沿岸の大洞窟へ
本日の投稿。
割と長い物が出来た…明日は2本投稿出来る様頑張ります。
「あら貴方…此処の人間?」
「あ…えっと…」
紡がれたその言葉は美しく…俺はその言葉に問いを返せず声を詰まらせる…。
「?…どうしたの、私は聞いているのだけど?」
そんな俺にその女はそう言い、俺を見上げる…その上目遣いに心臓が跳ね…思わず後退りしながら言葉を紡いでしまう。
「ッ…あぁ、そうだ」
「そう…だったら都合が良いわね――」
すると、その女は独り言の様に何かを呟き…俺の手を取り顔を近付けて言う。
「ねぇ、貴方…何処か、休める場所を知らないかしら?」
フワリと香る…甘い匂い、ソレが鼻腔を通じて脳を揺らし…目の前の彼女へ意識が剥がせない…それが怪我の功名と言うやつなのか、俺は彼女の身体の…特に〝足〟にあるその異常に気付き…ハッと我に返る。
「ッ!?――おいアンタ、その足どうした!?」
何故気付かなかったのかと…潮に混じって香り立つ鉄の匂いに悪態が込み上がる…そんな俺の問いに、その女は首を傾げて己の足を見る…其処には。
「?……どうかした?」
――ドクッドクッドクッドクッ――
バックリと膝から下の方に付いた切創から流れた血流が、砂浜を赤く濡らしていた。
「ッ――ばっちゃんに処置して…いや、その前に俺の秘密基地に行くぞ、応急処置してやる!」
「?…分かったわ」
――ペタペタペタッ――
「ッ――馬鹿動くなッ、傷が余計に血が流れる!」
一先ず俺はそう言い、ペタペタと重傷にも関わらず歩き出す女を無理矢理止めて抱き上げると、道具も何も捨てて秘密基地に直行する…あんな血みどろを見てしまった所為も有ってか…先程までの興奮高揚は嘘のように過ぎ去り、焦りから俺は、見惚れた女に触れる事にも何も感じることは無かった…。
ソレが……俺と彼女の、最初の出会いだった。
○●○●○●
――ヒュオォォォォッ――
風が吸い込まれるように…闇へ溶けていく。
「うっわ…大洞窟ってそう言う感じかよぉ…俺ホラー苦手なんだよなぁ」
「幽霊系の敵は全部俺が処理してるもんな♪…しっかし、デケェ洞窟だなおい…テンション上がる〜♪」
二人は、己等の眼の前に広がる巨大で全貌の見えない大洞窟に其々反応を示し…懐から懐から其々照明を取り出す。
「あ?…おいドル…お前照明ケチったな?」
「ゲッ…良いだろ別に、照明魔道具高えんだよ…ただの明かりに10万zも出せるか…定期的に魔石も買うか集めねぇといけねぇし」
「だからってお前、松明じゃ片手塞がっちまうだろ…」
「その時はお前のランタンに何とかしてもらうわ」
――ワイワイワイッ――
そんな二人の戯れを背に…私は洞窟の方をジッと見据える…。
――……――
相も変わらず、暗闇が外からの視線を遮り…吸い込まれた涼しい潮風が、温く生臭い排気となって帰ってくる。
「……♪」
その匂いは不快で、同仕様もなく〝臭った〟が…同時に、その不愉快極まる悪臭の中に一つ…香しい〝香り〟を見つけ…私は薄く笑う。
――フワッ――
潮と籠り淀んだ悪臭に混じり微かにだが…甘く鼻を擽り誘う〝血の匂い〟が有る…それも此処は遥かにその匂いが濃い。
それだけ…この場所は〝死〟で満ちているのだろう…そう思うと、私は高揚に胸が高鳴り、身体が甘く疼く…。
「うっし、準備完了だぜ!」
「暗闇からのアンブッシュに気を付けて攻略だな!」
そうして、準備を終えた2人を引き連れて…私達はその洞窟に足を踏み入れた。
『〝―――〟』
●○●○●○
「――あれまぁ、アンタ達…島の外からやってきたんかい?」
「そうそう♪…ちょっとした調査と観光に来たんですよ♪」
潮風が長閑に流れる港の村…その村の中…村長の宅内で、男と女が並んで、村長にそう説明していた。
「調査だっても…こ〜んな辺鄙な島にゃ、大した魔物も居やしねぇで…島にある幾らかの村とゆる〜く生活してるだけのもんですが…」
そう言う村長の不思議そうな視線を、黒髪の優男は受け止めて、微笑みながら言葉を紡ぐ。
「いえ、実はこの島の海域に〝奇妙な魔物共〟がうろつき始めましてね?…その魔物の調査と、島内の人間への注意喚起の為にこうして遥々我々がやってきたんですよ〜ジゼル村長」
「はぁ…そうですか…」
「そうなんですよ」
その言葉に村長と男は、淹れられた茶を啜りながらそう言い…一息付く…そして。
「しかし…〝海域に魔物が出た〟と言っても、我々が海に出るのを禁じられるのは困りますなぁ…何分此処は漁村なもんでして…海で捕れた魚は村の食料に、他村との交易にと使いますので…」
村長がそう、申し訳無さそうに言うと男は深く頷き…村長の方にズイと近付く。
「其処は御安心を…沖の方に見張りを張って警備させるので、海に出られないと言う事は無いですよ…ただし、あまり村の外には出ないほうが宜しいかと…〝件の魔物が出た影響〟か、周囲の魔物達も幾らか凶暴になっているので…どうしても出なければならない時は此方に一報してくれれば、護衛を派遣出来るのでね」
「……成る程…だったら、我々が協力を拒む理由も有りませんね」
「おぉ、それは有難い…!」
その言葉に男はそう言うと村長の手を握り、隣に座る女と共に立ち上がる。
「それでは我々――〝彼方の獣〟は一先ず立ち去りますね…そういえば調査の過程で見つけた廃村なのですが…彼処を此方の拠点に使っても宜しいでしょうか?」
「あぁ、構いませんよ…うちの爺さんの爺さん位の頃に使われていた村の跡地らしいですが…何やら山鳴りか流行り病かで村には何も有りませんで」
「では遠慮無く使わせて貰います…また、我々も〝交易所〟を作りますので…何か入り用ならば、ソチラで対価を用意して頂ければ物を御用意致しますね」
そして、男と女は村長に頭を下げると…外の人間の姿に興味津々な村の人達と軽く言葉を交わしつつ、村を後にする…。
「ふぅ…一先ずコレで〝彼奴からの仕事〟は終わりだな…全く、プレイヤーにイベントの仕掛けを用意させるのはどうなのかねぇ…」
少し進んだ先…人の気も何もなくなった山の暗い森の中で…男は先程までの人当たりの良さそうな風貌から一転…呆れを含ませた顔で虚空を見つめる。
「全くですわッ、折角のデートに水を差すなんて…今度会ったら承知しませんわ!」
その隣の女も、先程までの置物の様な佇まいから一転し、プリプリと怒りをあらわにしつつ男の腕に抱き着き…歩き出す。
「――まぁ、仕事は仕事だ…終わった後のことはこれ以上深掘りはしないで置こうかグルーヴ…それで?…〝何か面白い物〟は見つけたか?」
そんな二人を取り巻く空間は…不思議な程静けさに満ちていた…日照りも、青々しい空も…生命が躍動するに相応しい場で有るにも関わらず…周囲には〝命の気配〟が何一つなかったのである。
「いえ…〝眷属〟達も使いましたが…どうやら此処に主様の目を引く様な物はあまり無い様ですわ」
その異様な気配で、極平然と過ごしている二人が…そう言葉を交わしていると…不意に女の…グルーヴと呼ばれた美女はそう言い、男を見る。
「ふむ…〝あまり〟かグルーヴ…そう言うと言う事は、〝少し〟は面白そうな物を見つけたか?」
その言葉に男はそう返し、グルーヴを見やると…彼女はニコリと笑みを浮かべて男へ言う。
「流石、主様…その通りですわ!――実は、この村の…とある場所に、〝面白い物〟が刻まれていましたの♪」
「刻まれていた?…ふむ、何かのマーキングか?」
その言葉に男は案の定興味を示すと…グルーヴは誇らしげに胸を張り、男へ告げる。
「えぇ、〝奇妙なシンボル〟のような物…でしょうか…ソレに近付いた眷属達が次第に力を失い衰弱死した様子を見るに…〝退魔〟の類でしょうけど」
「ふむ…それは確かに気になるな…〝上位屍人〟のお前が創り出した〝中位屍人〟が衰弱死する退魔の印か…調べるとこのイベントで何が起きるのか…読めるかもしれん♪……観光がてらに調べ回るとしよう♪」
「ッはい!」
すると男はグルーヴにそう言い…この静まり返った森に一雫の〝黒〟を垂らす…その瞬間。
――ジワッ!――
真っ黒な大地が男の足元に広がり…その〝暗い大地〟の中から現れた〝口〟が…男達を飲み込むと…場の空気は、先程までの静寂が嘘のように…活気と生命に満ちた叫声を重ね奏でていた。




