死臭の賢者
本日の投稿…本当は昨日投稿したかったんですが…風邪引きました、クソッタレ。
今日はちょっとリアルHPがヤベーイのでこの辺で。
――カッ…カッ…カッ…カッ…――
〝王都カティア〟…人々の王国、その中でも最も権威と活気に満ちた〝王の都〟…その薄闇を彼…〝ドクター〟こと、〝アルス・アスクレス〟は進んでいた。
――カッ…カッ…カッ…カッ…――
湿気と、悪臭に満ちた其処は…今や整備され、王国の管理の元確かな衛生品質を保たれている王都の〝下水道〟とは遥か乖離した古く原始的な下水道。
王都外縁を伝うその下水道には、低級の魔物が跋扈し…曲がりなりにも〝聖獣の側〟に立っているその男は、道行く魔獣を駆除しつつ、その先を進む。
暫く進めば…悪臭も湿気も消え…獣の気配も消えたその場所に、空間を隔てる〝扉〟が暗闇から浮かび上がる。
――コンコンコンッ――
ドクターはその扉にノックする…しかし、その扉の先からは一向に返答が無い…しかし、ドクターはソレをまるで予見していたかの様に、何の躊躇いもなく扉のノブに手を掛ける。
――ガチャッ――
すると、扉は容易く開かれると…ドクターは視線を扉の先に向け…それから溜め息を吐いて、中に入っていく…。
――カッ、カッ、カッ――
防犯意識の欠片も存在しないその扉の先には…見るからに古臭く、怪しさの極みの様なおどろおどろしい物品で溢れ返り…同時に、地下水道に有るにはあまりに不自然な〝古い家屋〟を思わせる部屋の、その奥の部屋に足を運ぶと…ドクターは、己に背を向け…何かに熱中する灰色ローブの〝何か〟に、言葉を掛ける。
「相変わらず…また〝妙な魔導書〟の解読に勤しんでいるんだね、〝師父コーバック〟」
その声に師父コーバックと呼ばれた人物はピクリと全ての動きを留め、それからグルリと首を180度捻りドクターを見やる。
「おや、おや、おや、おや!――其処に居るのは我が愛おしき、我が憎むべき、我が愛弟子ではないか!」
その男は、己の眼の前にいるのがドクターだと分かるとそう言い手招きし…ドクターを誘う…その言葉にドクターが一歩、歩を進めたその瞬間。
――パチンッ――
不意に現れた魔力の糸が、ドクターの周囲に現れ…彼と空気の間にびっしりと絡み付く。
「チッ…前より警戒心高くないかお前?」
しかし、その糸がドクターに当たらないと分かると灰色ローブの男、コーバックは舌打ちと共に魔力の糸を解く。
「つくづく、君は変わらんね…そりゃあ、死なんからと何度も意味も無く殺そうとする相手の思い通りにはしたくないだろうよ」
そして、邂逅一番に殺しに来る師父へドクターは慣れた様子でそう受け流し…古く…しかし、清潔に保たれた椅子に腰掛ける。
「むぅ……まぁ良い、それで?…役50年ぶりに〝私の工房〟にやって来るとは…一体どう言う風の吹き回しだ?」
――ギィッ――
「いや、なに…大層な理由は無いさ…ただ懐かしの師父に会いに来ただけさ…さっさと死んで成仏してくれてると嬉しいな…とも思ったがね」
コーバックの問いにドクターがストレートにそう返すと、コーバックはクツクツと笑いながら、首を横に振る。
「いやいやいや――〝この愉快な世界〟を知り尽くすまではどんな事が有っても死ぬつもりは無いぞ?」
「その結果、君は王都外縁を縄張りに、夜な夜な教会の墓地から予備の部品を掘り起こす〝不死者〟に成った訳だが」
「別に良いだろう、人間は偶にしか食べてないし…罪人以外は食べて無い…それに死体だってどうせ土に帰るなら此方で有効に使っても良いだろう?」
「……今の所は、私との約束を守っている様で良かったよ」
二人の師弟はそう語らいながらも、親睦を深め合い…コーバックは、己の蒼白い肌を蝋燭の炎に反射させながら…ドクターに告げる。
「――さて、折角弟子と再会した訳だし…もう少し語らいたい所だが…残念ながらそうも行かない様だな、アルス」
その言葉にドクターは立ち上がった姿勢のまま、コーバックを見下ろし肯定に首を縦に振る。
「まぁね……実は、ニュートの街が魔獣に占領されたんだ」
「――何?」
「その対応の為に王都カティアへ赴いたのさ………ん?」
ドクターの紡ぐ、その言葉だけが古びた工房の中を木霊する…その沈黙に、ドクターはふと気付く…己の師父、コーバックの顔が何やら険しく、思慮に耽っている事を。
「〝魔獣の街〟…〝穢れと淀みに冒された獣の街に種は根付き〟……〝王国は裏返る〟……ふむ」
その言葉は小さく…ドクターの視線にも気付かず独り言を呟くコーバックは、不意に顔を上げ…ドクターを見る。
「――成る程…〝彼方の獣が鍵〟か…そうか……良し、我が弟子よ…師の警句を聞くが良い」
「なんだい唐突な…何かのジョーク…では無い様だね?」
「普段なら冗談だがな、〝種が芽吹いた〟と有れば少なからず〝事態は悪化している〟のだろう…まだ〝最悪〟では無いがな」
何やら訳知り顔に意味深言葉を呟きながら…コーバックはドクターへと、その重い口から警句を告げる。
「〝悪徳の大樹は滅びの一種〟…〝大樹は十の同胚を持つ〟、〝全てが揃って始めて悪徳の災いは生まれ落ちん〟…努々気を付けるがいい」
コーバックはそう言うと、ドクターに背を向け…そのまま、以前の様に魔導書の解読に精を出す…ソレを背中越しにドクターは見詰めると…彼はそのまま工房の外へ向かう。
「敢えてどういう意味かは聞かないでおくが…兎も角、警句は覚えておこう」
そう言うと、彼はもう一度コーバックを一瞥し…扉の奥に消えて行く。
――カッ…カッ…カッ…カッ…――
その後暫くしてから、遠ざかる足音を工房内に響かせて。
「――〝何の内容も無い白紙の魔導書〟だと思ってたんだがなぁ」
また己一人と成った工房の中で、死臭の賢者は己の眼の前に広がる、黒地の書物に視線を落とす。
「急に文字が現れたんで解読してみれば、〝魔獣の街と悪徳の大樹〟だ何てタイトルが浮かび上がってくるとはな…一種の〝予言書〟の類か……ソレも〝滅び〟に特化した物…察するに〝滅びの予兆〟を知覚するとそのシナリオが文字に浮かぶって所かね?」
其処には、頁一杯に書き記された文字と…10の円と22の線で作られた奇妙な暗号の様な図解が広がっていた。
「…この魔導書の製作者は―――〝■■?〟…なんだっけかこの文字…確か、〝極東の言語〟で……〝ウツロガミ〟…だったか?……兎に角、ソイツに会ってみたいねぇ…十中八九――」




