を這う魔力は、朧気な触手を象り、天井に生え並んだ鍾乳石をビキビキと締め上げ砕く。
「――位置良し、角度良し、お誂向きに〝口〟も開かれている…〝中〟までしっかりと届きそう♪」
ソレを現在進行系で行なっている彼女は、その口端を薄く歪めて…マザーを見据える。
――ゾッ――
その瞳には…隠匿する事など欠片も考えていない…〝邪気〟が有った。
――バキンッ――
しかし、そうだとしてもマザーにはもう手立てはない…止めようもなく、避けようもなく…ただ、敵が行う攻撃より早く、己の攻撃が放たれることを祈る他に方法はなく……そして。
「〝来い〟――〝ドル〟!」
――ズォッ!――
そうした祈りは…往々にして叶わないものだ。
○●○●○●
「〝来い〟――〝ドル〟!」
「ッ――っし!」
空間を木霊する〝その声〟に…ドルは、足場を蹴って壁へと飛び移る。
彼女が己へ呼び掛けた…つまりソレは、〝己の出番〟と言う事だ。
――ガッ――
壁を蹴って進み…彼女とその周囲に広がる光景を見て思考を巡らせる。
〝マザー〟と、その頭上には魔力で包まれた巨大な鍾乳石。
「――成る程ッ!」
一目見て、己の役割を理解し…一際強く跳躍する…着地するのは、今正にマザーの口へと叩き込まれた鍾乳石の上。
――ゴォッ!――
同時に魔力を最大限に解き放ち、その手を腕へと集中…拳を握る。
「スゥッ―――!」
何をするのか?…簡単だ、要は俺は〝ハンマー〟となれば良いのだろう。
鍾乳石に染み付いた〝魔力〟…ソレは単純な落石を確固たる〝魔力攻撃〟へと昇華している。
其処へ、更に加えるのは――〝更なる破壊〟――。
「フンッ――!!!」
放たれた拳が…鍾乳石の石突を穿つ…瞬間…この腕に込められた〝破壊〟が鍾乳石全体へと走り――。
――ズゴッ!――
より深く〝マザーの身体〟を貫いた…そして、その瞬間…誰よりもマザーに近い俺だからこそ〝聞き取れた〟…。
――ビキッ!――
〝何か硬いモノが壊れる音〟…ソレが〝核〟だと言う事を理解するのに時間は必要無かった――何故ならば。
――ブルブルブルッ!――
ソレが破壊された瞬間マザーの身体がブルブルブルと震え…その振動がピークに達した時…マザーは支えを失ったかの様に、その身体をグズグズに溶かし…〝眷属達〟も崩壊していく…。
――ジュワァァァァァッ――
そして…マザーの溶解と共に大地を満たしていた消化液の海が排水口に流れ落ちる水の様に地面の…マザーの居た巨体が塞いでいた〝大穴〟に流され…消えて行く……気が付けば、其処には〝何も無かった〟とでも言いたげな空間と、静寂が俺達を包み込んだその時――。
《〈溶蛞の母胎〉を討伐しました!》
《レベルが上がりました!》
《レベルが上がりました!》
《レベルが上がりました!》
そんなファンファーレが、俺達を包み込んだ。
●○●○●○
「よっしゃ!!!――勝ったぜー!!!」
ドルが尻尾を振りながらそう勝ち鬨を上げる…その様に、私は薄く笑みを浮かべる…。
「良いラストアタックだったわよドル♪…流石の火力ね?」
「お?――だろだろお姉さん!――俺チョー格好良かったろ?」
「ウフフッ…えぇ、〝とても格好良かった〟わ♪」
そんな彼へ、私が勝算を送ると、彼は激しく尻尾を振り回しながら…私の背後から現れるウェズへ渾身のドヤ顔を見せる。
《レベルが上がりました!》
「ん―――ッそれは兎も角…〝一応〟…此処の〝エリアボス〟は倒したけれど…どうする?」
勝利後の確認、感想戦を手早く済ませ…私は二人に新たな選択を提示する…私が指差すその先には〝2つの道〟が有った。
「この奥に、何が有るか確認しに行く?…流石にこれ以上のボス戦は苦しいけれど…もしかしたら〝お宝部屋〟…このボスを倒したクリア報酬何かが貰えるかも知れないわ」
1つは、己等が来た通路の対角…マザーが守っていた洞窟の先への道…やはり、其処は暗い闇で閉ざされ、先に何が有るのかは分からない。
「そして、もう一つは〝コッチ〟」
そうして、二人へもう一つの選択肢を与える…それは、マザーを倒した事で新たに開いた〝選択肢〟…。
「此処の〝下〟…何が有るのかは分からない、秘密か、隠し報酬か…それとも更なる地獄か…完全な〝片道切符〟を手にを進むのか…どうする?」
酸の消化液を飲み干し、先の見えない暗闇から己等を誘う〝下穴〟への道。
二人へ選択肢を提示し、彼等へ決定権を委ねる…その問いに…二人は顔を見合わせ…そして、選んだのは――。
○●○●○●
――ドボドボドボドボッ――
暗闇を流れ落ちていた〝ソレ〟が…音と泡を立てて、〝穴の底〟へと落下する…。
其処は暗く…先の一つも見えやしない…〝虚無〟の只中に…ソレはジワリジワリと広がっていた…。
――……――
そして…ソレもまた、暗闇の一部に成り果てる…その刹那――。
――ギュム…ギュム…――
不意に、〝暗闇〟が蠢動し…囁く様に無数の声が奏でられる。
『〝母が一つ死んだ』
『〝新たな母〟を創らねば』
――ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…――
蠢動する空間、其処に在る〝かつての母の名残〟が、地面に吸い取られ…空間全域に響く様に喉を鳴らす様な異音が響く。
『母を殺したモノが居る』
『警戒しろ』
『殺害しろ』
『危険だ』
『素晴らしい餌だ』
暗闇に囁く声は減る事がなく…寧ろ増え、ソレ等は異なる声色で己の意見を主張する……皆一様に、その声に感情を見せずに。
『殺そう』、『殺そう』、『殺そう』、『殺そォう』、『殺そう』、『殺そウ』、『殺そう』、『殺そう』、『殺テそう』、『殺そㇼう』、『殺テケ』、『コテケ』、『テケリ・リ』、『テケリ・リ』、『テケリ・リ』、『テケリ・リ』、『テケリ・リ』――。
その言葉はやがて、殺意の一つに集約され、声だけのソレ等はやがて1つの単語を紡ぎ上げるだけの〝機械〟に成り果て……遂には――。
――テケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リテケリ・リ――
常人には到底理解出来ない、狂気を孕んだ雑音の合唱へと変化すると…空間は蠢き…〝空間だと思っていたソレ〟が動き出す。
――メキメキッ、メキメキメキッ――
『テケリ・リ――〝偉大なる父〟の…目覚めを…!』
その蠢動を…暗闇の其処に生き根付く〝ナニカ〟の脈動を知る者は…今はまだ、何処にも居なかった。




