生き飽く羊の願い事
遅れ馳せて本日の投稿…深夜帯にもう一本…午前6時までは今日だから…イケルイケル。
――〝カパッ〟――
ソレは土砂降りの雨に打たれながら…大地を撫でつける強風に揉まれながら姿を表した。
――グニョグニョ――
――グネグネッ――
赤黒く、脈動する〝肉の泥〟…ソレが大地から伸び、触手を幾重にも伸ばし、〝生命の形〟を模倣する。
――カタカタカタカタッ――
ソレは〝数多の牙〟を模した蠅捕草であったり。
――ギョロギョロッ――
何百の目玉を出鱈目に生やした松であったり。
――グニョグニョグニョッ――
人の手で作られた花弁を持つ、向日葵の姿であったり…。
その場に咲き誇るソレは、そのどれもが常軌を逸した…〝狂人の悪夢〟を具現した様な姿をし、その姿に老いた魔羊は、否が応でも警戒心と生理的嫌悪を掻き立てられる事になる。
「――ぼーっとして良いのかな?」
そんな時、不意に背後から響いた言葉に…彼はその〝気配〟を知覚し…雷鳴を纏う。
――ドロッ!――
その瞬間発せられた雷撃は周囲一体を駆け巡り…空を、大地を、其処に潜む〝肉腫の根〟を、己へ拳を振るう〝娘〟を…その猛威で散らす。
『『『ッ〜〜〜!?!?』』』
「――っと…惜しい♪」
苦悶を上げるように、忌まわしい金切り声を上げ、目を血走らせる肉腫の植物達、電撃によって焼け付いた傷からは、血のように粘液を流し…ソレは地面に伝うと周囲に伸びた目に取り付き…新たな〝肉腫の花〟の一部になる。
「〝牽制の一撃〟…闘争の定石として悪く無い一手では有るけれど…事今に至っては〝悪手〟よ?」
「ッ……!」
其処で気付く…目の前に居るその娘が放つ…悍ましく、膨大な魔力が周囲に〝放出〟され…ソレが大地に蠢く肉腫の花達へ注ぎ込まれている事に。
●○●○●○
「眷属作成は〝使役術〟と同じ様に〝支配者と従属者〟の双方が存在する、従属者は支配者への絶対隷属が基本であり、支配から脱するには〝支配者と大きく離れた力〟を手に入れるか、〝支配者からの隷属解除〟が絶対条件…だけれど、〝支配者が従属者を解放するメリット〟は…大抵の場合〝メリット〟が無い」
尤も、従属を維持するだけの力が残っていなければその限りではないけれど…そんな状態で隷属を続行する状況は極めて稀だ。
「何故…こんな話を今するのか?…なんて、言わなくても分かるわよね?」
――ゴゴゴゴゴッ!――
大地が揺れ…木の根がのたうち回る…その様は宛ら〝憤怒〟を表すように赤く赤く…色彩を変化させ、その形状をより地獄模様に変化させる。
「――〝支配下〟から解放した彼等に、魔力を注ぎ込み…〝自意識と自己進化〟を促した…完全に〝独立した個体〟として生まれ落ちたこの子達は…〝己の生命を脅かすモノ〟――〝アナタ〟を排除すべき〝驚異〟と認識した…」
傷付ければ傷付ける程、この子達は学習し…成長し…〝変質〟してゆく…ソレが意味する所はつまり――。
「〝この子達の攻撃〟を捌きつつ、〝私の攻撃〟も並行して処理しなければならない」
「ッ…!」
例え私やこの子達が彼に劣る力で有ったとしても…10や20とその数が増えてしまえばその物量を無視出来るほど彼と私の戦力は隔絶していない。
――ギュギュギュギュッ――
「〝ラウンド2〟…〝開始〟ね♪」
○●○●○●
――ゴゴゴゴゴッ!――
大地を撹拌する様に、巨大な植物の根がのたうち回る。
――タンッ、タンッ――
荒れ狂うその波を、軽やかに躱し…ソレは自らの魔力を解き放つ。
――バリバリバリッ――
焼ける様に、爆ぜる様に…青雷は赤黒い肉塊を爆ぜさせ、異臭で戦場を満たす…しかし。
「「「#▲※¶¥※§!!!」」」
雑音紛いの大絶叫を上げる〝肉腫の植物〟達は、悲鳴と共に撒き散らした血肉で互いの傷を補修し、混ざり合い、結合し…〝変化〟する。
「ッ…」
〝再生〟…それも単なる再生とは異なる…〝融合〟の様なモノ。
個々に分かたれた〝種〟を結合し…〝一つ〟に統合する事で、力を加算し肉体を癒す…〝歪な再生〟…。
――ゴポッ――
「ッ…!」
ウツボカズラの様な肉の植物が、その大口を膨張させる…その異様に其処を立ち退くと、その直ぐ後をドス黒い〝瘴気〟が通り過ぎる…。
「「「ッ〜〜〜!?!?!?」」」
仲間?…同種?…を気にせず放たれた瘴気は、溶解液の役割も持っていたのだろうか…道行く肉の植物達は、植物に触れると悲鳴を上げてドロドロに解けて消えていく。
――ズズッ…ズズッ…――
その〝肉泥〟が産み落とされると周囲の植物達は我先にとその肉の泥を啜り、自らの糧として取り込み更に変貌を遂げ…その身の武器を駆使して己へ仇を成す。
――タンタンッ、タンッ!――
「ッ――!」
「§※■¢$※!!!」
大地を埋め尽くす赤黒い根は、次第にその身に茨のように棘を備え、松を模る万の眼を持つ異形は、己の根を他の植物達へ接合し、己の視界を共有する様に周囲の情報を捉え続ける。
「『※※※※!!!』」
「「「ッ―!」」」
すると、周囲の植物達はまるで統率の取れたパーティーの様に己の役割を熟し始め、大量の小さな〝小蜂の群れ〟を飛ばし、ソレを焼き払えば背後からは太く巨大な触手が振り下ろされ…空へ跳び退けば万の手を持つ向日葵が伸びてくる。
「ッ!――メッエッ!」
常軌を逸した地獄、悍ましい怪物…遠巻きに己を狙う〝怪物〟…いつの間にやら曇天の戦場は地獄の肉腫共に支配され…ふと気付けば…いつの間にやら己が〝挑戦者〟の立場へと入れ替わっていた。
――ドスッ!――
幾重にも伸びた触手の一つが、己の肩を貫く…ソレを好機と見たのか、大量の触手共が己の血肉を啜り取ろうと這いより蠢く…絶望的に見えたその光景を前に…己は――。
――ゾクッ――
「ッ〜〜〜♪―――〝メッエェェェッ!!!〟」
久しく感じ無かった…瑞々しい〝恐怖〟を…知覚した。
――バチンッ!――
瞬間、己の生存本能からか…半ば反射的に、触れた触手を離さないと言うように自らの身を固める…その行動に、異変を感じたのか…それとも単なる反射か、己を貫いた根の持ち主は強引に引き剥がそうと己の中を掻き立てる…しかし、ソレも数秒とせぬ内に収まる…何故なら。
「ッ――〝メ"ェ"ェ"ッ〟」
己の身に蓄えられた〝雷霆〟の…その殆どを、奴と、己の周囲に放出したのだから。
――バリバリバリバリッ――
轟音と共に、己と肉の根が大地へ崩れ落ちる…赤黒いソレは色艶の失せたボロ炭へと変化し…己の身体には煤臭い匂いが染み付き…全力の反動か、老骨な脚は膝を衝く。
流石に…〝この威力〟なら、再生の余地も吸収の余地も無く焼き殺せるらしい…が、割に合わないな。
――ゾロゾロゾロッ――
流石にアレだけの雷轟を聞けば、生物として本能的に恐怖するらしい…傍観し、警戒しているが…それも直に消え失せ、己は奴等に貪り食われるだろう……だが。
(まだ…〝動きたい〟…!)
肉体は限界が見えてきている、先程以上のポテンシャルはもう発揮できない…しかし、それでも…〝まだ〟――。
――〝まだ、この地獄〟を愉しみたい――
漸く来た〝チャンス〟だ、漸く来た〝久方振りの闘争の愉悦〟なのだ、もう…もう二度と手に入らないと思っていた〝夢〟なんだ…!
ソレを手に入れる為なら…ほんの数分…数秒でも味わう事が出来るなら――。
例え、〝悪魔に全てを売り払っても〟――。
「〝メェェ〟――〝メェェェェェッ!〟」
――ゴロゴロゴロゴロッ!――
《〈雷呼び〉のレベルが〝MAX〟に到達しました》




