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怪物達の狂想曲〜彼方の獣達は電脳の夢を見るか〜  作者: 泥陀羅没地
第四章:喪失するは人の記憶、崩壊するは人の境界
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美女の野獣

――パラパラパラッ――


土塊が舞い落ちる…喧騒に暮れていた夜の山々は黙りこくり、月光は息を呑んでその光景を見下ろしていた…。



「グッ…ゥ…!」

「良し、良し、良し♪――〝ちゃんと死んでいない〟わね…偉い偉い♪」


――バサッ…バサッ…――


刻み付けられた〝破壊の痕跡〟が…その威力を物語り…その余波を食らい、半身を爛れさせたハーピィの娘へ…月光を浴びて艶を増す〝ソレ〟は、艶美な声で彼女を讃える。


「――でも、あぁでも…残念ね…もうおしまい?…嫌よ、駄目よ、まだ半分しか出し切ってないんだから…折角身体が温かくなって来たんだから」


しかし、その目は残念そうに揺れ…その口が奏でる声は心底から目の前の〝彼女〟を奮い立たせようと紡がれる。


――ザッ…ザッ…ザッ…――


「治癒の力は有る?…翼は動かせる?…片脚はまだ生きている、貴女の命は尽きていない…だから、ほら、動いて…もっと、もっと…それが無理なら――」

「ッ……!?」


彼我の距離は、見る間に縮まり…ソレの紡ぐ言葉が彼女の遥か頭上から冷たく響き渡る…彼女、ヨミノは…その声に、顔を上げることは出来なかった。


「〝此処で〟…〝頭を砕く〟わね?」


何故なら、彼女は理解してしまったから…ソレの孕む〝狂気の一端〟を…鋭く、深く、濃く…ほんの一瞬の攻防から漏れ出た〝残滓〟に充てられて…彼女の精神が、〝直視〟を拒んでいた…。


その様は宛ら〝蛇と蛙〟の様に…その視線が自身の心身を凍り付かせ、縛り付ける…蛇の舌先の様な息遣いが…熱を帯びた呼吸が、ゾワリと、背筋を走り…頭上で空を薙ぐ…その〝音〟に…死を認識する――。


――ガッ!――


〝冗談じゃない〟


「フンッ…ァァァッ!」

「ッ!――♪」


死力を絞って、爛れた身体に魔力を流す…健在な腕と脚で大地を強く踏み…残った魔力を振り絞って頭上の声に抗い…拳を引き絞る…。


――ガバッ!――


そして…その拳を声の先へ振り抜いた…その瞬間…何か、柔らかく分厚い物を打ち抜く様な感覚を覚える…その感触に一縷の希望を抱き…そして、次に視界を開いたその時…目の前に広がっていた光景は――。


――ガシッ!…ギュウウゥッ――


「――〝グッド(良い)〟…良い〝闘争心〟ね♪」


自身の片腕をいとも容易く投げ捨て…私の渾身の一撃をいなし…残る片腕で、槍を振り上げる…〝ソレ〟の姿だった…。


「さぁ、その調子で動きなさい♪」


私の胸中などまるで知らず、他者の希望を軽々と握り潰しながらソレはそう言い、その悍ましい魔力で満たされた槍を振り下ろす…その槍は、悠然と私目掛けて突き進み…私は、ソレをただ見詰めることしか出来なかった――。


――ズンッ!――



○●○●○●


〝抵抗の余地〟は無かった。


――パラパラパラッ――


死力を尽くした、まさに全身全霊と呼ぶべき〝素晴らしい一撃〟だった…惜しむらくは、ソレを味わうには時間は余りにも短過ぎた事位だろうか。


「…」


その刹那の甘美を受け止め…御礼を返す様に…魔力で満たした〝槍〟を突き立てた…あの娘の…頭蓋目掛けて。


「……フフフッ」


粉塵の中…私は自身の前で起こった事象に思わず笑みを零す…確かに…最早あの娘には抵抗の余地は無かった…そう、〝あの娘〟には。


――パキッ…パキパキパキッ――


鳴り響くのは、私の足元から鳴り響く〝樹木〟の砕け散る音…その音と、馴染みの有る魔力に…私は土埃の先に居るだろう〝ソレ〟を睨み付け、言う。


「――そう言えば、〝貴方〟の名前を聞いてなかったわね…〝樹木の術者〟」

「――〝ランツ〟だぜこの怪物美女(モンスター・レディ)


粉塵が晴れたその先には…茶髪に白いスーツとサングラスが特徴的な、軽薄な優男の様な男が…その身から変質した〝樹木の根〟に魔力を流し…根が引き寄せたヨミノへ、魔力を注ぎ込んでいた。


「――へぇ…ふ〜ん?…成る程、成る程♪」


その様子に、私は萎え始めていた高揚に薪を焚べ…大量の魔力を注ぎ込んでいた肉体を修復すると…彼等へ向き直り…宣言する。


「〝第2ラウンド開始〟って訳ね――〝良いじゃない〟…♪」






「何の真似だ詐欺師…私達は敵だろう」

「言ってる場合かよヨミノちゃん…雇った猟犬達が軒並みどっか行きやがって此方には俺一人だぜ?…集団が肝な俺が一人でゴリゴリの武闘を相手どるのは悪い冗談だろ」


爛々と輝く赤い視線を受けながら、二人はそう言い合いながら…自身の魔力を、注がれた魔力を放出する。


「此処は一丁…懸賞金は山分けして、〝共闘〟するしかないだろ」

「…仕方無いか」


その魔力がヨミノの焼け爛れた皮膚を癒し…体力を元の数値と同じ程に回復させる…そして、高まる戦火の火柱に、二人が引き込まれ…再び、三者三様が其々の構えを取る…しかし、此度の戦端を切り拓くのは…今や獲物の皮を破り捨てた〝獰猛な獣(マオ・ディザイア)〟では無く――。


「サポート、妨害は任せろ…じゃんじゃん魔力回していけよ、ヨミノッ!」

「フォローを頼むよッ!」


獰猛な野獣を駆逐せんと奮起する、〝|二人の狩人《ヨミノ&ランツ》〟の方だった。




○●○●○●



――ドササァッ!――


「――痛ッ…な、何…!?」


乾いた銃声と共に、肉腫の頭が吹き飛ばされ…肉腫に掴まり進んでいたレイナは地面に投げ出される…唐突な展開に驚き、傷の痛みに呻く彼女は…ピクリとも動かず…肉々しい粘液の身体を融解させていく〝眷属〟を見て、顔を青くする。


「ッ…て、敵…!?」


そして、漸く事態を飲み込めた少女が…その場から逃げ出そうと…身体を揺らしたその時。


――ガサッ、ガサガサッ!――


周辺の茂みがガサガサと揺れ動き…その中から小柄な二足歩行の犬が数匹、キッチリと揃えられた装備と、見たこともない奇っ怪な装備を手に、レイナ・ハーレーを包囲した。


「――隊長、見つけました――〝懸賞金300万〟…〝レイナ・ハーレー〟…〝マオ・ディザイアの契約者〟です」



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