静かな日曜日のはずだった⑥
八田が頷いた。
「王国側の地図と地形図は、こちらでも一部共有を受けています。詳細な確認は王国側で行う必要がありますが、候補地の検討は可能です」
「地形図か」
ハレは少しだけ考え込んだ。
森。
谷。
旧街道。
水場。
斜面。
補給路。
進みやすい道。
進みたくなる道。
そして、進ませたい道。
ハレの頭の中で、山歩きとキャンプと、祖父から聞いた猟の話が、嫌な形で繋がっていく。
「……ゲンさんに聞きに行くか」
リオンが真顔で言う。
「自衛隊の施設科でお茶くみしていた方ですね」
「その説明、絶対間違ってるんだけど、間違ってないのが腹立つな」
サラが少しだけ笑った。
朝からの重い空気の中で、その笑みはほんの少しだけ柔らかかった。
ハレはそれを見て、目を逸らす。
「とりあえず、電話する」
ハレはスマホを取り出した。
日曜の昼。
本来なら、連絡するには少し迷う時間帯だった。
だが、敵国が大規模侵攻の準備に入ったという情報が入った直後だ。
迷っている場合ではない。
通話ボタンを押す。
数コール。
『おう、晴良。今度は何を壊した』
「まだ何も壊してない」
『“まだ”か』
「ゲンさん、明日って時間ある?」
『何を聞きたい』
ハレは一瞬だけ黙った。
「罠の作り方。あと、敵を通したい道に誘導する方法。ぬかるみの作り方。足跡の消し方。見つからない仕掛け。簡単な投石機みたいなものを作る考え方」
電話の向こうで、少しだけ間があった。
『……どこで使う』
「説明すると長い」
『じゃあ明日来い』
「いいの?」
『お前がそんな聞き方する時は、だいたい長くねぇ。急ぎだ』
ハレは小さく息を吐いた。
「助かる」
『それと、動きやすい靴で来い』
「店で教えるんじゃないの?」
『店で足跡消しは教えられん』
「何教える気だよ」
通話が切れる。
ハレはスマホを見たまま、少しだけ顔をしかめた。
サラが聞く。
「月曜は仕事では?」
「そうなんだよな……」
ハレが頭を抱えた、その時だった。
スマホが鳴った。
画面を見る。
知らない番号。
「……誰だよ」
ハレは警戒しながら通話ボタンを押した。
「はい、風間です」
『お休みのところ失礼します。八田です』
ハレは固まった。
「……八田?」
『八田美香です。会社の』
「いや、何で俺の番号知ってんの?」
『業務上必要な連絡ですので』
「答えになってないんだけど」
八田美香の声は、相変わらず平坦だった。
『明日から一週間、風間さんは外部研修扱いになります』
「は?」
『出社は不要です』
「いや、待て待て待て。何の研修?」
『安全衛生および危機対応研修です』




