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怪物達の狂想曲〜彼方の獣達は電脳の夢を見るか〜  作者: 泥陀羅没地
第四章:喪失するは人の記憶、崩壊するは人の境界
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人の形は融解し、今災いの忌み子は生まれ落ちん

――グチュッ、グチュッ、グチュッ――


掻き分ける音を響かせて…剣が少女の胸を抉り、血肉を零していく。


「アッ…アグッ…ァァッ…!?」

「ほらほら、早く出しておくれよ〜〝あの子〟…私の研究材料にするんだからさぁ〜」


苦しむ少女とは対極に、心臓を抉る狼の声は愉しげに少女へ紡ぐ。


――ザシュッ!――


「――良い加減にしろクソキノコ…〝俺の物〟に勝手に触れるな…〝殺す〟ぞ」


そんな刹那、狼の身体がバラバラに成り…少女を貫いていた剣は無造作に引き抜かれ、その剣を持った黒衣の男はそう言い…空間全域を支配する様な、ドス黒い瘴気を放ち、狼の喉に剣を突き立てる。


「ガァッ、ちょっ…酷いなぁ〝蒐集者〟…君だって私の目的を果たさなかったくせに!」

「〝情報提供〟が俺の仕事だ、この娘を調べるのは俺の趣味の範疇であり、お前から請けた仕事では無い…この娘は飽くまでも〝俺の借り物〟だ…なるべく傷付けずに持ち主に返す…肉体も、精神もな」


バラバラに引き裂かれた、喉を貫かれたと言うのにその獣は憤慨した子供のように喚く…その口から発せられる低レベルな罵詈雑言は、その人物の、一層濃く染まった紫の瞳と、その口から紡がれる冷徹で殺意に満ちた声によって黙殺され、その人物はそう言い…傷付いた少女の方に向き直る…。


「ヒュッ――カヒュッ…!」


地面に染み渡る血の量は、少女の身から抜け落ちるには余りにも致命的な量であり、血によって気道を防がれ、掠れた呼吸音を響かせる少女の目は徐々に光を失いつつあった…そんな彼女に、黒衣の人物は手を翳しその傷に手を触れる。


「すまない、直ぐに治s――」


そして、黒衣の人物が治療しようと…その手に魔力を込めた…その瞬間――。


――ドクンッ!――


男が傷口を癒すより早く……穴の空いたレイナの胸は…鼓動を打ち鳴らした。



「ッ…何だと?」

「〝―――〟!」


その傷口から…この世のものとは思えない〝鳴き声〟を響かせて。





――ドクン――


『腹が空いた』


ソレはただ生命を模する無形の細胞だった。


――ドクンッ――


『腹が空いた』


ただ本体の命じるまま、形を変え機能を模し役割を全うし、枯れてゆく…其処に〝知性〟は存在しない…筈だった。


――ドクンッ!――


『腹が空いた』


偶然か、運命か…或いは夢見る狂人の悪辣な戯れか、ソレは〝知性〟を手に入れた。


――ドクンッ!!!――


『ハラガ、スイタ』


ソレは飽くなき貪食であり、〝自らを拡大する事〟にのみ執着する〝無形の忌み子〟…生みの親すらその存在を知り得ない…憐れな落とし子であった。




「――〝彼奴〟め…〝運命(シナリオ)〟を弄り回したな…!」


○●○●○●


――バババッ!――


「――本当にしつこい連中ね、貴方達も」

「コレが飯の種だからな、必死にもなる…!」


砲声と共に放たれた弾丸を、硬質化した翼で弾く…ソレを見た瞬間、周囲のコボルト達は懐から黒い手榴弾を取り出し…私へと投げ付ける。


――カランカランカランッ――


「ッ――!」


黒い手榴弾は転がってきたと同時に、思わず面食らってしまう程濃い瘴気を零す…ソレは以前喰らった手榴弾とは明らかに格が違う…〝兵器〟と呼ぶに相応しい武装だった。


――ドオォォォンッ!――


手榴弾が爆ぜたと同時に、ドス黒い〝呪詛〟が氾濫する…その呪詛が帯びる〝死の呪い〟は、生命として輝く私の魂に引き寄せられてか、一直線に私へと迫る…しかし、寸前で回避した私は空の上へ逃げながら迫る〝呪詛〟が…時間と共に消失していく様を見る…どうやら死ぬまで追ってくる訳では無いらしい。


「――ねぇ、貴方達ソレ何処で手に入れたの?…〝普通の武器〟じゃないわよね?」

「答える義理は無いな」


空の上から、此方を睨み付けるコボルト達と言葉を交わす…見ればあの黒い手榴弾の他にも、身に付けている装具から言い知れない圧力の様な物を感じる…。


(さっきレイナを連れ去った黒衣の彼奴と言い…厄介な奴が裏に居るみたいね)


「あっそう…じゃあ私が貴方達のお仕事に付き合う義理も無いわね」


私はコボルト傭兵団のリーダー、ドッグガンにそう言うと…そのまま硬質化させた翼で前身を覆い…彼等へと急降下する。


「ッ――撃て!」


そのまま飛び去る事を想定していたのだろう、ドッグガンの指示が少し遅れてから部下は発砲を始め、私の翼を弾丸の雨で喰い破ろうとする…だが、此処までくればもう遅い。


「――〝脚部変形〟」


――ズドォォォンッ!!!――


落下は廃墟街の字面を砕き…瓦礫を四方に散らす…迫る瓦礫を避けようとコボルト達は陣形を乱し…その、ほんの少しの歪みが私の〝脱出口〟となる。


――ダンッ!――


「〝脱兎〟」


地面を蹴り抜き、地面スレスレを跳躍して進む…その速度は凄まじく…前進から僅か数秒でコボルト達を遥か後方に追いやった。


――ダンダンッ、ダダダンッ!――


背後から銃声が響くも、此処は廃墟街…直線にしか攻撃出来ない弾丸では、高速で軌道を変えられる標的を撃ち抜く事は出来ず、彼等の弾丸は既に消え去った私の幻影を追って大通りを飛び抜けた。


「――一先ずこれでよし、次はレイナの奪還だけど…」


そんな彼等を捨て置いて、私は黒衣の人間が飛び去った方角へと突き進む…レイナを奪還する案を練りながら。


(あの黒衣の人間をどうするかよね…明らかに私以上のステータスをしてるし)


やるなら、機動力に全振りして…レイナを奪取してそのままエリア毎移動する…しかないわね。


「――此処でレイナを失う訳には行かないし…最悪レイナだけでも逃がせたら御の字ね」


そうして、今後のプランを練り直しながらレイナの居場所を探っていたその時。


――バサッ!――


「見付けたぞ、〝マオ・ディザイア〟」

「ッ!――ちょっと嘘でしょ?」


不意に空から黒い影が差し込み…私の目の前に例の〝黒衣の襲撃者〟が立ちはだかるのだった。

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