表・裏・表
本日は遅めに投稿…2本目はなさげ。
――バサッ…バサッ…バサッ…――
「うーむむ…思ったより面倒な事になったわねぇ…」
(まさか〝懸賞金〟が掛けられてるとは思わなかった…)
荒野での騒動の後…コボルトのリーダーから引き出した情報を思い返しながら独り、そう呟く。
〝賞金首〟…自身の生命に値札を掛けられ、その褒賞を求めて何十人の〝魔獣〟が〝私達〟を狙っているらしい…。
「正直、〝餌〟から私を狙ってくる分には願ってもない事だけど……生憎今は〝厄介事〟も抱えてるから、コレ以上タスクを増やしたくないのよねぇ…」
私の置かれた状況を再確認しておこう…。
1:次のエリアに進む為に四方のエリアボスを討伐しなければならない。
2:事故で記憶を喪失した契約者の記憶を探さなければならない。
3:懸賞金を掛けられているため、プレイヤーの手が届く範囲では、横槍が入る可能性が高く、行動を妨げられる。
……うん、控えめに言って面倒が過ぎる、いくら何でもやる事が多すぎるわ。
(……優先順位をちょっと変えましょうか)
……それは兎も角として。
――バサッ…バサッ…バサッ!――
――『バサバサッ…バサバサッ…』――
「――まだ追い払って10分も経ってないのに…面倒ね」
帰路に着く私を追跡する〝追跡者〟の羽音を耳にしながら…私は、後方に視線を向ける…其処には案の定…遠巻きに此方を観察し…後を追う〝空の魔獣〟達が私の背後で速度と距離を保ち……そんな彼等を私が認識したと見るや否や…彼等は気配を隠す事を止め、その身から穢れた魔力を解き放つ。
――ゴポッ、ググググッ――
――ゴリゴリゴリゴリッ――
そんな、彼等の魔力を目の前に…私も交戦の意志を伝える様に…先手の攻撃を振る舞い、〝賞金稼ぎ〟達に歓迎を贈る。
――ビュンッ!――
四方八方から狙われる、その展開に心が躍っていたのだろう…それとも、単に欲求の解消先を求めていただけかも知れない…兎も角、私は迫る〝血の匂い〟に夢中に成り、成り過ぎるあまりに少し〝我〟を忘れてしまった…。
「死にたい子から前に出なさい!」
ソレが、〝予期せぬ事態〟を招く事に成る…等とは、露知らずに…。
○●○●○●
――カタカタッ、カタカタカタッ!――
其処は、床も壁も天井も真っ白な奇妙な空間…其処に唐突に現れた〝男〟は…白い空間で絶え間なく稼働し続ける〝ソレ〟に…穏やかな問いを投げ掛ける。
「やぁ、やぁ、やぁ…どうかしたのかい?……僕の可愛い〝娘〟」
その問いの先に居た〝虹色の光〟を放つ球体は…彼の言葉を認識すると、その姿を脈動させて無機質で中性的な言葉を響かせる。
『――〝総括者〟のログインを確認、〝疑似人格個体〟を生成――〝生成完了〟』
その言葉と共に虹色の光はその姿を〝変化〟させると…真っ白な衣服、真っ白な髪にに虹色の眼が映える無表情な少女へと姿を変える。
「〝マスター〟…本日は私の要請に御足労頂き感謝します」
「いやいや、滅多に会えない娘の頼みとあれば当然さ……それで?…私を呼んだと言う事は――」
「はい、〝彼等〟の件で1つ…ソレとは別に、〝もう一つ〟…〝■末クエスト〟に関わる問題を伺いたくお呼びしました」
軽く言葉を交わす二人は、互いを親子の様に呼びながら、雑談もソコソコに本題に入る。
「うん、〝彼等〟についてだね…今回は〝どれ〟が問題を起こしたのかな?」
「実は…〝殆ど〟が、其々動き始めた様で…詳しくは此方に」
男がそう言うと、少女は空間に手を翳し…空に半透明のモニターを創り出すと、ソレを男の目の前に持って行く…男はそのモニターに目を向け、其処に映し出される〝映像〟を色褪せた瞳で一瞥すると…顎に手を当て独り言の様に呟く…。
「ふむ……〝何匹〟か〝プレイヤーと接触〟を計ってるみたいだね…うん、この程度の〝干渉〟なら問題無いよ、引き続き様子見しよう」
「承知しました…では〝もう一つ〟の方を」
その言葉に少女はコクリと頷くと、モニターを軽く叩き次の映像にをに移し替える…すると、男は寧ろ此方の方が面白いと言う風に、色褪せた瞳に微かな驚きと興味を宿し…言葉を虚空に紡ぐ。
「へぇ…面白い状況だね…■■が〝変質〟している…こうなったのは…成る程、〝治癒の過程〟で〝こうなった〟のか……うん、中々面白い状況だね」
「…はい、〝■■クエスト〟に関わる可能性を考慮し、マスターに判断願いたく」
「……コレなら、〝脚本システム〟から幾つか引っ張り出して切り貼りすれば、〝面白い物〟が作れそうだね……この一件は此方で調整して〝クエスト〟として処理するよ」
「ハッ…では、後程確認した後、〝適合〟しますね」
二人はそうして、少し近寄り難い〝仕事人の会話〟を少し繰り広げ、それから軽く諸々の調整を終えると……ふぅ、と一息ついてまた元の〝親と娘〟の様な関係に戻る。
「それじゃあ、報告も済んだし…少しの間は〝私の社員〟に仕事を任せるとして…折角だし、〝少しの間〟だけ…〝向こうの世界〟で息抜きしないかい?…〝ノア〟」
「…宜しいのでしょうか?」
「勿論、君は頑張り屋だからね…偶には〝御褒美〟の1つだって与えても良いだろう?」
「――では、10秒程時間を…〝支度〟をして参ります」
それからはもう、生真面目な娘と穏やかな父のやりとりを交わしながら二人は楽しげな時間を過ごし…無機質な世界に扉を生み出すと、二人一緒に〝休暇〟の為に、その空間から出ていくのだった…。
○●○●○●
――チク…タク…チク…タク…――
「すぅ……すぅ……」
時計の音が小刻みに鳴る、ある場所で…少女はベッドの上で小さな寝息を立てて、穏やかに眠っていた…その周囲にある無数の教材を見れば…彼女が睡魔の悪戯によって眠り落ちたのは一目瞭然だった…。、
――チク…タク…チク…タク…――
かなり眠りが深いのだろう…少女は夜風の冷たさに身動ぎもしない…ただ、穏やかな寝息だけが聞こえていた…その時。
――〝トクンッ〟――
不意に、そんな鼓動と共に…少女の身体が〝揺れた〟…。




