終幕飾る英雄譚
――ズドンズドンズドンッ!――
「グッ!」
「――ハハハッ!」
家々を吹き飛ばしながらベルゼは駆け抜ける…その拳をレオナルドへ振り下ろして。
「――ッ!」
(速い、重い、単純なステータスがかなり上がっているなッ)
「〝聖剣よ、我が爪となれ〟…!」
対するレオナルドも、ベルゼの拳を剣でいなし…斬りかかる。
「〝戦獅子の鋭爪〟!」
剣に高密度の魔力が収束し…その瞬間凄まじい光量を持つ〝光条〟が横薙ぎ一線…空を裂く。
――ジュウゥゥゥッ!――
「成る程…その剣はやはり、他の武装とは訳が違うな…この肉体でも受け切れんか」
ベルゼの回避を潰すように横へ振るわれた一線は、その目論見の本懐を成し遂げる事は無かった…しかし、僅かに掠めた一撃は、ベルゼの皮膚を酷く焼け爛れさせ…ベルゼは顔を顰めながらも、その剣に感心を示す。
――ジュウッ――
「――だが、確かに〝弱くなっている〟…か」
そして、互いに間合いを取り…レオナルドがベルゼの行動に警戒していた時…不意にベルゼはそう言い…その口端を薄く歪める。
「うむ…防御面の性能は把握した……ならば、次は――」
――ズオォッ!――
「〝攻撃〟の試運転を…試さなくてはな♪」
その瞬間…ベルゼの身から悍ましい魔力が膨れ上がり…莫大な量の〝黒妖虫〟がベルゼの下半身…〝巨大な禍々しい蠅〟へと集ってゆく。
――バリバリバリバリバリッ――
巨大な蠅は、その視覚を代償に生み出された〝牙〟を用いて手当たり次第に獲物を貪り喰らい…自らの腹を膨れさせる…。
――ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ――
その牙が貪り喰らう毎に、下部の蠅の身からは莫大な魔力が放出され…その魔力をベルゼは束ね、〝真っ黒な魔力の結晶〟を作り出す。
「――〝貪り喰らえ、昏き牙よ〟」
そして、ベルゼの言葉と共に…今までの比ではない…遥かに強力で、膨大な瘴気の光条が…レオナルドへと迫った…。
――『ズドォォォンッ!』――
轟音を響かせて、歌い踊る黒と白の【王】達…その一部始終を傍観しながら…私は来たる〝時〟を待つ。
「〝霊樹〟はもう…殆ど成長したわね…そろそろ、向こうも形振り構わず仕掛けてくるでしょうけど…向こうはレイナと他の【指揮官】に任せるとしましょう…私は――」
そうして、独り考えを巡らせていると…その刹那、背後から貫く様な敵意と浄化の魔力が私を照らす…。
――バサッ!――
その刹那、1秒の時も与えられず浄化の魔力は私を目掛けて飛び込み…周囲に根を張る瘴気の根も巻き込んで爆発する…。
「あぁ、来ると思っていたわよ〝アーク〟…でも少し遅かったわね?」
グズグズと、瘴気を溶かして殺すその魔力とその持ち主に…私はそう言い空を見上げる。
「マオ・ディザイア…!」
其処には、余程強い縁で結ばれているのだろうか?…見飽きた白鴉が、その顔を苛立ちに染めて、私を睨んでいた。
「――ッ!」
そんな彼は、私がそう言葉を紡ぐと共に此方へ迫り…その魂を浄化せんと魔力を奔らせる…しかし、対する私は彼を迎え撃つ準備はせず…それどころか彼の攻撃を躱すだけに留める。
「――あら、良いのかしら〝アーク〟…こんな毒にも薬にもならない、無意味な戦闘に時間を使っても?」
――ズドォォォンッ!――
その間も、〝向こうの戦い〟は進み…街を粉塵と瓦礫の山に変えていく。
「――幾ら金獅子が優れたステータスだって言っても、流石に1人じゃアレの討伐は骨が折れるんじゃない?」
「君を倒して、直ぐに加勢するさ…!」
そんな彼等の攻防に目を向けながらアークへ再度告げるが、それでもアークは頑なに私の言葉を否定し、魔力の燃焼を始める…どうやら、私を倒すまで止まらない気らしい。
「……はぁ――〝面倒臭い〟」
――ゾッ!――
その瞬間私は、身の毛のよだつ様なドス黒い魔力でアークの浄化を塗り潰しながらそう言い…アークの首元を触手で締め上げる。
「ガ…ァッ…!?」
「〝さっさと金獅子に加勢しろ〟って言ってんのよ、無駄な力を使わせないでくれる?」
ギリギリギリと、締め上げる度…アークの喉から掠れた苦悶の声が力無く漏れ出す…そして、あわやアークの首をねじり折りそうになったその時…私は掴んでいた触手の力を緩め、アークを解放する。
――ドサッ!――
「ァッ…ハァッ…ハァッ…!」
「――そう言う訳だから♪…〝ちゃんと仕事〟はして頂戴ね?…もうじき〝終幕〟なんだから…優先順位を間違えちゃ駄目よ?」
そして、アークにそう言うと…私はそのままアークを促し、〝ベルゼとレオナルド〟の下へ向かわせる。
「それじゃ、〝頑張って〟…ね♪」
その言葉に返ってきたのは、アークの…〝不気味な何か〟を見つめるような、困惑と焦りが混じった視線だけだった。
●○●○●○
――ズガァァァァンッ!――
家屋を踏み砕いて現れるのは、体長10メートルを優に超える巨大な蜥蜴…彼方の魔獣、ファニルだった。
「悪い皆、ちと遅れちまった!」
「いんにゃ、良い所に来たぜファニルッ!」
4対3、+αで拮抗していた戦線が大きく傾く…この終盤戦に現れた指揮官ファニルの、強靭な肉体と有り余る生命力による、物理的な〝盾適性〟によって。
「此処に来て〝ファニル〟か…面倒なッ」
(ただでさえ時間の無い中で高耐久の敵を相手に防衛戦を突破するのは難しい…)
火力のシュテン、機動力のニャミィ、支援のチサト、高耐久のファニル…現状の聖獣達よりも遥かにバランスの取れた編成に、ドクターは心の中で苦く悪態を呟きながら…瞬時に思考を切り替える…。
「仕方無い……〝予定変更〟だ…!」
――ゴウッ!――
ドクターはそう呟くと、自身の魔力を目一杯放出し…空に線を描いて〝魔獣の指揮官〟を目掛けて飛翔する。
「ッ……来るぜ〝相棒〟…チサトッ」
「うん…魔力全開…落下に減速がない…〝特攻〟」
ドクターのその行動に、シュテンとチサトがそう言うと…彼等の側に黒曜の蜥蜴が現れる…その蜥蜴は、迫り来る〝膨大な魔力〟に笑みを浮かべ…自身もまた、その身から魔力を迸らせる。
「応よ、上等じゃねぇか…つまり、此処を受け切りゃ俺達の勝ちは確実だってんだろ?」
そして…その口からは、燃え上がる赤い炎を覗かせながら、ファニルは笑う。
「だったら、此処が俺の見せ場だな…!」
そして、ドクターの虹の魔力が…霊樹の根元へ振り注いだのと同時に…ファニルは、その口から火炎放射の様に燃え上がる炎の群れを吐き出した…。




