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怪物達の狂想曲〜彼方の獣達は電脳の夢を見るか〜  作者: 泥陀羅没地
第四章:喪失するは人の記憶、崩壊するは人の境界
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夜に木霊す声は誰

――ゾッ!――


ソレを避けられたのは、根本的には誰も信頼しないと言う自身の性質のお陰だろう。


「ッ――ィィ!?」


〝攻撃される事〟は…理解していた、近接で、間合いを取って、遠方から…如何なる〝射程(レンジ)〟からの攻撃にも対応する手札は用意していた…慢心は無い……つもりだった。


――ズドォォォンッ!――


「――ハァッ♡」


〝有り得ない〟…自身の胸中に満ちるのはそんな、一銭の得にもならない様な現実逃避の思考だった…想像の何倍、何十倍…己が〝防御〟を構築するという選択肢すら与えられず、〝獲物〟だった筈の〝ソレ〟は、拳を振るい…地面を軽々と殴り砕く。


――ドボォッ!――


その威力は…〝ソレ〟が振るうには身に余る程だったのだろう…莫大な魔力を破壊力に変換した拳は…駆けるその軌跡すらも知覚させないその〝脚〟は…その一手の行動、ただソレだけで負荷限界に達し自壊、破裂する。


――ガッ!――


だと言うのに…〝ソレ〟は止まるどころか寧ろ、更に活き活きとした顔で次の一手へ流れる様に移り変わる。


「アハッ♪」

「ッ――グッ!?」


無事な片腕を地面に突き、破裂した両足に魔力を込める…すると、破裂した脚からは肉々しい黒い粘液がゴポゴポと音を立てて、傷口を埋め…〝形〟を創り出す。


――ジャキンッ!――


身体を捻り、回し蹴りの要領でソレは地面を回る…しかし、その行動から生み出されるのは回し蹴りの様な生易しい物では無く…鞭の様に靭やかで長い触手と、その触手に備えられた刃の〝殺意〟だった。


――ザザザザザンッ――


息をつかせない〝猛攻〟は、自分だけでは無く周囲の木々を草葉を刈り取り、空を切り裂く…その五月雨斬りは凄まじいが…それでも、攻撃の刹那に見いだした〝空白〟の間に…自身は何とか己の身を護る術を行使する。


――パキパキパキパキパキッ――


「ッ間に合って良かった〝硬化樹液(セラミック・アーマー)〟…!」

「ッやるじゃない――」


己を覆う樹液と樹皮が幾重にも積み重なり出来た鎧が、触手の鋭利な刃をいなす…そんな己の対応に〝ソレ〟は称賛を送り…邪気を更に高め…次の攻撃に出ようとした…その時。


――バサッ!――


「――〝私〟を忘れてないか?」

「ッ!?」


不意に…背後から凄まじい魔力と共に、〝半人半鳥の娘(ヨミノ)〟が現れ、凄まじい飛び蹴りと共に〝標的〟を運び去ってしまう。


「助かった――じゃねぇ!」


その横槍に一瞬、安堵を吐き出すが…直ぐに状況を把握し直し、標的の元へと迫る。


○●○●○●


――ガリガリガリガリガリッ!――


「――アハハッ、〝速さの重さ〟…良い〝攻撃〟ね!」


初手から風情も何も有った物では無い〝激動の攻防〟…その横合いから、〝同業〟と〝標的〟を引き剥がしつつ、私は〝標的〟に攻撃を加える…。


「今の一瞬で良く防御したな、マオ・ディザイア!」

「褒めても加減はしないわよ♪」


絶好の奇襲だったソレを、どういうわけか防いだ〝標的〟に、私はそう言い…己の脚に魔力を込める…小細工も騙しも無し…私がやる事は何も変わらない。


――ズズズズッ!――


〝蹴り〟…〝壊す〟…ただ、ソレだけだ。


「ッ…フフ、コレは〝避けられない〟わね…!」

「〝破脚撃〟!」


魔力を注ぎ込み…溜まり切った魔力を更なる衝撃で暴れさせる…すると、防御に使われていた彼女の腕は異音と共に膨れ上がり…ソレは蹴りと共に私達の繋がりが解かれた瞬間、破裂する。


――ドボォォッ!――


瞬間…標的の右腕は消し飛び…勢いを殺しつつ有った身体は更なる衝撃によって宙へ投げ出され、遥か後方に吹き飛ばされる…。


(姿勢は崩れた、受け身は取れない…回避の余地は無い!)


――バサッ!――


その姿に、私はトドメを刺すべく追撃の構えを取り…その機動力を活かして、背後に飛んで行くソレへ手を伸ばす。


「――ッフフッ♪」


だが、そんな私の耳に届いたのは…この状況に追いやられても尚…一切の動揺を持たない〝彼女の笑い声〟だった。


――バサッ!――


吹き飛ばせれた状況から、彼女は空中で身を捻り姿勢を変える…そして、私へ背を向けると…その背に生え揃った黒く大きな黒翼を羽ばたかせ…空へ昇る。


「ッ――上手い…!」

(勢いを利用されたッ)


この一瞬でそこまで行動を組み立てる〝判断力〟に、敵ながら称賛を送り…空へ昇った彼女を追う様に、少し遅れて私も空へ登る…そして、空を見上げたその刹那――。


――ゴォッ!――


月を背に、私を見下ろす緋色の視線と…その手に握られた莫大な魔力を有した〝鉄槍〟が…私の目に映った。


「〝この程度〟で死なないでね?」


その光景から、次に彼女がどう動くのかは…最早自明の理だろう…そう、目の前の光景を見た、緩慢に過ぎ去る時間の中で加速した思考は意志を紡ぎ上げ…その脳髄に、次に私が取るべき〝未来の設計図〟を刻み付ける……そして、緩慢に思えた時が元の〝流れ〟へ戻った瞬間――。


――ズオォッ!――


彼女の手から、その槍は放たれた。



●○●○●○


――バサバサバサッ――


肉腫の鳥は、その翼を休む事無く羽撃かせる…〝創造主〟の命令によって。


刻み付けられた命令は二つ…〝このエリア〟を離脱する事…〝少女〟を運ぶ事…周囲の暗闇はざわめき立ち、殺意と憎悪と怒りと悲鳴が響き渡る山岳の中…〝眷属〟はただ只管に命じられた指示を延々と熟していた…。


そんな〝肉腫の鳥〟に連れられて、彼女(レイナ)は沈黙を貫く…その顔は決して良いとは言えず、そしてそれは…今己が置かれている状況によるものだけでは無い事は用意に想像がついた。


「……マオさん…」


自らの肉を引き千切り、逃がしてくれた〝その人〟の姿を小さく思い返す…彼女を狙い発されたその魔力の膨大さと、ソレを前にする彼女にとって…己が〝足手まとい〟である事は理解の範疇だった…しかし、それでも彼女は、不安に顔を俯かせるしか出来なかった。


「無事で、居て下さい」


ポツリと、彼女がそう紡いだ言葉は…当然、彼女達に届く事は無く…虚空に少女の声だけが響き渡る…しかし、そんな彼女の独り言も束の間に――。


――パァンッ――


そんな乾いた銃声が、皮膚も目も持たない…肉の様な粘液で作られた怪鳥の頭を吹き飛ばした。

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