ボス部屋アタック
階段を下りると一際暗い通路が一本、目の前にあるだけ。
しかもすぐに行き止まりになっていて、大きな木の扉がぼくたちを待ち構えている。
ゴクリ。
「クルト、ここが初級ダンジョン最初のボス部屋だ。他の誰かが挑戦中は扉は開かない。そして、一度入ったら中のボスを倒すか全滅するまで、部屋から出ることはできない」
ううーっ、怖いです。
ぼくはレオが入っている鞄をぎゅうっと強く抱きしめて、恐怖心を誤魔化す。
「大丈夫よ。オスカーも脅し過ぎでしょ? この部屋のボスは今まで倒した魔物の上位種が一匹出るのが最強で、あとは今までの魔物が複数体出るだけよ。落ち着いて魔法を撃ち込めば倒せるわ」
ビアンカさんがぼくの背中をポンポンと軽く叩いてウィンクする。
ディーターさんも深く強く頷いてくれました。
「はいっ。ぼく、頑張ります!」
レオもみょーんって触手を伸ばしているし、ボス部屋に挑戦します。
オスカーさんがぼくに優しく微笑みながら、ゆっくりとボス部屋の扉を開けていきます。
ギギ、ギギギーッ。
軋む音を響かせて開いた扉の向こう側には……。
「なんで、こんなにいるのよっ!」
「ビアンカ。うるさい」
「……初めて見た」
ボス部屋の扉を開けて気合を入れて中に走り込んだぼくたちが見たのは……無数のスライムの集団だった。
え? 一体どれだけいるの?
オスカーさんでも初めて見るぐらいのスライムの集団に、ぼくたちは口を開けて暫しフリーズです。
「あ、メイジスライムがいるかも」
ぼくの言葉に、ビアンカさんたちの意識が代わり、鋭い気迫を纏い戦闘モードになる。
「……なんか、ウォータースライムとディスポスライムしか見当たらないけど、スライムの上位種が隠れているかしら?」
「いや、気配はない……と思う。数が多くて気配が読みにくい」
ディーターさんの大きな盾に体を潜めて、まずは状況把握に努めますが、どうやらスライムが多すぎてわからないらしいです。
「レオならわかるかな?」
ぼくは肩からかけていた鞄の蓋をパカンと開けて、中で退屈していたレオを出してあげる。
ぴょんぴょんと弾んで、体の調子を確認したレオはギュンッと敵であるスライムの集団に体を向ける。
ぼくの感覚では、闘志燃える瞳を向け臨戦態勢に入っているように見えています。
「ねえねえ、レオ。あの中に上位種のスライムっているかな? 魔法使うスライムとか」
ぼくの問いに、レオはブルルと体を左右に揺らします。
「オスカーさん。レオはこの中に上位種はいないって」
「そうか。いや、スラ……レオを信じていいのか?」
せっかくレオが教えてくれた情報をオスカーさんは疑っているみたいだ。
ぼくの友達を疑うなんて!
オスカーさんに抗議をしようと頬を膨らませて彼に詰め寄ろうとしたら……先にレオがブチ切れた。
びゅーっん!
「レオ?」
ディーターさんの盾から飛び出してほぼ地面と水平に飛び跳ねて、次々と魔法を撃ち出していくレオ。
ええーっ! レ、レオ……一応、スライムって君と同族なんだけど……いいのかな?
「ちょっと、スライムが【ウォーターカッター】を使っているわ!」
「……連発でな」
「連発すぎるだろう? 一度に十以上の【ウォーターカッター】が繰り出されいるぞ!」
オスカーさんたちもレオの活躍に目が飛び出るほど驚いてます。
ズバババババッとレオが撃ち込んだ【ウォーターカッター】のおかげで、百匹以上いたスライムが半数以下に減りました。
それでも五十匹はいるんですけどね。
「あ、あたしも」
「ああ、俺も」
ビアンカさんとディーターさんがどこかぼんやりとしながら、スライムに向かって行きました。
「じゃあ、ぼくも……あれ?」
ぼくもここまで使ってきた【ウォーターボール】で戦おうと思ったら、オスカーさんにやんわりと肩を掴まれました。
「クルトはここで待機でいいだろう。二人の後ろから魔法を使うと危ないからね」
「そ、そうですね」
うん、ここまで何度も使ってきたのに、ぼくは魔法を使うときに両目を瞑ってしまうのだ。
でも、ちゃんと魔物に当たって倒しているんだよ?
流石にビアンカさんたちの後ろから目を瞑った状態で魔法は使えないよね。
ビアンカさんのナイフとディーターさんの盾を使ったボディアタックでスライムの数はドンドン減っていくし、レオも同族に無情なほど斬り裂いています。
「……すぐに終わりそうですね」
「ああ……そうだな」
ちなみに、ボス部屋に大量のスライムが出没したことはないそうです。
そんな特別はいらなかったんですけど……。
「最後の一匹よー!」
ビアンカさんの叫びにレオとディーターさんがその一匹へ迫っていく。
誰が最後の一匹を倒すのか?
「やったー!」
どうやら敏捷さでビアンカさんの勝ちだったらしい。
彼女の嬉しそうな声がボス部屋に響き渡ると、カチャリと鍵が外れる音が聞こえた。
そして……ポトリ。
「ん?」
なんか、落ちる音がしましたね?
スタスタとスライム討伐にテンションが上がっている一人と一匹に近づきます。
あ、ディーターさんは通常運転でスンッてしてます。
ビアンカさんの足元には、片手で持てる大きさの不透明なガラス瓶が転がっていました。
「坊主! それだーっ!」
み、耳元でいきなり怒鳴らないでーっ!
いつの間にかぼくの右耳辺りに例の小さなおじさんが一人、姿を現していました。




