ハズレドロップ その3
思ったよりも強いボスを倒して、地下十階で得られるドロップアイテムにしては換金率が高いアイテムを手に入れ、ビアンカさんが望んだ特上のお肉もゲットできた。
どう考えてもルンルン気分で転移の魔法陣で脱出する状況なんだけど……。
ボス討伐した功労者のレオとぼくを除いた皆さんが、ゲッソリお疲れモードになってます。
もちろん、ギルドメンバーで初めてのダンジョン攻略、初めての連携で精神的疲労もありますが、でも、やっぱり、ぼくの手の中にあるコレのせいですよね?
ぼくの手の中にはこんもりと木の根っこのような物体が握られています。
和のおじさんは、この根っこが食べられるモノだと喜んでいますが、ぼくも含めてみんなが疑っています。
だって、クンクン。
すっごく土の匂い。
「ねぇ、クルト。本当にコレ、食べられるの?」
ビアンカさんが眉をへにょりと垂らして、ツンツンと根っこもどきを突きます。
その顔には「せっかくのキングボアのお肉なんだから、おいしく食べたい」と書いてあるように見えた。
ボアのお肉はよく店に並んでいますし、ビックボアのお肉も売られていることはたまにあるんだけど、さすがにキングボアのお肉はお金持ち用です。
今回ドロップしたお肉の塊のほとんどをダンジョン用の買取窓口で売却してしまうつもり。
ぼくたちの夕食用に小さな塊肉だけ残します。
「うーん。コレのタレでお肉を焼くとおいしい……そう、だなっと」
「おいしい」と確信持って言っているのは和のおじさんだけですが、他のみんなには見えない物体なので、コレを料理に使うのはぼくの意思ですと主張しないといけないのが、つらい。
「根っこでタレ?」
ディータさんが首を傾げます。
「んっと……タレだそうで……いや、タレです」
ぼくもこの根っこをどうしてどうやってタレにするのか、まだ和のおじさんから教えてもらってないのでわかりません。
「そのままステーキで塩コショウでもいいと思うんだが……」
とうとう、オスカーさんが「ステーキ」で食べたいとストレートに要望を口に出してきました。
ぼくだって、貴族の人たちでも滅多に口にできないキングボアのお肉を厚切りステーキで食べたいです!
でも……ぼくの頭の上で和のおじさんがウキウキとはしゃいでいるんだ。
「しょうがっ、しようがっ! 豚の生姜焼きっ!」
……豚じゃないです、キングボアの高級お肉です。
どことなく不満顔の面々に囲まれて、人が疎らな買取窓口までやってきました。
バルツァー公爵領地にあるギルド支部の出張買取所です。
ギルド職員の方々が働いていますが、まだ日が高い時間なのでのんびりと受付しています。
「どれぐらいの稼ぎになったかな?」
ビアンカさんがお肉以外のドロップアイテムを数えだします。
最後のボスモンスターのドロップアイテム以外はほとんど値が付かないショボいアイテムらしいので、そんなに高額買取は望めないでしょう。
「肉があるから、しばらくの活動資金にはなるな」
オスカーさんがどことなくホッとした表情を浮かべているような?
ご実家からどっさりと金貨の入った袋を貰ってましたよね?
万が一のとき以外は封印するんですか? わかりました。
ちょっと、もったいないけど……。
前の人たちの対応が終わったので、ぼくたちの番になりました。
ディータさんとビアンカさんが机の上にドロップアイテムをドンドン出していきます。
職員のお姉さんは冷静にアイテムを確認していきます。
うーん、なぜかぼくが緊張してきました。
いいお値段になりますように!
心の中で両手を合わせてお祈りしていると、バタンと何かが倒れる音。
何気なく音がした方向へ顔を向けると、大きなバッグを背負った子供が横倒しに倒れているのが見えました。
無意識に彼を助けようと動いた体は大きな手で止められる。
「オ、オスカーさん?」
オスカーさんは右手でぼくの肩を抑えたまま、じっと倒れた彼の姿を見つめる。
そして、ヨロヨロと大きなバッグを背負ったまま立ち上がろうとする彼を、数人の冒険者たちが不機嫌そうに囲んだ。
「なにやってんだ」
「せっかく拾ったアイテムは壊れてないだろうなっ」
「グズが」
一言ずつ彼に文句を言いながら、バシッバシッと叩く音が聞こえるのは……もしかして殴られている?
グッと前のめりになるぼくの体をオスカーさんが抱きこむようにして止め、頭を緩く左右に振った。
「ダメだ、クルト。別のギルドチームと揉めることはできない」
オスカーさんも彼らの態度に腹を立てているのか、厳しい表情だ。
「でも……あの子がかわいそうです」
何か事情があるのか、大人たちに殴られてもか細い声で謝りながら立ち上がっていた。
「ああ、ほら、ギルド職員が間に入る。もう、大丈夫だ」
オスカーさんの言葉どおり、何人かの年配なギルド職員が仲裁に向かっていった。
「よかったぁ」
ホッと胸を撫でおろしていると、後ろでビアンカさんが「査定がでたわよ」と呼びかける。
「さ、行こう」
宥めるようにポンポンと背中を叩かれてオスカーさんと一緒に買取窓口のカウンターまで歩く。
そして……このことはしばらくすると、ぼくはすっかり忘れてしまった。
大きなバッグを背負ったぼくと同じぐらいの年頃の少年のことを。




