我が子を喰らう蛞の母
本日の投稿をば、2本目は未定です。
――ギュンッ――
「――フッ!」
――スパスパスパッ――
風切り音と共に、ウェズの鋭い鳥の脚爪がマザーの身体を切り裂いていく。
「〝―――ッ!!!〟」
その傷は決して浅くはないものの…それでも、マザーのも使い強靭な生命力と、豊満な魔力故か…ウェズが幾度と無く斬りつけた傷は、たちどころに治癒修復され、元通りに復元される…そして。
――チリッ――
マザーの声の無い叫びが大気を震わせた刹那、ウェズの足元から〝敵意〟が数多差し向けられる。
『『『ッ――!!!』』』
「ッ…!」
下を見れば溶解液の海…その海に浮かぶ何十ものウミウシ達が一斉に消化液を吐き出し、ウェズを狙う。
「多ッ!?…でもヨユーッ!」
その数の多さにウェズは一瞬瞠目し…それから、直ぐに余裕げな笑みに変えると、続々と迫る酸の雨を掻い潜り、戦場を撹乱する。
「ほらほらどうしたガキ共ッ、狙いがお粗末だぜヘイヘイヘーイッ!」
下へ、上へ、右へ左への大立ち回り…その軌道は幾ら数が多くとも知性の低い眷属では予測も出来ず、ソレはただウェズのパフォーマンスの小道具に成り下がる。
――バサッ!――
「へへ、楽勝♪」
そんなものだから、ウェズは余裕を見せ始め…その余裕は微かな慢心となり、ほんの一瞬の〝隙〟を生む…そして。
――ゴプッ――
〝運悪く〟…その隙に重なる様に…マザーの矛先が、ウェズへと向いた。
――ブシャァッ――
「――あ、ヤベェ…!」
空高く飛び上がり、眷属の攻撃を回避した…其処へ吹き付けられる、マザーの〝広範囲攻撃〟が、ウェズの作り出した〝安全圏〟を覆い尽くす様に襲い来る。
〝回避の余地は無い〟…数分に煮詰められた濃密な死闘と、益々磨かれる己の行動によって生まれた慢心が産み落とした悲劇に今…ウェズの首に縄が掛けられ…足元の〝余裕〟が完全に崩れる…。
最早、己の手に負えない…〝被弾は不可避〟な状況に陥ったウェズの瞳に…酸の水撃の陰が差した…その刹那。
――バサッ…!――
「ヒュウッ♪――間一髪ねウェズ♪」
ウェズの身体を抱き寄せる腕と…大きく立派な黒い翼が…ウェズを包み込んだ。
「ッ!?――おいッ!?」
驚き、そして直ぐに我に返ったウェズが慌てた様子で彼女を見る…しかし。
――ドクドクドクドクッ――
「流石に〝重い〟わね…でも、余裕でリカバリー出来る範囲よ♪」
暗がりの中、黒翼が蠢き…腐臭が外から漂って来る…それが暫く続き…そして漸く、黒翼の繭が開かれる。
――ボロッ――
その羽根の美しさは見る影もなく…焼けただれ、溶けて消えていく肉と骨の混合物に、マザーの眷属達は我先にと集り出す…ソレへ、彼女はインベントリから取り出した槍へ魔力を流し…落下してゆく身体を捻り…放たれた投げ槍は、集りうねるウミウシ達の中へと姿を消した刹那、凄まじい魔力の奔流がウミウシ達の身体を焼き尽くした。
――ヒュウッ――
そして、翼を失った彼女はそのまま消化液の海に身を投げ出され――。
「ッ――っぶねぇ!」
る直前…ウェズの手が間一髪で彼女の腕を掴み止めた。
「あら、助かったわウェズ♪」
「ソレは此方のセリフだぜ……あ〜、今更だけど、、お姉さん名前何?」
ウェズに抱えられながら、彼女はそう言い、ウェズが彼女へ名を問うと…彼女は少し考える様な仕草をし…それから、クスリと笑みを浮かべる。
「…あぁ、そういえば名乗ってなかったわね…〝マオ〟よ」
「オッケ〝マオ〟ね!」
遅めの自己紹介を済ませ、彼女はウェズから手を離し…自身の翼を新たに作り出すと、ウェズと共にマザーへ視線を送る。
「それで、こっからどうするマオ…流石に俺達だけじゃ詰めきれねぇぜ?…〝火力担当〟が要る」
「〝問題無い〟…心配無いわ、ウェズ…〝私の言う通り〟に動けば、隙は作れる」
「…へぇ…ソレは大層な自身だな…オッケー、そんじゃ指示をくれ、その通りに動く」
そして、二人はそう会話しながら…己等の生存に気が付いたマザーへ挑発の魔力を放出する。
「〝気を引いて〟…今度はちゃんと避けきってね?」
「応…今度は油断しねぇ」
そして、マザーが〝攻撃の予兆〟を見せたと同時に、二人の翼は空を裂いた。
●○●○●○
――ゴボォッ――
抑留した、消化液を放出する…宙を漂う〝脅威2匹〟を狙って…。
――バサッ!――
しかし、その緩慢な動きは機敏に空を舞う2匹の獣にはあまりに遅く…消化液が空を覆った頃には、既に其処には誰も居なかった。
『ッ―――!』
触覚を用いて、消えた獲物を追う…2匹の気配は散逸し…それぞれが別の方向から此方へと迫っている。
〝選択〟しなければならない…この状況下で己が誰を襲うべきか…。
気配は3つ…しかし1つの気配は薄い…ならば2…先程、己の攻撃を防ぎ…始めに己へ刃を向けた〝黒き淀み〟か…それとも、散々と己の身を削り続けてくれた〝風の化身〟か…。
思考し、そして選択は決定される…今、最も警戒すべきは――。
――キュィィィンッ――
「〝虚空の歪〟、〝無形にして変幻〟…〝何人の目には無く、しかして其処に確かに在るモノ〟」
悍ましき〝この世ならざる獣〟…淀みの獣である。
『―――ッ!』
紡がれる詠唱を止める為に…己の身体から、眷属を作り出し…飛ばす…下す命令は〝淀みの獣の殺害〟
「「「ッ――!」」」
その命令を受けて、ソレ等は己の身体の上から淀みの獣を狙う…奴はそれを前にしても動かず…淡々とその呪詛が如き詠唱を紡ぎ上げる。
――コポッ、ギュギュギュギュッ!――
そして、眷属が消化液を奴へと吐き掛けようとした…その瞬間。
――ヒュンッ!――
風切り音を奏でて…己の体ごと核を真っ二つにされ、息絶える。
『ッ―――!?!?!?』
「ハッ、させる訳ねぇだろッ!」
犯人は忌々しき〝風の化身〟…風の魔力を帯びた鋭い刃が己の身を切り裂き…再生した側から己を斬り付ける。
『ッ――(不快)』
幾度切られようと再生は止まらない…しかし、己の行動を只管に抑圧するソレは、己にとってはあまりに不愉快であり…怒気を込めてソレを見据える。
「あ?…もしかして怒ってるぅ?」
挑発する様に、ソレ己の身体に傷を付ける…その不遜さに、つい意識を奪われたその時。
「〝無空の術理〟、〝欺きの形に定まりしモノよ〟、〝鏖殺の使命を果たせ〟」
その〝詠唱〟が…忌まわしい〝淀みの触手〟を呼び込んだ。
「〝不可視の触手〟」
言葉と共に、不可視の触手が蠢き…己を背後から横薙ぎに押し出す。
――ズバァァンッ――
その重さたるや、その鋭さたるや…振るわれた衝動で身体は押し出され、その衝撃で肉が削げ落とされる…やはり、やはり〝アレ〟が一番危険な存在だろう…。
――ズッズッズッズッズッ――
〝再生〟は済んだ…ならば次にするべきは〝攻撃〟だ…しかし、何度も馬鹿正直に攻撃する程馬鹿じゃない。
――ジュオォォォォッ――
「ッ!?――酸の海が干上がって行くぜ!?」
場を満たす〝消化液〟を吸い上げる…生成は、その過程で攻撃の予測がされ、躱されやすいだろう…。
――ズズッ…ズズッ…!――
かといって、絡め手では風の化身が邪魔をする…ならば、為すべきは〝回避を許さない〟…〝予測不能な一手〟…そして、コレは…ソレを放つ…最後の最後、敵を完全に打ち倒すための〝切り札〟である。
我が子を喰らう…その力を己へ還元する…魔力を回し、消化液を生成する…限界まで腹の中に溜め…そして、〝放つ〟…狙いは淀みか、それとも風か…その答えは――〝不正解〟…。
「―おい、本気かッ…!」
「……」
狙うは〝全員〟…この領域全土へ…消化液の雨を降らせる…!…。
『〝―――!〟』
〝回避の余地〟は与えない…この一撃を以て脅威を消し去る。
――ゴポゴポッ――
――ガバァッ――
口を開き…空を仰ぎ見る…岩と薄暗い鍾乳洞の天井…其処へ今正に…消化液を吐き出そうとした…その瞬間。
――ゾッ!――
身の毛のよだつ…〝ドス黒い瘴気〟が…その天井へと〝駆け巡った〟…その瘴気の出処は――。
――ギュギュギュギュッ――
「――フフフフッ!…〝良いタイミング〟ね…〝マザー〟♪」
淀みの獣…ソレからだった。




