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怪物達の狂想曲〜彼方の獣達は電脳の夢を見るか〜  作者: 泥陀羅没地
第五章:彼方の獣を誘うモノ
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泥華は生き血を啜り花開く

――ビシッ、ビシッ――


「ッ…メ"ェ"ッ!」


放たれた骨片が皮膚を浅く切り裂く…その〝攻撃〟は、ソレにとって…他に類を見ない物だった。


〝塊が爆ぜた〟…〝肉と骨が礫と化した〟…ソレを理解し…同時に〝この程度〟ならば、大したダメージでは無いと…そう判断する。


――ヒュンッ!――


爆発も落ち着き、瞳を開けば…其処には此方へ飛び掛かる〝奴〟が居た。


「――シィッ!」


振り抜かれた槍を数歩の移動で躱す…と、同時に奴の腹を目掛けて頭突きを喰らわせようと攻勢に転じる。


――ガシッ!――


しかし、その頭突きを奴は片腕を盾にして塞ぎ…そのまま槍を置いて飛び退く…だが、〝触れた〟…。


「ッ――〝メェッ!〟」


己の一声と共に、奴の腕に浸透した己の魔力が唸りを上げ、腕を焼き焦がす…その電撃に耐えられず、奴の腕は肉の焼ける音を響かせ…血を流す。


「ッ〜〜〜!」


……だと言うのに、奴は〝笑っていた〟…。


流れる血の様に頬を染め、苦痛を愛でるように己の腕を手でなぞり…その傷跡を埋めてゆく…その姿は妖しく、艶美で…何よりも…〝不気味〟だった。


○●○●○●


腕を奔る苦悶は甘く、私の身を侵す。


彼の穿つ一撃から迸る〝殺意〟は…私の渇きを潤い癒す。


恐るべき好敵手、素晴らしき〝強者〟……〝喰らうべき怪物〟と、私は今〝闘争〟に耽っている。


〝心地良い〟…。


死と生の中で踊る今が、力と力を競い合う、策と策で化かし合うこの〝闘争〟が…堪らなく心地良い。


日常の中では…到底味わう事の出来ない〝甘美〟…ソレを、もっと〝味わいたい〟…。


だから――。


――ゴポッ――


「――もっと、〝ギア〟を上げて行きましょうか♪」


もっと…〝強く〟…〝求めなければ〟…。


――ギュムッ――


その手に掴むのは…大きな〝肉塊〟…その肉塊に込められた魔力は、並の物では無く…故に、彼は様子見に足を止める。


「さて、ドキドキワクワクの〝イースターエッグ〟…何が出るかは〝お楽しみ〟」


そんな彼に視線を向けたまま…私は手に持っていたソレを、空高くに〝放り投げる〟…。


必然、ソレを追って彼の視線は空を向く…〝肉塊〟は空を昇り、そして、それ以上は進む事も出来ず、ただ落ちてゆくだけとなったその時…〝肉塊〟は、その身に宿していた魔力を解き放ち…小さな爆発音と共に…自身の〝外膜〟を破り捨てる。


――ヒュゥゥゥッ――


そして、そんな肉塊の破裂と共に大地へばら撒かれるのは、その肉塊をより小さくした様な…私がさっき試しに彼へ使った〝肉塊の手榴弾〟達…その姿を見た途端、彼は私の意図を理解したかの様に…その視線を私へ向け…自らに魔力を集中させる…。


「〝防御の構え〟…流石歴戦、判断が早いわね」


空から迫る〝小さな爆弾達〟を前に、彼は〝防御〟を選択した…成る程ソレならば、先程の様な手榴弾モドキの攻撃ではカスリ傷一つ付かないだろう…妥当な選択だ…しかし。


「――でも、〝ソレ〟だけじゃあ不十分ね♪」


何も〝破片を撒き散らす〟事だけが〝コレの本質〟では無い。


――パァァンッ――


大地に近付いた其れ等は、ランダムに爆ぜてゆく…その度肉に骨、歯に臓腑とを撒き散らして枯れて行く…その威力は決して高くは無かったが、戦場に残った腐った血の匂いと無数の傷跡を見れば、これしきと馬鹿にする事も出来ないだろうと言うのは容易に見て取れた…しかし。


〝骨の散弾〟も、〝死臭の血肉〟も…その全ては〝囮〟に過ぎない…本命は。


――ヒュドッ――


其れ等の撹乱に紛れて、射出される…私の〝触手達〟だ。


「〝ただの撹乱〟だと思って油断した?……ちゃんと〝攻撃の手〟は考えてるのよ♪」

「ッ…メェ…!?」


己の腹部を貫く、赤黒い〝肉の槍〟が…彼の体から血を吸い取る…そして、ソレは老いた雷羊が己に張り付いた異物を振り落とすのと共にその場から離れ…弧を描いて泥濘の中から姿を現し…私の手の内に収められる。


「――〝未知〟程恐ろしく…そして強烈な〝罠〟は存在しない」


無数に散らばる肉片に染み付いた魔力が、周囲の微細な魔力の動きを覆い隠す。


四方八方から飛び散る〝骨の散弾〟が、彼の動体視力を麻痺させる。



やっていることは単なる〝単なる撹乱と奇襲〟…しかし、そうと理解出来るのは〝実行者〟だけしかいない。


彼の目には私が空へ打ち上げた〝アレ〟の時点で、幾重にも分かれた〝結果〟が拡がっていた筈だ、肉塊が爆ぜて更に倍、無数の〝種〟が現れてそのまた倍。


この地に住まう…〝留まる〟と言う事はつまり、それ以上先にある〝世界〟を見ないと言う事…故に、私の様な異物は、〝未知の驚異〟でしかない。


なまじ聡い為に思考は答えを無数に紡ぎ出し、思考の空白を埋め尽くす…。


「――だから、〝こんな事〟になる」


その結果が、〝隙〟と成り、今に至る…彼の身は貫かれ、血が流れ出す様は痛ましい…それでも。


「――〝メェェッ!〟」


彼の歩みは力強く…その動きには些かの歪みもなく洗練されていた。


「フフフッ…〝それでも〟…〝まだやれる〟…そう、そうよね?…だってまだ、腸が貫かれた程度だもの…四肢がもがれた、心臓が潰れた、脳が壊れた訳じゃない…ただの〝負傷〟…その程度で止まるなら、アナタは狂戦士跋扈するこの大地の長にはなっていない」


その殺意は鋭く研がれ、その敵意は一層深く…彼の視線は私へ注がれ…その身からこぼれ出す〝雷鳴〟は…大地を駆け巡る…。


――バチバチバチッ――


「〝漸く本腰に入った〟…って感じかしら?」


彼の目には以前に増して鋭い〝殺意〟が宿り…老いて濁った瞳には生気が宿る…佇まいは、先程までの軽やかな佇まいから一転…大地を強く踏み、その褪せた黒雲の毛皮に青雷が渦巻いていた…。


〝此処からが本領〟……そう、誰もが予想しただろう…その〝変容〟……しかし。


――グチュッ――


「――でも、〝本気〟になるのが〝遅過ぎた〟わね…お爺ちゃん?」


その変容の手札を切るのは…ほんの少し〝遅過ぎた〟…。


――ゾワッ!――


「〝眷属作成〟…〝咲き狂え〟」


――〝蠢泥の花〟――


曇天と、雷雨の戦場は今…〝変質〟する。

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