学徒達は夏熱に浮かれる
本日の投稿です。
ちょっとしたリアル描写を出したかったので出します。
――ザザァッ…ザザァッ…――
飛沫を上げる海のうねりが、砂を巻き上げる…爽快に晴れ渡る空に熱い陽射しが肌を焼く…そんな〝海の際〟に…一人の青年が歩を進めていた。
「〜〜♪」
ご機嫌に鼻歌を奏でながら、青年は…己の父等が働く漁船の方をチラリと一瞥し、その歩を迷うこと無く進めて行く…。
浜辺と陸の瀬戸際…都合良く生え繁った緑の長い草はが一つの道を覆い隠し…その道の先には、一つの〝秘境〟が現れる…。
――ガッ…ガッ…ガッ…――
大地を踏み締める音が、反響する…其処は自然が創り出した〝穴蔵〟…人目に潮の流れの為に漁船が寄り付く事は無く、滅多に外部へ出向かない村の人間が来る筈も無い離れの洞窟…其処は、青年の〝秘密基地〟で有った。
――フワッ――
洞窟を仕切る草編み扉を開けば、香るのは獣避けの香草の匂い…獣の脂で作られた蝋燭は、洞窟の内部を照らすには十分であり…その明かりに照らされて、無数のカゴに釣竿やら小道具は納められ、中には地味だが決して粗末では無い寝具やテーブルも備えられ…凡そ秘密基地と呼ぶに相応しい〝原始と文明の中間模様〟が、その室内に広がっていた。
――ゴソ…ゴソ…ゴソッ…――
青年は秘密基地に入ると、カゴから網を取り出して…秘密基地を出る。
――ザザァッ…ザザァッ…!――
近付く潮の匂いと波飛沫に青年は口端を軽く上げて…秘境の砂浜へと…歩を進める。
「……ん?」
そして、何時ものようにまた…気ままに海へ飛び込もうとした…その時、青年は自身の先に〝先客〟がいる事に気付く。
「何だ…〝人〟…?」
一抹の警戒心と共に、音を殺して進む…そのシルエットは人だった…髪は金色に煌めき、肢体は細く白い…日に焼けた村の人間とは違うその姿に青年が疑問を浮かべていた時…不意に〝向こうの何者か〟も青年に気付いたのか顔を上げる…。
「こんにちは、この島の人?」
そして…その〝娘〟は…青年を誘う様な妖しい笑みと共に…彼へ言葉を投げ掛けたのだった。
○●○●○●
「――ねぇねぇ、獅子神さん!」
「?……何かしら?…門崎さん」
授業も終わり、帰り支度に皆が忙しない雰囲気を醸し出す中…不意に、この教室で私を呼び止める者がいた。
「獅子神さんって夏は何処かに行く予定有る?」
その人物は、この教室でムードメーカーの役割を担っている女子生徒、そんな彼女の問い掛けに私は記憶を探る。
「?……特には…」
元々大した趣味を持ち合わせず、我が家の血筋はアウトドアへの興味も薄い故に、夏休み一杯のカレンダーは純白で有ったのを思い出し、そう言うと…その女子生徒――門崎さんは目を輝かせ、人懐っこい笑みを浮かべて私の手を握る。
「それじゃあ今度私達と遊びに行かない!?――実は男女7人一泊二日で遊びに行くんだけど…どうしても獅子神さんにも来てほしくて!」
そんな熱烈なアプローチに私は疑問で思考を埋め尽くす…はて、そんな風に言われる様な何かをした覚えはないけれど…。
「???…私に?…何故?」
兎も角、そう言う門崎さんに私を誘う理由を問うと…彼女は分かりやすく困った様な様子で、己の背後をチラリと覗く。
「えっと…それは……」
その視線を追ってみると…其処には6人の男女の姿…皆が皆此方を観察し…ソワソワとしている…その会話は周りの喧騒等に掻き消され、生憎聞こえはしないが…どうやら、単に彼女の気紛れで私が選ばれた訳では無いらしい…。
――『――』――
本音を言ってしまえば…〝向こうの世界〟で過ごしたいと思っているが…さりとて、日がな1日部屋の中で眠りこけるのも不健全と言える…それに、私が新たな趣味を始めた所為か…普段にも増して家族からアレやコレやと私の生活環境やら交友関係やらの問いが多い…いい加減話を深掘りされるのも苦しくなって来た事だし…此処は一つ、この話に乗ってみるのも良いかも知れない。
「――まぁ、良いわ…私で構わないのなら、貴女のお誘いに預からせてもらっても?」
私が了承を告げると、彼女は爛々と目を輝かせて私の手を取り飛び跳ねる。
「ッ〜〜〜!――うん、ありがと!…それじゃ連絡先交換しよッ、グループにも招待するね!…着替えと後でラインで必要な物を伝えるから、10日後に現地集合で!」
そして、そう早口で捲し立て…熟練の指捌きで私の連絡網に自身やグループの名簿を追加すると…遠巻きに様子を見ていた彼彼女等へ嬉しそうに駆けていく。
「……」
「?……(ヒラヒラ)」
「ッ…(ペコリ)」
ソレを見送り…序に、目が合った彼へ軽く手を降ると…私は支度を終えて…帰路へつく。
「……〝お泊り会〟か…どういった物が必要なのかしら」
美怜辺りに聞こう…あの娘ならこう言った催しには慣れてるでしょう。
●○●○●○
「――流石〝口八丁の門崎〟…あの〝氷姫〟を参加させるとか、いやホント凄いわね」
「フッフーン!――もっと褒めても良いんだよー?」
やいのやいのと、学友達が盛り上がる…そう、客観的に事を認識しているが、実際の所俺もまた…彼女へ深い尊敬の念を感じていた。
〝氷姫〟と言う呼び名は…恐らく本人以外の誰もが知っている物で有るだろう…〝獅子神真央〟を指す言葉だ。
この学校におけるマドンナの一人…整った顔立ちに、神秘的な雰囲気と、その瞳の持つ力強さと多くの男子がその美貌に言い寄ったが尽くが粉砕されたと言う事実によって作られた〝氷の姫〟と言う呼び名…ソレが彼女である。
「…」
「――よ〜し、獅子神さんが来てくれるって分かったら、早速〝準備〟しないと!…そーいうわけで、今から作戦会議をするので、男子諸君は帰宅してねー!」
門崎がそう言うと、他の女子達に俺含めた男子生徒は締め出される。
「ッ…!」
そうして、大人しく帰路に着く中…俺は、〝彼女が参加する〟と言う事実に、喜びを感じ…微かに口端が緩むのを感じていた。




