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怪物達の狂想曲〜彼方の獣達は電脳の夢を見るか〜  作者: 泥陀羅没地
第三章:魔人と魔女と人街の悪夢
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其は悍ましき蠅の魔王

――ズドォッ!――


放たれた〝槍〟は、空を突き抜けてベルゼの心臓を貫く。


〝仲間割れ〟…一瞬浮かんだその思考を、金獅子レオナルドは切り捨て…この硬直を逃すまいと攻めに転じる…。


――ドクンッ――


脈打つ鼓動が、街全体に響いた様な…そんな幻覚に憑かれながら…聖剣の中に宿る意志も、持ち主と同じ心持ちだったのだろう…只管に輝く高貴の光は…薄陰で覆われた世界に住まう〝魔の蟲〟を焼き尽くそうとし――そして。


――ズオォォッ!――


その試みは、その瞬間ベルゼの身体を包み込む〝昏い瘴気の濁流〟によって、容易く妨げられる…。


「ッ……クソッ!」


初めて、レオナルドの顔に〝焦り〟が宿る…僅かに掻いた冷汗…微かに揺れる〝瞳孔〟…その様相は、今目の前で〝脈打つ泥〟が、如何に〝危険〟であるかを如実に語っていた…そんな、レオナルドがベルゼへ視線を注いでから…僅か数秒後。


――ズボッ!――


泥塊から形成された〝繭〟から…一つの腕が突き破った…。



●○●○●○


気が付けば…ベルゼは、何処までも尽きることの無い〝黒〟の世界に立っていた。


「……此処は」


その場所にベルゼは一瞬警戒心を表すものの…直ぐに小さな記憶の攪拌から再起し、現状を認識し始める。


「――〝進化の間〟にも似た空間と言った所か」


そして、ベルゼがそう言葉を呟くと…不意に何処からか…いや違う…〝空間全体〟から、その言葉に肯定的な意味を含ませ語る。


『その通りだ、〝彼方の同胞〟』

「ッ――何者だ?」


突然響くその言葉に対し、ベルゼは若干驚きながらも〝暗闇〟へそう問う…その問いに、暗闇は応える代わりに、その中から〝1人の男〟…男?…を産み落とす。


――カチッ…カチッ…カチッ…――


ベルゼが男と断言出来なかったのには訳がある…暗闇から現れたその人物は、妙に小綺麗なビジネススーツを身に纏い…真っ直ぐに伸びた背とバランスの取れた佇まいが、得も言えぬ上品さを醸し出す…問題は、その頭部だ。


「…時計?」


男の顔には、凡そ顔と呼べる物は存在していなかった…其処にあるのはギアとネジで構成された無骨な歯車の集合体…その中心…人間で言う所の〝顔面〟に相当する部位には、〝13〟までを数える些か奇妙な時計が取り付けられ…カチカチカチッと…奇妙に秒針を揺らしていた。


「――始めまして、〝ベルゼ〟君…私は〝案内人〟…まぁ気軽に〝ウォッチャー〟とでも呼んでくれ給え!」


そして、その堅苦しく生真面目そうな佇まいから一転…おちゃらけた道化のように砕けた雰囲気でベルゼの側に歩み寄ると、値踏みする様なベルゼの視線にクスクスと笑みを浮かべながら、彼へ説明を始める。


「さて、何故君が此処にいるのか説明しよう…ズバリ…君は〝マオ・ディザイアの試練〟に組み込まれたからだ」

「ほう…?」

「彼女の持つ〝あのコンパス〟…ソレが君を指定した…〝彼方の獣〟でなければ、態々私や〝他の案内人〟が出張ってくる事は無いが…今回は事態が事態だけに、我先にと此処に来たのさ♪」


その言葉にベルゼが興味を示すと、時計頭の男はクスクスと怪しく笑いながらベルゼへ告げる。


「さて、〝試練の対象〟に選ばれた君には…二つの〝力〟を与えられる…一つは、〝ステータスの強化〟…強化度合いは試練の難易度による…今回は〝最大〟近い強化倍率だ、オメデトウ!」

「――もう一つは?」


そして、何が可笑しいのか愉悦を孕んで祝福するウォッチャーへ、ベルゼは短く問い返す。


「――フフッ…もう一つは…君も既にヒントを得ているだろう…〝この場所〟に来た…〝進化の間〟と同じ…剥き出しの魂が残留する〝現と夢の境界線〟に…つまり、〝そういう事〟さ♪」

「〝進化〟か…?」

「〝一時的な〟…ね?……〝試練が終わるまで〟の間だけ与えられるボーナスタイムさ♪」


その問いにウォッチャーはそう答えると…空間に3つの〝存在〟を映し出す。


「選ぶと言い、〝貪食のベルゼ〟…君が使う〝器〟だ」


ウォッチャーはそう言い…彼の眼の前に3つの〝素体〟を用意し…気配を消す…一度暗闇に包まれ、独り沈黙に立たされたベルゼは…その姿とステータスを確認し…そして、〝選択〟する…。



○●○●○●


――ズッ、ブチブチブチッ!――


ソレは繭を引き裂いて這い出す…〝黒い泥〟の塊だった…。


――べシャッ、ベチャッ!――


真っ黒な泥から伸びた〝黒い手〟は…その身に付着した〝瘴気の泥〟を振るい落とし…徐々に、中に居た〝ソレ〟の姿を皆へ見せしめる。


「あ、あぁ…フフフッ…〝身体〟が…軽い」


其処に居たのは、一見…先程と何ら変わらない〝ベルゼ〟の姿…蒼白い肌に、整った顔…少し褪せた金色の髪は、宛ら大衆の考え出す〝吸血鬼〟のイメージに近しいだろう…しかし。


――ブブブッ――


その羽音が、彼の種族を主張する…耳障りな羽音の多重奏が、気色の悪い蟲の蠢動が…彼こそが〝蟲の王〟であると告げている。


そして…そんなベルゼを…より一層〝化物〟として際立たせる物が…其処に有った。


――ブブッ…ブブブブッ――


ベルゼの上半身は確かに〝人間〟だった…しかし、その下半身は人から遥か対極に位置する物であり…先程までのベルゼとは一線を画す変化だった。


――カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチッ――


其処には巨大な〝蠅〟の身体が有った…いや、姿形は蠅に良く似ているものの、その実態は現実のソレとは大きく異なるが。


本来複眼が有るべき場所には無数の牙が密集し、カチカチカチと気色悪い合唱を奏でていた。


その背には3対の巨大な羽根が蠅並ぶ。


宛ら〝蠅のアラクネ〟と言うべき…しかし、ソレを遥かに凌駕した悍ましさを孕んだソレこそ…〝ベルゼの羽化〟の果てだった。


「――さて、寝起きの一手だ…〝レオナルド〟――」


その姿に、レオナルドは一瞬驚き固まる…しかし、その瞬間放たれたベルゼの言葉と――。


――シュンッ――


羽音も無く、その場から消えた〝ベルゼ〟の速度によって…現実へと引き摺り戻される。


「〝小手調べ〟だ…簡単に死んでくれるなよ?」


そして、レオナルドが警戒心に周囲を見渡そうとした時…ベルゼの声が…〝背後〟から響いた。

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