曇天の高原と雷毛の羊
本日の投稿をば。
――ドクンッ…ドクンッ…――
音が…聞こえる…。
――ドクンッ…ドクンッ…――
ソレは鼓動なのかそれとも別の〝何か〟か…兎に角ソレは暗闇の中、私の耳を突いて離れる事は無く…延々続くその〝音〟に…私は気味の悪さを覚えた。
『オナカ…スイタ…』
そして、自身の意識が曖昧に成り…急速に薄れて行くのに気が付いた時…何処からかそんな声が聞こえ…その声に言葉を投げかける前に私の意識は消え――。
――パチッ――
気が付けば…私の目は覚めていた。
「…此処は…いや、そうか…休憩してたんだった」
起き上がり、自身の意識を正常に保つ…その頃には、眠っていた時の夢など、もう殆ど忘れてしまい…私は自身が酷く飢えている事に気が付いた。
「お腹…空いたな…」
私がそう呟いたその時…不意に、外から凄まじく大きい何かを引きずる音と共に、光が差し込む…。
「おはようレイナ…休憩はもう十分かしら?」
そして、眩い光に目を凝らすと…その光を背に一人の美女が私へそう言い、太陽のような笑顔を見せる。
「あ…はい、大丈夫です――」
その笑顔に、私は自身の欲求を抑えてそう答える…しかし、幾ら理性では堪えが効いても、身体の方はそうは行かず――。
――グゥゥゥゥッ!――
「ッ〜〜〜!」
私のお腹からは、そんな堪え性の無い欲望の唸り声が響き…気恥ずかしさにお腹を抑える…そして、恐る恐る…その人を見ると。
「ん…フフッ、恥ずかしがらないで良いわよ、私もお腹空いたし…先に〝御飯〟にしましょうか」
その人は、楽しそうにそう言った。
○●○●○●
――パカラパカラパカラパカラッ――
《〈異界の触手〉のレベルが上がりました!》
「ちゃんと抱き締めといてね、レイナ♪」
「は、はい!」
草原を、肉腫で出来た巨大な馬が駆けてゆく…その不気味な馬は叫び声も、呼吸音も発する事無く、ただ淡々と草原を駆け、私達を背に乗せる。
「偶には〝乗り物〟で移動するのも良いわね…新鮮な体験♪」
私達が現在駆け抜けるのは…〝命奪の山岳〟を抜けた先…〝第三エリア〟に位置する、〝曇天の高原〟…その名の通り、この場所の空模様は何時も変わらないらしい。
――ゴロゴロゴロッ――
不穏な雲の唸り声に、私達は一抹の緊張を覚える…当然、自然に身を置く者として…空が唸れば〝其処〟に何が生まれるのかを知らない筈もない。
――チリッ――
肌に〝何か〟が触れたその刹那…空は大地へと怒号を吐き捨てる…そしてその怒号は私達の直ぐ側に飛来し。
――ドシャァァァンッ――
無機質な叫喚と共に、高原の一部を焼いた。
「ふぅッ♪――素敵な〝歓迎〟ね♪」
そんな、少々手荒な歓迎を軽く流しつつ私達は高原を駆けていく…エリアの中心に近づけば近付く程、周囲の気配は増していき…歓迎の相手が雷以外にも姿を現し始める…。
――ザッザッ!――
その〝存在〟から発せられる〝敵意〟に…私達は歩みを止める…其処には一匹の〝獣〟が居た。
「〝羊〟……にしては、随分〝殺気立ってる〟わね?」
もっと、イメージ的には穏やかで牧歌的な雰囲気を纏っている様なイメージだったのだけど。
――ゴゴゴゴゴゴゴッ!――
うん…凄まじい〝威圧感〟…たかが羊が出して良い〝殺意〟じゃないわね…何だかすっごい睨まれてるし…羊の口に牙が有るし…。
「〝看破〟」
そんな、羊の皮を被った野獣を前に…私は、そのステータスを覗き見る。
「レベルは…〝40帯〟?…大したステータスじゃないけれど…」
――――――
【無し】
【雷毛の魔羊】LV30/40
HP:8500/8500
MP:9900/9900
空腹:31%
筋力:D+
速力:D+
物耐:E+
魔耐:C−
知力:D
器用:E−
信仰:F
幸運:E
【能力】
〈雷呼び〉、〈豪脚〉、〈不壊の頭蓋〉、〈雷獣化〉、〈戦士の雄叫び〉
【称号】
〈クレイジー・シープ〉、〈狼殺し〉
――――――
「羊が持つ能力称号じゃ無いわよねコレ?」
「―メェッ!」
そのステータスに、思わずそう突っ込むと、目の前の羊も突っ込む…〝物理的〟に。
――ズドォッ!――
「メ、メェッ…!?」
「むッ…結構良いダメージ入るな…」
羊は正しく稲妻の如き素早さで私へ突進を繰り出し…私へ決して少なくないダメージを与える。
――ガシッ!――
「やるじゃない〝羊〟君それじゃ、次は私がお返しする番ね♪」
驚き半分、喜び半分に、私は突進してきた羊の頭を掴み…ガッチリと固定する…そんな私の手から逃れようと羊はその体躯に見合わない膂力で暴れ狂うが、それでも私はビクともしない…。
「メェッ…メェェッ!」
「フフフッ…貴方のお肉は筋が張って硬そうね?」
そうして、抵抗を続ける羊の頭を殴り砕こうと…己の手に魔力を込めて振り上げる…。
――バキッバキバキッ!――
その膨張と、纏う魔力の濃密な殺意が目の前の〝羊〟に注がれると…その殺意に反応したのか、雷毛の魔羊は私の瞳を見据える。
「――フッ!」
そして…その拳が…凄まじい質量の塊が羊の頭蓋を砕き潰さんと振り下ろされたその時…遂に〝羊〟は抵抗するのを止め…そして。
――スゥゥゥッ――
「〝メェェェェェェェッ!!!!!〟」
そんな雄叫びと共に…自身の魔力を全開にした…その直後。
――ピリッ――
肌を突き刺すその感触に…反射でその場から飛び退く…それから僅か1秒と経たず…空は唸り声を上げ――。
――ズドォォォンッ!!!――
〝雷鳴〟が…〝羊〟の身体を包み込んだ。
「今のは〝雷呼び〟?」
その極太の雷は数秒に及ぶ時間、天と地を繋ぐ柱と成り…私は、その中心に居る〝ソレ〟に目を凝らす…そして、雷が役目を終えて…その場に焼き焦げた落雷の跡を残して消えた時。
「――いや、〝雷獣化〟の方か」
其処に居た、先程までの乳白色の毛並みをしていた雷毛の魔羊が…空模様を示す様に真っ黒な毛並みをし、その羊毛に電流を迸らせる〝大地を駆ける黒雲〟と化した姿で…佇んでいた。




