中味は何かな?
おにぎり。
それは柔らかくした「ハクマイ」の中にいろいろなおかずを入れ、優しく握ったもの。
カズが言うには、「のり」が欲しいとのこと。
「のりってなに?」
ビアンカさんがお口いっぱいにおにぎりを頬張ってます。
どうでもいいですけど、口のまわりに米粒がめちゃくちゃ付いてますよ?
「んっと、カズの話では海藻? みたいです。真っ黒な紙みたいなやつらしいです」
「ハクマイ」を茹でているときに聞いた話を思い出して教えてあげると、ビアンカさんの顔が微妙に歪みました。
「なに、それ」
そう思いますよね?
真っ黒な紙を、こうペタリとおにぎりにくっ付けると完璧らしいですよ?
「しっかし、ただの白い豆を出されたときはどうしようかと思ったぜ」
ハルトムートさんが上機嫌でガハハハッと笑うと、白い米粒が舞います。
「わっ、汚い。ハルト、食べているときに大笑いしないでっ」
ビアンカさんが眉をぐっと顰めてハルトムートさんを叱るけど、やっぱり口の周りは米粒だらけです。
無言で二人にハンカチを差し出すオスカーさん。
「このおにぎりという料理は、中にいろいろとおかずが入れられるんです。ビアンカさんが食べている甘辛く味付けしたそぼろ肉やハルトムートさんお気に入りのから揚げとか」
あと、静かに食べているディータさんは、さっきから塩焼きした魚の身をほぐしたおにぎりばかり手に取ってます。
オスカーさんはスパイシーな味付け肉にチーズを絡めたおにぎりですね。
ぼく? ぼくは味付けゆで卵のおにぎりですよ。
半熟の卵が美味しいですっ!
「このコメは、茹でて柔らかくしたのか?」
「茹でて……カズは炊くって言ってました。このコメを精米してハクマイにしたらとぐ? とにかく水でゴシゴシして、しばらく水に漬けてぐつぐつ煮るんです」
カズの指導どおりに作ったけど、ちょっと工程が面倒くさいし、時間もかかった。
途中で様子を見るのに鍋の蓋を開けようとして、カズの頭突きをくらってしまった。
「……そう、か。そんなに大変な料理なのか……」
オスカーさんがゴクリと喉を鳴らして、自分の手の中のおにぎりを見つめる。
「そのあともカズの指導は厳しかったです。炊き立てのコメは熱いのに、手で握れって言うし。形が歪だと怒るし。無理ですよ、三角形に握るのって。なんとか丸い形で許してもらったんです」
ぼくは手におにぎりを持ったまま、はあーっと深くため息を吐いた。
今朝のカズの気合の入り方は、とっても迷惑でした。
スパルタ教育だよ、あんなの。
はぐっ。
「んーっ、でも美味しいから何でも許せちゃいます」
出来立てホカホカで、ほんのりとした甘みとおかずのしょっぱさがたまりません!
スープは鶏の骨で出汁を取った玉ねぎとかきたまのスープです。
「ふわわわっ。こっちも優しい味です」
午前中のハルトムートさんの爆走ダンジョン攻略の疲れが取れるような思いです。
「……っん?」
急にハルトムートさんが顔を上げ左右にキョロキョロと視線を投げる。
「どうしました?」
「いや……、視線を感じた気がした。誰かにじっと見つめられていたような?」
コテンと首を傾げたハルトムートさんは、他のみんなにも気づかなかったか? と問いかけたが、誰一人としてその視線に気づいた人はいなかった。
「お前ら、夢中でメシを食いすぎだ」
まあまあ、ハルトムートさん、こちらもお一つどうぞ。
それは甘辛なタレで焼いたお肉に魅惑のマヨネーズを絡めたスペシャルおにぎりですっ!
お昼ご飯を堪能したぼくらでしたが、やっぱり午前中の無理が祟りビアンカさんたちの疲労が回復しなかったため、早めにダンジョン攻略を切り上げて帰ることにしました。
ハルトムートさんの足の怪我は問題なく治っているようで、ハルトムートさん自身も違和感は感じなかったらしいです。
もちろん、ぼくの『異世界レシピ』の「家庭の医学」モードでハルトムートの体をスキャンしても、どこにも異変はありませんでした。
でも、長い間抱えていた違和感は、たとえ治ったとしても無意識で感覚に残り、体の動きに弊害を与えるだろうと。
「だから、繰り返し繰り返し体に教え込まないとダメなんだ。お前の足はもう大丈夫だってな」
ニカッと笑ったハルトムートさんは、嬉しそうにぼくにそう教えてくれました。
「それって……体が馴れるまではこの無茶なダンジョンアタックが続くってこと?」
ビアンカさんの悲痛な叫びと、ディータさんの「嘘だろう?」と見開かれた目が痛々しい。
「いいじゃねぇか。中級ダンジョンの高層階を目指せば美味しいハズレドロップは手に入るし、お前たちのレベルは上がるし、ついでにギルドの評判も高くなるってもんだ!」
「それは、そうだけど……」
ガクッと肩を落とすビアンカさんに、オスカーさんは苦笑してポンポンと優しく頭を叩いてあげる。
「すまない、ハルトムート。私たちは私たちのペースで進めたい。ビアンカもティーダもまだまだ基礎能力を上げていくところだ。もう少し待ってもらえないだろうか?」
「んぐっ。わ、わかったよ。悪ィな。つい、俺も嬉しくなっちまって」
ハルトムートさん照れくさそうな顔で、怪我をしていた足を優しく摩る。
「むしろ、このまま白い輪にいていいのか? とても高いランクの冒険者だったのだろう? 今からでも所属ギルドの変更を……」
「ああ、いい。いいから。昔からつるんでいた奴らはとっくに冒険者から足を洗っているし。俺はクセが強いからどこのギルドに行っても上手く馴染むことができるかどうかわからん。それに……このギルド、俺は好きだぜ」
「ハルトムートさん……」
ぼくはこのギルドが好きと言い切ったハルトムートさんにキラキラと好意の籠った視線を送る。
そうですよね! このギルドって最高ですよねっ!
「……いや、気持ちは嬉しいが。ここはまだダンジョンの買取所だから……」
オスカーさんは真っ赤な顔でぼくたち二人の口をそっと塞ぎました。
えへへへ、周りの冒険者たちからも視線を感じてちょっと恥ずかしいぼくたちなのでした。
「うわわわっ。す、すみません。すみません」
ガタガタンという大きな物音の後に、誰かが必死に謝る声が辺りに響く。
「あの子は……」
周りに荷物がいっぱい散乱していて、ぼくぐらいの子供が這いつくばって拾っている。
謝りながら拾っているその子の後ろで、何人かの冒険者たちが腕を組んでニヤニヤとその姿を見ていた。
「……オスカーさん」
「ああ。前にも似たようなことがあったな」
ぼくは思わずオスカーさんのローブを握って、その子から目を逸らす。
ハルトムートさんも険しい目でその人たちを睨んでいた。
しばらくして、ギルド職員が来て事態の収拾をした後、その子と冒険者たちを連れて奥のテントに引っ込んでしまった。
おにぎりを食べて幸せになった気持ちが、ヒュルルルと萎んでいくようでした。




