延々と、怨嗟は燃えて
本日の2本目をば、3本目は無い…です。
『復讐と災いの魔女、起き給えよ』
「――へ?」
何故だかは分からない…けれど私はその声が、〝私〟へ向けられた物だとハッキリと理解した…そして気が付けば〝其処〟に居た。
「此処…は?」
其処は…〝家〟だった…何の変哲も無い、普通の家…木の匂いと、懐かしさを感じる部屋の中…大きなベッドの上で私は座っていた。
『此処は在りし日の〝幸福〟…お前の寄る辺であり、最早手に入る事の無い怨嗟と憎悪に焼かれた〝虚構〟さ』
そんな私へ、声が響く…男の人の様な、女の人の様な…そんな声…その声の主は姿を見せずに私へ言葉だけを送り…クスクスと笑う。
「貴方は…誰?」
『僕?…僕はね――』
そして、私が瞬きをした…その瞬間。
「〝地獄の案内人〟さ♪」
目の前には…赤い目をした、真っ黒な髪に焼けた肌をした…人形の様に綺麗な人がそう言い…私の目の前に立っていた。
「地獄…此処は幸せなんじゃないの?」
「無論、此処は〝幸福〟さ…君だけの幸せ、君だけの〝世界〟…間に立ち止まった君から抽出された〝止まった世界〟…〝境界〟さ…僕と君は此処で〝選択〟を待たなければならない…君はこの舞台の〝景品〟だ…生憎私が1番好きな役割は、〝何処かの紛い物〟に奪われちゃってね…忌々しいがこうして君のお守りを担当していると言うわけさ♪」
その人はそう言いドカリと私の横に座ると…空間を撫でる…すると、部屋の中に幾つもの映像が現れて私はソレを覗き込む…其処には。
「大きい…怪物?」
ドロドロとした、不思議な姿の怪物が…空を飛ぶ、大地を走る〝獣達〟へと襲い掛っている映像が映っていた。
「そう、〝悪者〟さ…捨てられて、存在を忘れ去られた憐れな悪者、自身が〝何を求めているのか〟も分からない、狂った怪物だ…そして、コレは〝君〟でもある」
その映像を見ながらお姉さんはそう言い微笑む…しかし、その言葉の意味を私は聞こえはしたけれど、理解する事は出来なかった。
「……?」
「分からなくても良いよ、存在が希釈な君には理解出来無い話だからね…君は此処にいる間、コレを見て暇を潰すと良い…そうすれば、いつの間にか君の向かうべき道が現れる筈だ」
「……お姉さんの所?」
「ハッハッハッ、僕としては是非そうなって欲しいがどうだろうね?…今は違う道も現れたからねぇ?」
お姉さんの言う言葉は結局どういう意味なのか…私はソレが理解出来無いけれど何故だかその〝映像〟から目を離すことが出来なくて…ジッと、その中に映る光景に目を傾けていた…。
○●○●○●
――ビキビキビキッ――
「〝腕部変形〟――〝黒曜蜥蜴の鋭爪〟」
大地への落下と共に、周囲の肉泥が弾け飛ぶ…撒き散らかされた肉の泥はその機能を喪失して他の泥に貪られて消え…空いた穴は急速に再生する細胞によって瞬く間に埋められてゆく。
「――〝邪魔をするな〟」
そんな肉の泥を不可視の触手で蹴散らしながら、私は地面を抉り進めてゆく。
――ドチュドチュドチュドチュドチュッ――
爪を突き立てる度に、肉は引き千切られ、血は吹き出す…ブニョブニョとした気色の悪い管を引き摺り出して千切り、白々しい硬質化した支えを砕き折る。
――ギョロッ!――
そんな私を、抉り分けた先から生えてくる〝目玉〟が捉え…血走っためで怒りを表し、引き裂かれた歪な空洞を〝口〟にして、雑音を吐き捨てる。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
狂った様に、延々と吐き出される〝空っぽな殺意〟の呟きを背景に…私は槍を突き立て…〝ソレ〟へ告げる。
「口より先に手を動かせば?…大馬鹿さん♪」
〝知性〟有るが故に、ソレは私の挑発を理解する…するとどうだろう、ソレの肉体はブルブルと震えだし…その脈動と共に私の周囲の〝肉の泥〟はボコボコと泡立ってゆく…ソレは〝変形の予兆〟だった。
「〝殺す〟――〝マオ・ディザイア〟ァァッ!」
ソレは先程の、ただ見聞きした声を真似るだけでは無い…確かな意志を宿したその〝叫び〟に…私は〝危険〟を察知しその場を退避する…すると。
――グバァァッ!――
その巨躯は全身から凄まじい量の、鋭い〝骨の針〟を作り出し…四方八方へ突き出す…その余波は凄まじく、大地でソレの侵食を抑え込んでいたコボルト達の何人かが、その針に貫かれ…即死し、幾人かは瀕死のまま…その身体を肉の泥に取り込まれようとする。
「ガッ――グッ…クソッ!」
「マジかよッ……畜生ッ、〝ボス〟!」
しかし、取り込まれるその瞬間…瀕死の彼等は自身のリーダーに言葉を呼び掛け…己の武器を後方に投げ飛ばす…そして、その手から手榴弾を取り出すと…自身とありったけを肉の泥に投げ付け、即死した仲間の身体に押し込み――。
「「「「グアァァァァァッ!?!?!?!?」」」」
絶叫を上げて、その肉を爆炎と破壊に晒して…自爆した。
「MImimimiiii――コノ――〝邪魔者〟共ォォォッ!!!」
そんな彼等の〝奮闘〟も、その〝肉泥の怪物〟の逆鱗に触れたらしい…時を経る毎に憎悪を増してゆく、殺意が膨らむ…その〝慟哭〟を見て…〝黒衣〟はせせら笑う。
「――ハッハッハッ!…怒れ怒れ〝無名の忌み子〟…叫んで暴れて、足掻いてみせろ!――〝欲する物〟を違えたお前には…下らない結末がお似合いだ♪」
「Ooooォォォオッ、お前、モ――〝死ね〟!」
そんな黒衣の言葉にさえ、ソレは憤怒を向け…出鱈目に、滅茶苦茶に暴れて蠢き…廃墟街を踏み鳴らしていく。
「まだ…まだッ…まだッ!……」
「MAamamama――マオoディzaイアaaa!!!」
闘争は激化し、敵味方は入り乱れ、混沌が場を満たす…そんな狂宴の最たる〝苛烈〟の中で…やはり〝ソレ〟は…私をその眼で捉えたまま…他の誰に注ぐよりも強い〝憎悪と殺意〟を込めて…そう絶叫を響かせた。
「私は此処に居るわよ――〝元眷属〟」
そんな〝元眷属〟を視界に収め…私は徐々に近付く〝その時〟を待ち続ける、細い細い蜘蛛の糸が…私の手元に来る…〝その時〟を。
そろそろこの小説と言うか、この世界の化けの皮を外していきましょうか。




