カラスと山男④
「よし。じゃあ行くぞ」
二人はゆっくり歩き始めた。
サラが示す方向は、登山道から少し外れていた。
木々が深くなり、人の気配が薄くなる。
ハレは足元を確認しながら進む。
倒木。
柔らかい土。
枝の折れ方。
鳥の鳴き声。
そのうち、ハレの足が止まった。
「……まずいな」
「どうしました?」
「鳥が静かになった」
サラの顔色が変わる。
「追手ですか」
「たぶんな」
空の方で、何かが動いた。
木々の隙間。
一瞬、黒い影が見える。
鳥ではない。
人の形をした何かが、空を滑るように移動していた。
「見つかったかもしれない」
ハレは低く言った。
サラが息を呑む。
「あれは、恐らくゴライアスです」
「どんなやつ?」
「第十番隊の隊長です。前衛型。高出力の魔法で正面から押し切るタイプ」
「ゴリ押しか」
「単純ではありますが、正面から戦えば危険です」
「正面から戦う気はない」
ハレはサラを木の陰に座らせた。
「ここでじっとしてろ」
「ハレは?」
「山男のやり方をする」
ハレはリュックを下ろし、中身を確認した。
ロープ。
熊よけスプレー。
細い紐。
小さな金具。
詳細を考える時間はない。
だが、足止めならできる。
祖父の声が頭に浮かぶ。
山では、相手の力を受けるな。
歩かせろ。
見させろ。
踏ませろ。
ハレは素早く動いた。
木と木の間。
足元の高さ。
相手が通りそうな場所。
そして、わざと自分が見える位置へ出る。
「おい!」
空から降りてきた男が、こちらを見た。
大柄だった。
鎧のような装備。
太い腕。
威圧的な体格。
だが、着地の動きは少し重い。
暑さと消耗。
地球の環境が、確実に効いている。
男はハレを睨んだ。
「あの女はどこだ」
ハレは肩をすくめた。
「ここ山だぜ? 女探しなら、街でやった方が効率いいぞ」
「答えろ」
男の手に魔力が集まる。
ハレの肌が粟立った。
空気が重くなる。
「……魔法ってやつか」
男は鼻で笑った。
「貴様から魔力は感じない。地球の民か」
「まあな」
「なら、退け」
「嫌だね」
ゴライアスの目が細くなる。
次の瞬間、魔力の塊が放たれた。




