癒す聖鳥は病巣に侵されて
――バサッ!――
「ほらほらッ、もっと気張りなさいアーク!――このままじゃ、皆死んじゃうわよ!?」
「ッグ…!」
空を飛び回るアークが、風の刃を撃ち込む…その刃を迎え撃ちながら…逃げ惑う人を触手の刃と槍で轢き殺してゆく。
アークは、なけなしの魔力を削られながら私の攻撃の間合いを避け迎撃する…一見、その攻防は互角の様相に見えているが…その実で、この状況は極めて〝此方有利〟の盤面だった。
此方のリソースや体力は万全…取れる選択肢は無数…対して、アークの魔力体力は共に〝レッドゾーン〟…そのリソース不足による選択肢の激減、撤退=敗北の〝最悪の条件〟…その全てが、体力的に、精神的に、アークへ強い〝ストレス〟を与え…思考を狂気で侵す。
「――ッ♪」
アークの表情を見る…焦り、苛立ち…不安、絶望…戦いながら日増しに強く成る〝諦めの心情〟…そして、ソレを抑え込む〝自我の頑強さ〟
……ソレは、この地獄の只中にあっては恐ろしく眩い〝人類の希望〟…成る程、故にこそアークは〝人類の守護者〟として、人に慕われるのだろう。
「――あぁ、本当に〝気に食わない〟♪」
その眩さが、自己の本質と合致した…その〝在り方〟が…私にはとても眩しく見える、とても美しく見える…とても……〝妬ましく映る〟…。
――『ザザッ…』――
その〝渇望〟に…意識が逸れた…そんな私の気心を取り戻させたのは、その瞬間アークの身体から発せられた…強力な〝魔力の高鳴り〟だった。
●○●○●○
――ザッ…ザッ…ザッ…――
「ッ!……誰か、〝戦っている〟…?」
薄暗がり、薄暗闇…人目の寄り付かぬ、小さな陰道を歩んでいたレイナは、自身の進む先に感じる〝強大な浄化の魔力〟にそう、言葉を紡ぐ。
――ブブブッ、ブブブブブッ!――
彼女が歩む先には、血と肉と骨が転がり…其れ等を、無数の獣や蟲が食み、飢えを満たしていた…。
『ッ…グルルルッ…?』
そんな獣達の前を通り過ぎれば…当然彼等の目を引くもので…彼方の獣達の視線が彼女を捉え、一瞬…邪気を孕む…しかし。
――カチャ…カチャ…――
少女の首元に掲げられた〝その紋章〟を見ると、獣はその邪気を霧散させ…虫達も彼女に敬意を払う。
――――――
【○○の紋章】レア度:☆☆☆★★
イベント専用装飾品、魔獣に与する罪人を示す首飾り…ソレを付けていると魔獣に襲われなくなる。
〈マオ・ディザイアの盟友〉
――――――
自らの首に飾り付けたその紋章に触れながら、レイナは進む…その脚に淀みはなく…街の中枢…〝魔獣と聖獣の闘争〟が最も熾烈に頻発するその通りへ脚を駆けたその時。
――ズドォォッ!!!――
凄まじい瘴気が…莫大な魔力で具現化した〝浄化の大鴉〟を絡め取る光景がレイナの目に映り込んだ。
○●○●○●
――ゴオォォォッ!――
浄化の魔力を放出する…その命を薪にして。
(〈聖浄術〉――〈〝献身〟〉)
アークは、自らの持つ能力を駆使し、その魔力を…その命を全て〝浄化の力〟へと集約する…その輝きは凄まじく…周囲の有象無象の魔獣達を余波だけで塵芥へと帰すだろう。
(――〝今〟なら…行けるッ!)
「――〝我が祈りは秩序に捧ぐ〟」
その〝魔を滅ぼす力〟の高ぶりに…アークは朽ちゆく身体に無理を言わせ、〈詠唱〉を重ねる事で〝術〟を紡ぐ。
「――〝我が力は秩序の為に〟、〝我が翼は庇護の為に〟」
ソレは…アルスやヴォルフ、金獅子やベルゼが…死線による研鑽の末に磨き上げ、…かつてアークが、その身に宿していた〝力の一端〟…。
「――〝我が宿業は悪を滅ぼす為に〟、〝我が魂は永劫に安寧の礎と成らん〟」
《〝聖浄術〟のレベルがMAXに成りました!、【昇華】しますか?》
〝聖鴉アーク〟が…その名を知らしめた〝力〟の名だった…。
「――〝悪禍癒すは秩序の聖鳥〟」
そして、アークの詠唱と共に〝禍の根を断つ聖浄の鳥〟は…この街に蔓延る病の根源へと羽搏き、迫る。
《【能力統合】――〈聖浄術〉、〈魔術改造〉、〈白翼〉を【統合】》
《新たな【能力】を獲得――〈救済の聖鳥〉を獲得しました!》
そして、その一撃は確かに…直撃した――。
「『――へぇ、ソレが〝聖鴉〟の所以って訳ね?』」
「ッ…!?」
――ドロッ!――
〝筈だった〟…。
●○●○●○
浄化の白が目を焼く…その力は強烈で、周囲の魔獣達を意図も容易く処理して行く…成る程、腐っても〝上位の聖獣〟…手負いと言えども、腹に一芸抱えていたらしい。
「――本当は、もう少し〝良いタイミング〟で使うつもりだったのだけれど…仕方無い」
迫る〝忌まわしい気配〟に、私も選択を余儀無くされる…その選択に、私は結論を出すと…直ぐに〝言葉〟を紡ぐ。
「〝変形〟――〝魔人:ベルゼ〟」
――ゴバァッ!――
その瞬間、私の身体から放たれた…凄まじく濃密な〝黒い瘴気〟が私を包み込む。
コレが…私の〝切り札の1つ〟……この勝負で、相手の意表を突くために手に入れた〝ベルゼの力〟……とは言え、完全な取得とは行かなかった。
飽くまで手にしたのは、その〝力の一部〟と…〝能力〟だけ…。
――メキメキメキッ!――
私の身体を、黒く輝く鋭い四肢が生え並び…背中に4対の羽根が作り出される…。
――ガッ!――
その〝異形の腕〟で白い魔力の鴉を掴むと…その軽さと柔らかさに目を見開く…成る程、これだけでまるで違う…迫り来る大岩が、一瞬にしてゴムボール程に化けた様な驚きが私を満たす。
「――〝変形〟――〝外装化〟…ナンテネ♪…でもまぁ、試みは上手く行ったみたいね……コレなら――」
――ゴシャァッ!――
「〝相手が複数人〟でも、何とか成りそうね♪」
そして…少しの試運転を済ませたその瞬間…アークが決死の思いで創り上げた〝魔術〟を…一握の塵紙宜しく、握り砕いた。




