忘却者に罪あるべきか
本日の投稿。
「それ…は…」
「……」
私が、彼女へそう告げると…彼女は小さく、辛うじて言葉を絞り出す…それに、私は何も答えず…ただ、レイナの反応を待つ…。
「……本当…なんですか…」
「えぇ…沢山殺したわよ…私の利益の為、貴女の復讐の為に」
レイナの問い掛けに、私は首肯し言葉を続ける…その言葉に対し、レイナはぽつりと私の言葉から自身に纒わる言葉を拾い上げ、復唱する。
「……〝復讐〟…」
「えぇ…貴女は、生まれ育った村の人間から、迫害を受けていた…その髪と、瞳の色の所為でね…迫害は貴女だけに留まらず、貴女の父と母も…その迫害が遠因で命を落とした――」
その疑問に答え、私はこの子が村から迫害を受けていた事、追放処分にされた事、その果てに私と出会い紆余曲折の果てに滅ぼした事を隠さずに伝える…私の説明に、レイナは時折眉を顰めつつも大人しく拝聴し…そして最後に、レイナの記憶が失った原因として、可能性の高い〝ニュートでの一幕〟…〝レイナの死〟についても言及し…彼女への説明を終える。
「……」
事の次第を把握した彼女の顔は、決して明るくは無い…当然だろう、気が付けば自身の記憶を全て失い、目の前には怪しい女、加えてその女の説明では自身は極悪人で迂闊に外にも出歩けず、挙げ句その女が真実を言っているか確証が無い……立たされている状況は、〝最悪〟そのものと言っていい。
「……まぁ、1度に全てを理解してとは言わないわ……ただ私達が殺人鬼である事が周囲に知れ渡ってる以上、貴女が下手に動けばそのまま処刑コース真っ逆様だから気を付けなさい……現に今、私達を狙う〝賞金稼ぎ〟達が此処らを彷徨いてるわ」
とは言え、そんな彼女に好き勝手動かれるのは困る…レイナと言う戦力を失うのも、私達の行動が他者に露見するのも避けたい事態なのだから。
「ッ…あの……マオ、さんはこれからどうするんですか」
何時の間にか思考の海に埋もれていた私は、レイナの言葉で我に返る。
「そう、ね…一先ず…〝拠点〟を変えたいわね…現状この辺りは〝賞金稼ぎ〟と〝魔獣〟が私達を狙って跋扈してる…その所為で、レイナの記憶復元も私の〝狩場探し〟もままならない状況になっている……其処で、幾つか考えを纏めてみたわ」
そして、レイナの問いに答えつつそう言うと…私は懐から周辺地図と、大雑把な大陸地図を伸ばして、レイナに言う。
「当初の目的では、ニュートの街に隣接した全エリアボスを討伐し、活動領域を全域に伸ばそうと画策していたわ…勿論同時並行でレイナの記憶を取り戻す手掛かりも探しながらね…だけど、その目的は私達の行動を妨げる〝邪魔者〟の到来で振り出しに戻ってしまった」
そして、ニュートの街に隣接した…全八つ程の地形に線を引き、其処に更に線を引く。
「だから少しやり方を変えるわ、昨夜色々と調べてね、現状北方の〝山岳〟方面が手薄だから北方の〝第三エリア〟に先に進出しようと思うの」
そして、唯一残った北方の山岳地帯を示しながらレイナに告げる…。
「取り敢えずは〝安全な拠点〟を手に入れるのが先決よ、私はこの案で行くつもりだけれど…レイナはどう?」
「異論は…有りません」
その問い掛けにレイナは首肯しそう言う。
「そう…だったら、このプランで行かせてもらうわね…あぁそれと、〝魔術〟の方はどんな感じかしら?……最低限戦える?」
その言葉に私はそう返し、序にレイナに伝えていた〝魔術の習得〟の進捗を問うと、彼女は若干自信無さげながらも肯定的な報告を私へ告げる。
「ッ――はい、一応戦闘用の魔術と、防御用の魔術は扱える様になりました」
「――ふむ、ならレイナは自分の手荷物をまとめておいて頂戴」
その吉報を頭に入れ、私は次の行動の為の施策を練りながら、席を立つ…。
「――今から〝街〟に潜入して、色々〝仕込んでくる〟わ…今日の夜に此処を経って次のエリアに進みましょうか…そこで改めて〝レイナの記憶〟を取り戻す方法を考えましょう」
そして、そう言うとレイナを一瞥し…私は〝キムラヌートの失楽園〟に出掛けるのだった…。
「〝レイナ護って〟ね?」
「……(プルプル)」
玄関に配置した眷属へ、そう言い含めて。
●○●○●○
「……」
彼女が立ち去ったその後、少女レイナは自身に置かれた状況を……いや、彼女から告げられた〝忌むべき事実〟を前に思慮を巡らせる。
「私が…〝人殺し〟…」
実感は無い…記憶を失う前の自分が、復讐の為に人の生命を奪い去る行為を、良心の呵責無く行っていた…とは。
「……」
しかし、同時に〝理解〟出来てしまう…己の身に流れる〝魔力〟…恐るべき超常の力を手足の如く扱える〝技量〟…己の身に有する〝才〟と、ソレを扱うに足る知識を持ってすれば…成る程〝復讐〟など造作もなく成し遂げる事が出来るだろう…。
――ゾクッ――
「……ッ」
己の置かれた状況に、悪寒が走る…自身の両手に纏わり付く〝死の罪〟に、言いようの無い吐き気が混み上がる…過去の、知りもしない自身の罪が背中に伸し掛かる…到底、受け入れられる物では無い……そして、何より――。
『貴女は1度、〝死んでる〟の』
「――」
彼女が告げた、恐るべき事実…自身の〝死〟……ソレが、何よりも彼女の心を蝕んでゆく…。
「……まさか、でも……いや」
否定しようとして、しかし口籠る…何故なら自身が目覚める前…あの暗闇の中感じた苦悶は…彼女の言葉を裏付けるに相応しい〝苦痛〟を齎していた…。
「……」
考えれば考える程に、ドツボに嵌まる思考の濁流…自身の身に刻まれた身に覚えのない罪の所在と、己の置かれた〝立場〟の危険性…それは、記憶を失った幼童には余りにも重く苦しい〝難問〟で有った…。
「……」
レイナは悩み…悩み続ける…その悩みを誰一人にも、打ち明けられる事は無く。




