暗雲は異なる災禍を呼び寄せて
「「……」」
日記に記されていたのは…この街の司教の始まりと終わり…そして、この街…いや、〝ある国〟で起きた災いの記録だった。
「〝悪徳の夢〟、〝堕落の病〟…」
興味深い物が多く見られた…〝邪教〟の存在、ソレが崇めていた〝邪神〟…ソレが齎す〝精神の病災〟…その病を消し去る為に生まれた〝天幕〟…そして、謎の協力者達…知るべき物は数多有り、同時にこの街が曇天の廃墟街と成った原因も理解した。
――グラッ――
「「ッ!」」
全てを読み終えた瞬間、私達は世界が揺れ動いた様な〝錯覚〟を覚える…そして間髪入れず、この空間は音を立てて軋み、老朽化しはじめ、まるで周囲の建物と歩調を合わせるかの様に急速に古びてゆく。
「崩落する前にさっさと出ましょうか」
「ッはい!」
レイナの手を引き、もう片手には魔力を失くした司教の日誌を手に部屋を飛び出す…その間にも教会はミシミシと音を立てて崩落してゆき、間一髪脱した時には、其処には廃材と土砂の山が出来上がっていた。
「特別何か良いアイテムとかは無かったけれど、最低限収穫はあった…って事にしておきましょうかレイナ」
「マオさんがそれでいいのなら…私は構いません」
「……じゃ、改めて拠点に使えそうな場所、探しましょうかレイ――」
瓦礫の山を2人で眺め…そして、この廃墟街を立ち去ろうかと視線を彷徨わせた…その時。
――ジィッ――
音も無く、気配も無く…黒衣の人影が…私の視界に映り込んだ。
「――ッ」
「ッ〜!?――レイッ」
瞬間、走る悪寒…しかし、唐突に現れた謎の襲撃者の狙いは私では無く…その視線は襲撃者に気付かぬレイナへと向けられ…黒衣の襲撃者はレイナへ手を伸ばし…その身体を掴む。
――ガッ!――
「ッ!?」
襲撃者はレイナを捕まえ、そのまま此処からから飛び去ろうと、その背から黒羽の翼を生やし…強く羽撃く。
「ッ――クッ!?」
――ゴポポッ!――
しかし寸前で私は腕を変形させ、レイナの手を絡め取りって繋ぎ…ソレに安堵した…その瞬間。
――ブチィッ!――
そんなものはお構い無しと言わんばかりに黒衣の襲撃者はレイナを掴む私の触手を引き千切り、空へと飛び立った…。
「ッ――待て…!」
そんな何者かに、私はそう叫び再度触手を伸ばすが…そんな私の一手よりも襲撃者の逃走の方が早く…触手は空を切り、標的は颯爽とその場所を去っていく。
「ックソ!」
出し抜かれた事に悪態を、唐突に現れた謎の襲撃者への疑問、私では無くレイナを狙ったその行動への興味が一瞬の内に入り乱れ…兎にも角にも、私はリカバリーの為に翼を生み出し空を駆けようとする…しかし。
――カチッ!――
羽撃こうとしたその瞬間、周囲から発せられたその機械音を耳にしたと同時に…四方八方からは、悍ましい数の砲声が響き…私を、鉛の雨が襲った…。
○●○●○●
「――お疲れお疲れ〜♪…いやぁ、相変わらず見事な手際だねぇ君は」
同刻…廃墟街に砲声が響き渡るその頃…空へ飛び立った黒衣の襲撃者は、廃墟街からそう遠く無い場所に有る…小さなボロ小屋に降り立ち…其処で待ち構えていた虚ろな目の狼の前に、攫ってきた少女を降ろす。
――ドサッ!――
「キャッ!?」
「――しかし、君の仕事にケチを付けるつもりは無いんだが…私としては〝彼女〟の方もサンプルとして入手したかったんだが…」
少女の様子を気にも留めず、狼は黒衣の襲撃者にそう呟く…すると、黒衣の襲撃者は自らの喉に手を伸ばし…〝何か〟をすると、その喉から男の声を紡ぎ出す。
「――生憎今〝あの女〟には興味が無いのでな、それに賞金稼ぎを駒に雇ったんだ、奴等に餌をくれてやれ」
「いやいやいや、私の本来の目的は〝彼女〟でその為に君に協力を要請したんだよ、コレじゃ本末転倒――」
「分かった分かった、〝あの女〟の肉片なら序に千切ってきたから、あっちはお前で何とかしろ」
――かと思えば、急に始まるその漫才染みたやりとりに、少女は困惑する。
「――さて、馬鹿は放っておくとして…だ、軽く自己紹介と行こうか」
そして、黒衣の人物は、懐からから千切られた触手を取り出し狼へ投げ付けると、その狼は虚ろな目に似合わぬ興奮で駆け回り…それに呆れたような視線を向けた後、黒衣の人物は少女に向き直り…視線を合わせる。
「――俺は〝蒐集者〟…あの女…マオ・ディザイアの〝同郷〟だ、彼処に居るのは〝薬学者〟…同じく〝プレイヤー〟だが、アレは一旦放置するとしてだ…〝アレ〟の興味がお前に移る前に手早く済ませよう」
――ガシッ――
その黒衣の隙間から覗く〝赤紫の瞳〟が、レイナの瞳と通じたその時…黒衣の男はレイナの顔を掴み、食い入る様にその顔を見詰め、それから身体を弄りながら言葉を続ける。
「〝お前は何だ〟…?……見れば見るほど、〝面白い〟…記録から見て、あの女の力が作用したのは間違い無いが…何ともまぁ、〝奇妙奇天烈〟この上ない」
「貴方達は…一体…!?」
独り言なのか、それとも自身への問い掛けなのか、判別付かないその言葉にレイナは答えに詰まり…一頻りレイナを調べた後、黒衣の人物はレイナから少し顔を離し…今度は明快な〝問い〟を込めて、レイナへ言葉を投げ掛ける。
「――お前は気付いているか?…お前は既に〝死人〟で有ると言う事を」
「――え?」
その言葉は、レイナの思考の全てを呆然で満たし…そんな彼女へ、彼は言葉を畳み掛ける。
「その様子じゃ気付いていないのか…いや、或いは〝お前の中に居るヤツ〟が、お前の記憶を都合の良いように書き換えているのか?…兎も角お前自身は気付いていない…どころかあの女さえも気付いていないか…今のお前は〝死体〟であり、この身体を動かしているのは〝お前ではない何か〟だ」
「何を…言って…!」
その言葉に、レイナがそう愕然と言葉を紡いだその時。
――サクッ!――
「ッ――カハッ!」
「ッ!…おい、〝薬学者〟…勝手な真似をするなッ、まだ俺が調べてる最中だろうが」
「別に良いだろう?…どうせ直ぐに〝試す〟んだから」
背後から、彼女の胸を鋭い剣が貫いた。




