剥がれ落ちた心臓
本日の投稿、今日は2本目も投稿する予定。
――ベチャッ――
少女に手を伸ばした部下が死んだ…そう理解するのに、リーダーたるドッグガンは少しの時間を要した。
――バリッ、ムシャッ…ゴキュッ…――
咀嚼音が響き渡る沈黙の中…月光が全てを見下ろす夜の世界で、その場に居合わせた者たちの視線はただ一つの〝ソレ〟に向けられていた。
「…」
撃ち殺した筈の〝少女〟…〝では無い〟…その少女の身体…胸元から零れ落ちた〝黒い肉の泥〟…蠢き、口を、舌を、牙を生やし…今、己の部下を貪り喰らった…〝悍ましい怪物〟へと。
――ゴクンッ――
ソレは喰い殺した犬人の血肉を飲み込み…己の糧へと変えると…その顔を上げて匂いを嗅ぐような仕草で周囲に首を降る…そして。
――ギュムッ、ゴポッ、ジュルジュルジュルッ!――
その不定形の化物の身体に〝目玉〟が生え…ソレが彼等〝犬人間〟達を捉えると…。
「オナ…カ……スイタァ…!」
底冷えする様な、不気味な声色で…彼等へ大量の触手を差し向けた…。
○●○●○●
――バリンバリンバリンバリンッ――
展開する〝魔力障壁〟は、絶え間なく浴びせられる光条によって砕かれる…。
(展開した側から砕かれる…この姿を維持して守るのは難しいか)
――ドロォッ――
擬態を解き、自身の本来の姿に戻る…コレで人間の様な皮膚は失い、〝核〟は突かれ易くなったが、複雑な構造も無くなり、自己修復も素早くなる。
(とは言え…このまま再生に物を言わせて戦うのも、魔力残量が厳しい…)
特に…あのライツだったか…アレの魔力量は厄介極まる。
(〝無尽〟に思える魔力量…種族特性か、固有の能力か…恐らく、大地や周囲から魔力を吸収し…魔力回復量を異常に引き上げている)
そうやって生み出した膨大な魔力を、自己強化、魔術、敵への異常付与に使い…敵を狩る戦闘スタイル。
(サポート性能もさることながら、単体性能で見てもかなりのやり手…接近戦で削り殺すのが無難…だけど)
そんな彼を守り、接近戦で驚異を発揮する〝彼女〟…ヨミノ…コレも厄介だ。
(優れた接近戦技術、純粋な自己強化に火力を担保する〝破脚撃〟…コレの所為で再生のコストが高く付く)
既に半分以上魔力を消耗した…このままじゃ魔力量のゴリ押しで負ける…!
「フフフッ……〝窮地〟ね…♪」
敗北の足音が如実に迫っているこの状況に、私は微かな焦りと…急速に高まる〝充足感〟で満たされる…このまま満足して、負けを認めても良いと…一瞬でもそう、思考し――。
「さて、〝どう勝とう〟…?」
そして、その思考を否定し…光条の隙間から覗く〝敵影〟を睨み…そう、思考を重ねる。
(敵の数を減らすのが先決…減らすなら…〝前衛〟から)
でも、そうするとライツがバフと回復でヨミノを強化する…だったら。
(ライツのバフが届く前に、ヨミノを即死させる…)
肝心のやり方は――。
「ッ〝魔力障壁〟――フフッ、〝物は試し〟…ね♪」
少し、〝賭けて〟みましょうか♪
●○●○●○
――キュィィィィンッ!――
凄まじい魔力の熱が、夜を閃光で埋め尽くす…その光の筋は一点へ集約され、その先に居る〝驚異〟を焼き尽くさんと迫る。
「…まだ死なないのか」
依然健在な〝気配〟に、ライツは苦々しく言葉を綴る…数分、この攻撃を維持している…相手が幾ら格上であろうと、この物量ではジリ貧だろう…卓越した戦術視野を持つライツはそう踏み、〝相手〟が行動を起こすと踏んでいた。
――パリンパリンパリンパリンッ――
しかし、幾ら待てども〝標的〟は微動だにせず…只管に迫る〝魔力の光条〟に、ただ魔力を消費し〝守り〟に徹する…ソレは〝悪手〟だと分かっているだろうに。
――グニャッ♪――
不意に浮かぶ…この戦闘が始まってから、攻防の隙間に見た…あの〝笑み〟を。
「……」
爛々と輝く赤い視線、抑えようとして、抑えきれなかった笑み…獲物を探す様な動き…その全ての行動から滲み出る…〝剥き出しの殺意〟…。
「……ヨミノ、警戒は解くなよ」
そんな〝戦狂い〟が、敢えて悪手に走る理由が理解出来ず…未知故に、ライツの警戒心は解かれることはない。
「言われずとも…!」
ライツの言葉にヨミノもまた、そう返し…光の集まる〝その先〟をジッと〝見据える〟…。
はたして、その時は訪れた。
――ズオォッ!――
何の変化もない停滞した〝戦況〟に、遂に〝変化〟が訪れる…。
――ズゥッ――
光の先から放たれた黒い魔力が、一層高まりその大きさに二人の視線が移ろったその瞬間。
――ブワッ!――
魔力の〝光条〟は、その濃密な魔力によって散り散りに砕かれ…その先から一人の〝美女〟が…姿を表す――。
――ドロッ――
先程までとは、異なる出で立ちで。
「……」
その姿は依然人間のソレに倣っていた…二つの脚で達立ち、下半身と上半身で繋がり、両腕を持ち頭を持ち…細部に至るまで、〝人間〟のソレを思わせるパーツが取り付けられていた。
ただ…その随所に…凡そ常理の人ならざる〝魔性〟の気が漏れ出していた。
――グニョッグニョッ――
身体の中に〝人でない部位〟が有る…粘性を帯びた泥が彼女の身体を包み…その泥からは絶え間ない触手が生まれては消えてを繰り返す…その様から感じ取れる〝印象〟は…ただ一つ。
〝不完全〟
ソレを心の奥底で感じながら、彼等は直ぐに戦闘の構えを取る…対してそんな彼等の心の内を見透かした様に…不完全な変形で現れた彼女は、クスリと笑みを浮かべ。
――グニャリッ――
その笑みを獰猛な獣のソレに変えて、二人…ライツ目掛けて突き進んだ。
○●○●○●
――バババババッ――
沈黙の夜を殺す、乾いた銃声が響き渡る…しかし、其処に居た者達は声を上げず地に伏していた。
「何だ…何なんだお前は…!?」
「オナカ…スイタ」
――バクンッ!――
唯一生き残ったリーダーも、直ぐにその仲間となり…周囲にはただ何かの咀嚼音だけが残るった。
「……オナカ…スイタ…〝モッタイナイ〟」
ソレは、一頻り生命を貪り喰らった後…其処に残る残骸を一瞥してそう言い、その〝肉の泥〟の身体を使い周囲の〝血肉〟を取り込んで行く。
「……」
そして、その場に残った〝肉腫の鳥〟をジッと見つめると…ソレに〝肉片〟を注入し…自身の体内で浮かぶ〝少女〟の中へと戻って行く…。
――ドサッ!――
辺りは静まり帰り…落下の衝撃で、少女は目覚める…。
「うっ…此処…は?」
「〝―――!〟」
そして、目の前の〝肉腫の鳥〟を見ると、混濁する意識を取り戻し…直ぐに目的を思い出す。
「そうだ、〝此処から脱出〟しないと…!」
「〝――?〟」
すると直ぐに、少女と肉腫の鳥はその場を飛び去り…山岳の先を目指す……その様子は、まるでついさっき其処で起きた出来事を〝知らない〟かの様に。




