地下十階のボス部屋アタック
地下十階ボス部屋の扉をギギーッと押し開けると、広い敷地の奥に岩場がある部屋でした。
そして、ポツンといる、この部屋のボスモンスター。
「あら、ボアかしら?」
ビアンカさんの眼が「お肉!」と輝いたように見えます。
「ボアだが、ビックボアじゃないか?」
オスカーさんがボアの上位種のビックボアだろうと、冷静にビアンカさんに訂正を入れました。
「いや、ちがう」
ちょっと広い部屋だったからか、遠近感がおかしくなっていたみたいです。
ドシドシッとこちらに突進してくるボアは、ものすごく大きいような?
「これは、キングボアだっ!」
ディーターさんがそう叫ぶと同時に持っていた盾をガツンと床に叩きつけ、自分の体で盾を安定させる。
ボーっと近づくモンスターを見ていたぼくは、襟首をガシッとオスカーさんに掴まれ、ポイッと放り投げられた。
「わわわっ!」
ポロリと肩かけ鞄の中からレオが零れ落ちると、レオは自分の体を弾丸のように飛ばし、地面すれすれを水平に素早く移動していく。
ドタッ! 痛いっ!
ゴロゴロ……床にお尻をぶつけて、投げられた勢いのまま転がっていったぼくは、壁にベチンと当たってようやく止まることができた。
「クルト、大丈夫?」
「ひぇぇぇっ。だ、大丈夫ですぅぅ」
転がり回っていたせいで目がぐるぐーるしているけど、大丈夫です!
ビアンカさんは転がるぼくを追いかけてきてくれて、立ち上がるのに手を貸してくれた。
「オ、オスカーさんたちは?」
フラフラしながら立ち上がり、キングボアと衝突しているだろうディーターさんとオスカーさんの姿を探す。
ちょうど、ディーターさんの盾にキングボアの牙がぶつかっているところだった。
オスカーさんがディーターさんの体を後ろから支えているが、その足はじりじりと下がっている。
「あわわわ、ど、どうしよう」
ここからぼくの水魔法を打ってもキングボアのみにダメージを与えることができるだろうか?
ちょっと距離があるから、コントロールが狂ってディーターさんたちに当たっちゃうかも。
「ダメよ、クルト。離れていなさい。いつこっちに向かってくるかわからないわ」
ビアンカさんがボア系モンスターについて教えてくれた。
低ランクのただのボアは真っ直ぐに対象物に向かって走ってくる。
途中で曲がったり方向転換することができない、比較的討伐しやすいモンスターだ。
その上位種であるビックボアは、ただのボアより一回り体が大きく、新人冒険者ギルドでは一撃で倒すのが難しい。
でも、やっぱり一直線に突進してくるので、攻撃はしやすい。
問題は、このキングボアだ。
こいつは、ただ突進してくるだけでなく急な方向転換も急停止もできる。
しかも、さらに体が頑丈で斬撃が概ね効きにくい。
ボアの牙が口の横にちょこんとあるのに、キングボアの牙はにょっきり生えていて立派な武器だ。
「つまり、こっちの方が狩りやすいとバレたら、あいつはこっちに突進してくるわ」
そして、そうなったらディーターさんたちの移動速度では間に合わず、ぼくはドッシーンとぶつかってお陀仏……え? ビアンカさんは?
「あたしは大丈夫よ。素早さには自信があるもの」
ふふん、と胸を張って言われても、コメントに困りますよ?
意外と呑気にそんな会話を交わしていたぼくたちの耳に、絶叫が飛び込んできた。
もちろん、キングボアの絶叫が……。
「わーいっ! お・に・くー!」
ビアンカさんがキングボアを倒して出てきたドロップアイテムを狂喜乱舞で広いまくっている。
タリラーンタリランと踊っている。
ディーターさんは最初のキングボアとの衝突で肩を痛めてしまったらしく、オスカーさんの治癒魔法を受けている。
真っ赤に腫れて、めちゃくちゃ痛そうでした。
ぼくは、お肉以外のドロップアイテムを拾ってます。
なんか、ハンカチサイズの皮とか、薪サイズの牙とか爪とか。
キングボアとの力比べにやや負けていたディーターさんたちに加勢する形で参戦したレオは、斬撃に強いはずのキングボアに向かって【ウォーターカッター】を乱発し、太い牙をスパーンと二本とも切り落とし、眉間と喉と腹と次いでにひょろんとした尻尾を斬り裂いた。
「ぐぶひひひひぃぃぃぃん」
というキングボアの絶叫が聞こえたかと思えば、その巨体はふわりと消えドロップアイテムが部屋中にバラまかれたのだ。
ディーターさんたちなんて、力いっぱいに盾を押していたから、急に相手が消えてたたらを踏んでいたよ。
そのレオは、超ご機嫌で岩場で跳ねて遊んでいる。
――レオ、強すぎない? 本当にただのスライムだよね?
「あれ?」
ぴょんぴょんと同じ所で何度もレオが跳ねている。
もしかして、ぼくに見せたい物があるのかな?
「なあに? そっちにもドロップアイテムがあったの?」
ぼくはやれやれと岩場に足を向けた。
…………。
「で、これはなんだ? クルト、これは……本当に食べられるのか?」
オスカーさんの困惑顔を見るのは何回目かなーと、現実逃避したくなる今日この頃。
ぼくの両手には、こんもりと木の根っこみたいな食材? が乗っています。
「た、たぶん」
ぼくはオスカーさんの顔を見ないようにスーッと目を背けました。
だって、レオが「拾え」て訴えるし、和のおじさんが「ひっゃほう」と喜ぶんだもん。
『異世界レシピ』の鑑定でも、「薬味に最適」と表示されました。
薬味ってなに? この根っこもどきは本当に食べられるの?
和のおじさんが「しょうがーっ!」て叫んでいるけども?




