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怪物達の狂想曲〜彼方の獣達は電脳の夢を見るか〜  作者: 泥陀羅没地
第四章:喪失するは人の記憶、崩壊するは人の境界
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知るべき記憶

投稿1話目、2本目は現在執筆中。

――バサッ…バサッ…バサッ……――


「ハァ…全く、とんだ〝厄日〟だったわねッ」


――トンッ――


羽音と共に、その口振りからは懸け離れた笑みを浮かべながら、マオ・ディザイアが月が天高く昇る森の〝拠点〟に辿り着く…その手は生半な事では付着しない様な、夥しい量の血液を吸い、赤黒く変色していた。


――グジュッ、ゴポポッ――


「――たかが数レベル程度の経験値なのに殺した側から湧いて来るせいで無駄に時間を食わされるし…追跡者を躱すために遠回りもしなきゃで予定よりもかなり時間を使っちゃったじゃない…全く♪」


先の先まで繰り広げていた死闘、数の暴力を一纏めに躙り殺す悦楽に浸っていた手を満足気に伸ばしながら、彼女は自身の拠点の、周囲の岩肌に擬態した〝隠し扉〟を開く。


「ただいま〜」

「…」


そんな彼女を出迎えたのは、主の帰還だと言うのに歓待もせず、沈黙し、その不定形な肉塊の様な姿で扉前を守っていた一匹の〝眷属〟だけであった。


「ん……流石にあの子も眠ってるか……仕方無い、取り敢えず今日はもう終わりにしましょうか」


知性の無い…ただ与えられた事だけを言葉通りに実行する〝眷属〟を軽く撫でながら、マオ・ディザイアは拠点の最奥へ向かう――。


――ピタッ――


その道すがら、彼女の足が止まる…そして、入口の…〝眷属〟を見るとその顔に不意に何か疑問を覚えたかのような怪訝そうな表情を浮かべて呟く…。


「……門番は、〝2匹〟じゃなかったかしら?……」

「………?」

「……記憶違い、かしら?」


しかし、それ以上の疑問は抱けなかったのか…微かな引っ掛かりは、彼女の記憶違いと言う解釈によって一先ずの解消をなされる…そうして去り行く彼女の後ろ姿を…〝ソレ〟は知性を持たない意志のまま、見送るのだった…。



●○●○●○


――チリリリンッ、チリリリンッ、チリリリンッ――


不愉快とは言わなくとも、けたたましい鈴の音に、彼女…レイナの意識は覚醒する。


「ん…私、確か魔術の…?」


片手で時計のスイッチを押し、眠気眼を擦りながらもその徐々に意識は明瞭になり…改めて、自身の昨晩の記憶を振り返る。


そうだ、自分は訳知り顔のあの人を待っていて、気が付けば眠りに落ちていたのだ。


「――あの人は、帰ってきたのかな…」


記憶の中に居るその人を思い浮かべながら、彼女はそう言い…ふと、視界の端に捉えた〝揺れる人影〟に意識が向くと。


「……」


椅子に腰掛けたまま、彼女の側で眠りに就く1人の女性が、其処に居た…どうやら、彼女も眠っているらしい。


「……起こさない方が、良いよね…」


その姿をジッと見つめながら、レイナはふと気付く…自身の枕の側に整頓されている書物と、自身に掛けられた毛布を…どうやら、ソレは、其処に眠るその人が施した気遣いの様だった。


「…」


その事実に、彼女は薄く笑みを浮かべる…その優しさは…暖かさは…まるで■の様で――。


『レイナ』

「ッ!……あれ?」


その時、不意に彼女の耳に〝何かの声〟…椅子に腰掛け眠る彼女の物でも、自分の物でもない様な声が響く……その現象にレイナは一瞬不思議そうな顔をし、辺りを確かめるが…周囲には〝人の声〟を発する類の物はなく…疑問はやがて薄れて消えてゆく…。


「……気の所為…?………」


やがて、自身が何に疑問を抱いたのかも忘れ…彼女は、漸くベッドから出て…立ち上がる…その行先は――。


「お腹が空いたし…御飯にしよ……あの人も、食べるよね?」


岩肌の目立つ拠点には不似合いな…上等な〝調理場〟と…〝食材保管庫〟だった。




○●○●○●


――カチャ…カチャ…――


「お姉ちゃん、最近楽しそうだね」

「ん……そうだね」


夕食の最中、普段の何気ない会話の中に…不意に私の話題が上がる。


「しかし、意外だな…真央がゲームにハマるとはなぁ」

「趣味を持つ事は良いことよ、お父さん」

「まぁ、それはそうだな」


父と母の言葉を軽く流し…私は夕食に舌鼓を打つ…そんな私へ妹の美怜はグイグイと迫り、その目を輝かせながら私に言う。


「ねぇねぇ、お姉ちゃんは今〝向こう〟で何してるの?」

「……次の〝エリア〟に向かう最中…ね」


そんな美怜の言葉に軽くそう返しながら一家団欒の食事を済ませ…風呂に明日の準備にと諸々を済ませると…私は最早習慣になりつつある〝VRギア〟に手を伸ばす。



――カチッ――


そして、手慣れた手付きで操作をすると…そのまま眠るようにベッドへと横になった……そして、意識の剥離と共に身体が浮く様な感覚を味わった…刹那。


――フワッ――


気が付けば、私は椅子に腰掛け…テーブルに置かれた紅茶と、茶菓子を手元に…調理場で皿を洗う少女を眺めていた。



「……さて、それじゃあ予定よりも遅れたけれど…改めて〝自己紹介〟と諸々の優先事項を済ませましょうか」


それから少しして、私は洗い物を終えた少女にそう告げながら…紅茶を傾ける。


「――先ず自己紹介と、貴女について教えましょうか」


私がそう言うと眼前の彼女はやや神妙な面持ちで私を見据え…齎される情報を受け止める覚悟をする。


「私の名前は〝マオ・ディザイア〟…貴女の〝契約者〟であり、貴女の〝保護者〟…そして〝相棒〟…の様なものね」

「……相棒、ですか…」

「えぇ、私は貴女と〝契約〟を交わした…その一環で貴女を保護し、共に生きる〝相棒〟として、貴女に〝生きる術〟を教えていたわ」


そんな彼女へ、先ずは当たり障りのない事柄を伝えて行く…私の素性、私との関係…ソレをなるべく噛み砕いて教えると、彼女は理解を示す……まだ、混乱の兆しは無さそうだ。


「次に…貴女について、ね…貴女の名前は〝レイナ・ハーレー〟…〝人間の魔術師〟で…私と協力関係にある……貴女は私との契約で〝魔術の手解き〟を教え、対価として私は貴女の〝保護〟を提供していたわ」


続けて紡ぐその言葉に、彼女は混乱した様子は無い…此処までは、問題ない……だが、〝此処から〟は…そうも行かないだろう。


「そして……此処からは、少々物騒な話になるけれど………〝私達〟は…〝人間と敵対〟している……既に、何人も殺しているわ」

「ッ……」


そうして紡がれた…〝薄暗い記憶〟を知ると…その時初めて、彼女の顔は強張った。

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― 新着の感想 ―
…そりゃ、どんなに覚悟を決めて実行したことでも、その記憶がなければ引くでしょうね。 …そういえば、脳の活性化には悪しき記憶を思い出させるのがいいとかなんとか。 まあ、戻らなくても面白くなりそうです…
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