ハズレドロップ その1
初級ダンジョンの地下五階にあるボス部屋で、オスカーさんたちでさえ想像できなかった大量のスライムと戦闘になり、魔法を撃ちたかったレオの活躍もあって、無事にボス部屋攻略終了しました。
でも、ドロップアイテムが無くビアンカさんたちは、ぶーぶー文句を言ってます。
ドロップアイテム……ぼくの手の中には一本のガラス瓶がありますけど?
「それは、ハズレドロップなの。たま~にドロップするんだけど、何なのか全然わからないのよねぇ。クルトもそんなのそこら辺に捨てておきなさい。ダンジョンだから、勝手に吸収して処理してくれるわよ」
ビアンカさんがブスッとした顔で、ヒラヒラと片手を振りながら教えてくれたんですが……。
「なんじゃ、あの小娘は! この瓶を捨てろだと? おい、坊主。絶対に捨てるなよっ。むしろもっと集めろ! これだけじゃ足りんわっ」
ぼくの髪を引っ張ったり、持っている長い二本の棒でポコポコ叩いたり、小さなおじさんがうるさい。
「だって、ハズレドロップだって。そんなモノを集めてどうするんですか?」
オスカーさんたちには聞こえないように、少し離れてから小さな声でおじさんに聞いてみる。
おじさんがグムムと顔を顰めた途端、「シュン」と音を立てて半透明な画面が瓶の横に出現した。
「えーっと、なになに」
瓶の中身について、解説が出たよ。
<異世界の調味料> 黒い液体 和のレシピで大活躍
…………なに、これ?
「こんな説明じゃわからないよ。これ、調味料なの?」
ということは、食べれるんだよね?
キュッポンと瓶の蓋を外して、クンクン。
「んー、よくわからないなぁ? どれ」
瓶の中身を手の平にちょっと垂らしてペロリ。
「ひゃぁぁぁ。しょ、しっょぱーい」
滅茶苦茶、しょっぱいんだけど、これって本当に調味料なの? 黒いし……。
「坊主。それは直に舐めたり飲んだりするもんじゃねぇぞ」
小さなおじさん――和のおじさんが腕を組んで教えてくれるけど、それは味見する前に言ってほしかった……。
とにかく、ハズレドロップを集めたいとオスカーさんたちに主張できるわけもなく、こっそりと黒い調味料が入った瓶を鞄の中へ入れました。
「レオ。食べちゃダメだよ」
水色スライムのはずなのに、レオはバクバクとなんでも食べるスライムに進化してしまったため、鞄に入れた瓶をうっかり消化しないようにお願いすると、みょんと触手が伸びてきてフルフルと振られる。
「おーい、クルト。移動するぞー!」
オスカーさんの呼ぶ声に「はーい」と返事をして、慌てて駆け出す。
「クルト。お疲れ様。最初のダンジョンアタックはここまでよ。この続きはお昼ご飯を食べてからね!」
パチンとかわいくウィンクしたビアンカさんに、ディーターさんが盾を肩に担いでぼくを待っていてくれる。
「ボス部屋を倒すと転移の魔法陣が出現する」
ディーターさんが「ほら」と顎で示した場所の床に、白くて薄っすらと光る模様が浮かび上がっている。
「私たちはファーストアタックだから転移できるのは入口のみだが、他のボス部屋を倒しているとその場所への転移も選べるんだよ」
オスカーさんのダンジョンの転移魔法陣の説明を聞いて、恐る恐る片足を魔法陣の上へ。
「お昼ご飯食べた後は、入口の転移魔法陣でこのボス部屋階層まで転移できるのよ」
慎重に魔法陣へ移動しているぼくの背中をバンッ! と強く叩いたビアンカさん。
「うわっ」
バランスを崩して魔法陣の中へとたたらを踏んでしまった。
「ほら、ディーターも」
「みんないいか? じゃあ魔力を流すぞ」
オスカーさんが魔力を魔法陣へ流すと、瞬時に周りの風景が変わる。
ぼくの初めてのダンジョン攻略は一応の成功で幕を閉じることができたみたいだ。
……て、お昼ご飯を食べたらもう一度ダンジョンに潜るんだけとね。
ダンジョンを出たぼくたちは、お金を払って確保した休憩スペースへと移動する。
上級ランクの冒険者ギルドなら高額な場所代を払って広くて移動のしやすい休憩スペースを選べるんだろうけど、ぼくたち駆け出しギルドでは無理なので、安い金額でダンジョンの入口からはやや離れた場所の天幕が密集した所まで行きます。
「……Nの三十九。ここだな」
オスカーさんが場所代と引き換えに渡された木札を見ながら天幕のスペースを探しました。
ぼくたち四人が座ったらいっぱいになるほどのスペースですけど、お昼ご飯を食べるのには充分です。
「すぐに用意しますね」
朝作ってきたお昼ご飯をサッと敷いたシートの上に置いた平机の上に並べていきます。
「あー、お腹減ったー」
ドサッと腰を下ろしたビアンカさんの隣に武器を丁寧に外したディーターさんが静かに座ります。
「何か手伝うか?」
「あ、じゃあ果実水を注いでもらえますか?」
大きいピッチャーに入れてきたので、ぼくの手では上手にグラスに注げないのです。
お肉をいっぱい挟んだサンドイッチとポテトフライ、サラダとスープ、果実水の簡単お昼ご飯です。
「いや、簡単じゃないから……」
ビアンカさんがジトッとした目付きで見ますが、珍しい料理は外では禁止と言われているから、いつものメニューですよ?
「じゃあ、食べようか」
オスカーさんも座ってサンドイッチを手に取り、ぼくは鞄の中からレオを出そうとして……ポロリ。
「あっ」
「え?」
「あーっ! クルトったらハズレドロップを持ってきたの?」
「……記念のつもりか?」
うっかりレオを鞄から出したときに、ハズレドロップの瓶までポロリと落ちてしまいました。
あららら、どうしよう? みんなにどう説明したらいいのさ、和のおじさん!




