ショーガをおろす?
ダンジョンから乗合馬車に乗って町の広場まで帰ってきて、途中のお店で買い物しながらのんびり我が家へと向かいました。
和のおじさんの指示どおりの食材を買い足している間、ビアンカさんたちはキングボアを売ったお金で必要物資を補充しています。
ポーションとか、採取袋とか、薬草用の包装紙とかですね。
「しばらくは初級ダンジョンで稼がないといけないから、薬草採取もしようと思って」
確かに、初級ダンジョンで討伐できる魔物のドロップアイテムは売れないショボいアイテムばかりだから、まだ低層階で薬草を採取したほうが得策かもしれない。
「薬草って、もっと下の階には生えてないんですか?」
職業、治癒士で治癒魔法が得意なオスカーさんが詳しそうなので、薬草の質問です。
「いいや、下の階層でも薬草は採取できる。希少性の高い薬草は初級ダンジョンには生えていないが、地下十階を過ぎた辺りでは換金率の高い薬草もあるはずだ」
ふむふむ。
では、ぼくは皆さんの邪魔にならないように薬草を採取する係に立候補します!
「ダメでしょ。唯一の魔法使いが何言ってんのよ」
ビアンカさんが腰に両手を当てて、ぷくっと頬を膨らませてます。
「……ダメですか? それぐらい下層ならレオが魔法使いの役目を負ってもいいかなぁ、なんて……」
うっ、みんなの目がじとーっとしてきました。
すみません、薬草も採取しますが、しっかりと水魔法で攻撃もします。
「ほら、坊主。早く帰って作るぞ!」
和のおじさんがぼくの髪の毛をぐいぐいっと引っ張ります。
イテテ。やめて、ハゲちゃう。
ギルドハウスに帰ってきて、まずはぼくが最初にお風呂を使わせてもらいました。
今、みなさんは順番にお風呂に入って、今日使った武器や防具のメンテナンスをしています。
さてさて、じゃあ晩ご飯を作っていきましょう。
「とりあえず、その、ショ? ショーガ焼きがどんなものかわからないから、パンとスープとサラダはちゃんと用意しないとね」
バンは丸パンにガーリックを塗って少しトーストしよう。
スープは肉料理が失敗したときのために具沢山で……ベーコン入れよう。
味はサッパリより濃いめがいいから、トマト味にしようかな。
「スープはトマト味にするのか?」
和のおじさんが不服そうにくしゃと鼻にシワを寄せるけど、ダンジョンのハズレドロップを使って料理をさせようとするからでしょーっ。
でも、言えない。
料理が失敗して食べれなかった用に具沢山で味の濃いスープを用意しているなんて。
サラダにも芋やにんじんなど、葉物以外の食材を使おう。
「ん? ずいぶんと腹にたまるメニューだな?」
ぎっくーん! 和のおじさんが鋭いことを呟くので、ぼくはその場でぴょんと飛び上がってしまった。
「だ……だって、ダ、ダンジョン行って、みんな、お腹が減っていると、お、思うし……」
汗がダラダラです。
「ふむ。そうか。じゃあ、豚の生姜焼きを作っていくぞ、坊主」
「はあい」
諸々を諦めたぼくは、今日の戦利品であるキングボアの塊肉をドンッとまな板の上にのせた。
「これぐらい。これぐらいの厚さで切ってくれ」
ふよふよと移動してきた和のおじさんは、両手で肉の厚さの指示をする。
「わかった。どれぐらい切るの?」
「全部だ」
「ぜ、全部?」
うそっ? いやいや、失敗したときのために塊肉の半分残しておこうよ。
「みな、動いて腹が減っているんだろう? 生姜焼きはただでさえ食いすぎる料理だからなっ」
「……そう」
シクシクと心の中で涙を流して、ぼくは包丁を握りしめた。
正直、『器用貧乏』スキル持ちのぼくであれば、肉を切るのも手早くできてしまう。
ぼくの包丁さばきに和のおじさんもパチパチ拍手してくれた。
レオも。
「ほぅ。なかなかじゃねぇか。んじゃ、この肉にこの粉をかけろ。うすーくな」
「粉?」
「……特別にあっちから持ってきた。こっちにもあるとは思うが粉を売っている店が見当たらなかったからな」
ぼくは和のおじさんが用意したという、白い粉をうすーく切った肉にまぶしていく。
「んじゃ、これ、皮を剥いてすりおろせ」
ポンポーンと渡されたのは、例のハズレドロップの根っこもどき。
「皮を剥くのはいいけど、すりおろすってなに?」
「は? 坊主、すりおろすの知らねぇのか?」
コクンとぼくは頷きます。
「こう、金物でトゲがあって、こう、擦るように食材をする……マジか……」
和のおじさんが「すりおろす」をジェスチャーで教えてくれたけど、まったくわかりません。
レオもみょんと体を斜めに傾げて、不思議そう。
「困ったな……。さすがにおろし金は持ってこれねぇ」
腕を組んで目を瞑り難しそうに顔を顰める和のおじさん。
はわわわっ、これはチャンスでは?
「あのっ、今日はそのすりおろしが無理なら、別の料理で……ぶっ!」
突然、ぼくの顔の前にぴょーんと大ジャンプしてきたレオが割り込んだ。
そして、和のおじさんにめちゃくちゃアピールしているけど、どうしたの?
「そうか! えらいぞ、スライム。お前がすりおろしてみるか?」
「えっ……。レオ、そんなこと、できるの?」
無理して挑戦しなくてもいいんだよ? 他の料理に、つまりステーキにしてもいいんだし?
はっ! レオが失敗して根っこもどきがなくなれば、自然とステーキにメニュー変更できるかも……。
ククククッ。
ぼくは悪い顔で笑って、根っこもどきを両手に持ってレオへと笑いかけた。
「ありがとう、レオ。じゃあ、お願いできるかな?」




