終幕と踊る役者達
2本目じゃいッ。
――バサバサバサバサッ!――
空を覆い尽くすのは、頭部を触手の花で覆い尽くした鳥の群れ。
――バタバタバタバタッ――
大地を駆け回るのは、腸を零し粘液で潤った触手を舌のように扱う異形の獣。
其れ等は皆一様に、不格好に肉体を駆動させ…空から大地から、漂う生命の気配に引き寄せられて其れを穢そうとしていた。
「――〝彼女の眷属〟だッ、とんだ大群じゃないか?」
「ッ……死骸に寄生させたのか…!」
距離は見る間に詰まり、大地に先駆けて空の戦いは幕を開ける。
『『『『〝ッ――!!!〟』』』』
ソレは声にすらならない金切り音を上げて、触手を震わせる…その舌とも言い難い鋭い触手は空を切り…銛で貫く様に二人を襲う。
――ブンッ!――
その一撃はしかし…所詮生まれたて、借り物の器を使っただけの動きでは熟達した聖獣たる彼等を捕捉する事は出来ず、触手の突きは容易く躱される。
――バサバサッ――
「――とは言え、こう多いと厄介だね…〝アーク〟君、此処は一つ頼むよ」
「〝了解〟した!」
二匹と聖獣は迫り来る魔獣達を纏めるように空を泳ぎ…そして、その行動にまんまと誘き寄せられた触手の眷属達は、その単純な知性で思考することも無く、目の前の生命に触手を突き刺す。
――キィィィンッ!――
そして、獣達がその穢れた舌で清く豊潤に満ちた生命を舐ろうとした瞬間――。
「〝悪禍癒すは秩序の聖鳥〟」
アークの身から滾る、眩いほどの浄化の白が…邪な眷属の肉体を焼き尽くした。
●○●○●○
――ダンッ!――
地面を蹴り砕き…ヴォルフは駆る…その身を〝人〟から逸脱して…。
――ブォンッ――
その姿は、ともすれば〝アチラ側〟に見られていたかもしれない…凍てつくような〝黒い闇〟を纏い…影に同化し進む〝金色の瞳〟は鋭い刃物のように、道の先から迫る〝異物〟を捉え…牙を向く。
――ズオォォッ!――
瞬間…駆け抜ける眷属達が見たのは…金色に輝く〝線の軌跡〟…ソレは己等の周りを驚く様な速さで駆け抜けると…そのまま通り抜けてゆく。
次いで、その先に〝獲物〟の姿が無いと理解したその瞬間――。
――バラッ!――
触手の異形は、その肉体を刹那バラバラの細切れに切り裂かれ意識を途切れさせた…己が何をされたのかも理解出来ずに…。
「――数は多い…だが、大した驚異ではない」
大地を駆け抜けながら、自身に纏わりついた〝影の刃〟を振り落とし…ヴォルフは進む。
「――とは言え、今は1分1秒が惜しい…邪魔な敵の相手に手間を掛けるのは面倒だ」
そして、今し方鏖殺した連中の第二波がやって来たのを確認するとそう呟きながら、自身の〝能力〟を行使する。
「〝影霊の呪詛〟――〝姿無きは呪詛の黒狗〟」
その瞬間、男の身体から影が剥がれ落ち…自らの意志を持った様に先へ先へと触手達の下に突き進むと…その瞬間、触手の化物達の影を〝影の犬〟は貪り喰らう…その瞬間。
――バタバタバタバタッ――
まるで、突然電池の切れた人形の様にその場に倒れ伏しピクリとも動かない触手の化物達…その、まるで祟り殺された様な死骸を飛び越えてヴォルフは駆け抜ける。
「コレで〝影〟は暫く使えないな」
そんな彼の疾走が功をなし…誰よりも早く、一足先に〝霊樹〟の根元にまで近付いた…その時。
「――ニャフムッ、にゃるほどにゃるほど…それがミャアが突然即死した絡繰にゃね?」
そんな彼の目の前に…そんな声を響かせて一匹の〝猫〟が飛び出す。
「……チッ、やはり邪魔が入るか…」
「そりゃそうにゃ♪――こちとら〝コレ〟を守らにないと駄目なんだからにゃッ!――」
その猫娘は、土煙の中胸を張りながら黒狼の前に立ちはだかると、そのくすんだ緑の眼を黒狼の〝足元〟…〝影の無い地面〟に向けて、言葉を紡ぐ。
「ニャフム…先刻の〝置き土産〟でも考えていたにゃけど…〝呪術〟系の能力にゃね?」
「…」
その指摘にヴォルフは答えない…しかし端から返答を期待していなかったのだろうニャミィは、自らの疑問を自己解釈で解決する様に言葉を並べていく。
「〝魔力〟に加えて〝肉体の一部〟を代償にして行使する〝呪術〟…その〝部位〟の希少性によって得られる効力は上がり、〝死を代価にした呪術〟で街全体に強烈な呪詛を振りまいた〝魔術師〟も居たとかニャンとか…うん、君の術はソレに類する物と見てよさそうにゃね?」
そうして自身の疑問を解消し終えたニャミィは、その瞬間目前に迫っていたヴォルフの牙をスルリと躱して…ヴォルフに言う。
「――ニャフッ、流石に三度目ともにゃれば単純な攻撃に食らってやる道理は無いにゃね?」
その挑発の籠もった一言に触発された訳では無いが、ヴォルフはその言葉の後再びニャミィへ肉薄し…その牙を向く。
――ガチンッ!――
その牙は残念な事に猫娘の肉を噛み千切る事はなく空気を咀嚼すると、ヴォルフの顔は一瞬陰る。
「ニャハッ♪――単純なスペックは〝人型〟以上にゃね!?――でも、行動が読みやすい分、人型よりも戦いやすいにゃ♪」
そんなヴォルフの様相にニャミィは益々言葉を紡ぎながら…その手に魔力と、鋭い爪を携え…捕食者の眼差しでヴォルフを見据える。
「1度目は敗走、2度目は死にかけを横取り…となれば3度目は〝ニャミィ単独〟での撃破で飾りたい所にゃねぇ――それじゃあヴォルフ、互いに無駄話はもう終わりにゃ?」
その視線に、ヴォルフも気を取り直し…猫と狼の魔力の衝突が辺りに響き渡る。
「それじゃあ早速始めるにゃッ――〝向こう〟もやってる様だしにゃ♪」
そうして二人は睨み合う…周囲では散逸しながら発見される…強い魔力の高鳴りと、〝轟音〟を前に…その極度の集中は時間を引き伸ばし…僅か1秒の時間を、二人は10秒、30秒へと変えてその瞳に焦げ付く感情を見据える……そして。
――ズガァァァァンッ!!!――
その集中は刹那、鳴り響いた1つの高音によって解き放たれ…二匹は其々〝殺意〟を手に乗せ…その爪を振り抜いた。




