ハズレドロップ その2
転移魔法陣が敷かれた入口に立ったぼくらは、オスカーさんがその魔力を魔法陣に流すことで瞬時に五階のボス部屋の外へと移動することができた。
「他の転移陣がある階を踏破していると、選択画面が出現して行きたい階数を選べるんだよ」
目をキラキラさせて転移魔法を堪能していたぼくに、オスカーさんが丁寧に説明してくれる。
ぼくたちがこの初級ダンジョンで踏破したボス階数は五階だけだから、自動的に五階へと転移されたけど、十階や十五階を踏破したギルドチームの場合、魔法陣に魔力を流すと行先選択画面が表示されるらしい。
やだ、それ見たい!
興奮しているぼくの耳に、ビアンカさんの呆れたため息が聞こえる。
「それにしてもハズレドロップが調味料ねぇ。……信じられないんだけど」
うっ! ビアンカさんからの疑惑の視線が心に痛いっ。
うっかり鞄からハズレドロップである黒い調味料の瓶を落としたぼくは、問い詰められるままにすべてをみんなに白状しました。
あ、三人の小さなおじさんの一人、和のおじさんのことは内緒にしています。
どうせ、紹介してもみんなには見えないですしね……。
調味料で食べられると主張したぼくに、好奇心旺盛のビアンカさんはペロリとぼくと同じように味見してみました。
「しょっ、しょっぱぁぁぁーいっ」
ですよね。
しょっぱいですよね?
ぼくも「調味料」という和のおじさんには不信感でいっぱいですもん。
当然、オスカーさんとディータさんからの疑いが晴れず、二人は味見もせず。
それでも、ぼくの耳の周りで和のおじさんが「ひたすらハズレドロップを拾ってこい!」と騒ぐから、ぼくはみなさんにハズレドロップを拾ってもらうようにお願いしました。
「ハズレドロップを試しに口にいれて三日三晩のたうち回って苦しんだ奴がいたな」
「あたし……口が真っ赤にはれ上がって、ヒレハレホロとしか喋れなくなった冒険者の話を聞いたことがあるわ」
「…………(黙って首を振る)」
クルッとこちらを向いたみなさんの目が「それでも欲しいの?」と訴えてきましたが、欲しいんですっ! と強く頷いてみせました。
そして、ここ。
五階のボス部屋から階段を下りてダンジョンの地下六階です。
「人の気配があんまり感じないですね」
地下四階までは他のギルドチームの戦闘がちらほらと聞こえてきたのに、六階はぼくたちしかいないような?
「いや、ただ階層が広くなって他のギルドチームがばらけているだけだぞ」
オスカーさんが地下六階から九階は、低層階と同じく洞窟スタイルの階層だけど広さは二倍に広がっているとか。
「進むのが大変そうです」
十一階から十四階の広さはさらに広いらしく、本当に一日で踏破可能な初級ダンジョンなのでしょうか?
「あたしたちは十階のボスを倒したら今日はおしまい。本格的に稼ぐには十一階以降だもの」
「今日はクルトのダンジョン訓練だな」
ビアンカさんとディータさんにぼくはペコリと頭を下げて、気合も新たにダンジョンを攻略していくことにしましょう。
「……クルト。本当にハズレドロップを拾うのか?」
オスカーさん、ぼくのやる気を削ぐのはやめて!
ぼくだって半信半疑なんです……。
「ほら、もう一つ!」
ビアンカさんが魔物の横を走り抜けると、左右にいたマッドドッグがバタンと横倒しになっていく。
そして、ポトリポトリとアイテムを落としていくのだが……。
「クルト。あったぞ」
ディータさんがぼくへと差し出したのは、くすんだ瓶一つ。
その他は、牙や爪が落ちている。
ビアンカさんの「お金にならないしょぼいアイテムなら、肉のほうがマシ」と言っていた意味がよくわかる。
戦闘してどんなに魔物を倒して疲れても、ドロップアイテムが売り物にならないとつまらない。
なんとなくズシッと疲労感も増していくような気がする。
その点、ホーンラビットはたまーにお肉を落とす。
今日の夕ご飯と明日のお昼ご飯用のお肉は確保済みです!
「まだ、拾うのか?」
オスカーさんがしょんもり眉を下げてぼくの顔を窺います。
もう、九階まで下りてきましたし、魔物もいっぱい倒しましたし、ハズレドロップもそこそこ集まったので、もういいですよ?
いい加減ぼくも、十階のボス部屋に挑戦して、ギルドハウスに帰ってご飯を作りたいです。
ぼくの頭に寝そべっている和のおじさんも「そろそろ。料理しようぜー」とうるさいですし。
ぼくはオスカーさんにプルプルと頭を振り「ハズレドロップはもう大丈夫です」と答えた。
「じゃあ、下に行ってボスに挑戦するか」
あからさまにホッとした顔でみんなに呼びかけるオスカーさん。
ビアンカさんが満面な笑顔で食いついてきました。
「そうね! もうボス倒して帰りましょう。久々のダンジョンはやっぱり疲れたわ」
「十階のボスはなんだ?」
どうやら十階のボスも今まで出没した低ランクの魔物の上位種らしいです。
それでも気を抜かずにチャレンジです!
ポンポン。
「ん?」
肩にかけた鞄からみょんと触手が伸びてきてぼくの腕を叩きます。
「あ、ああー。すみません、みなさん。レオがまたボス部屋に行きたいそうです」
そうだよね。
レオも戦いたいよね?




