静かな日曜日のはずだった⑦
ハレは数秒黙った。
「絶対違うだろ」
『正式な扱いは、その名称です』
「正式な扱いって言い方がもう怖いんだよ」
サラとリオンが、ハレの様子を見ている。
ハレはスマホを少し離し、もう一度画面を見た。
やはり、知らない番号だった。
「八田さん、これどういうこと?」
『必要な手続きは済んでいます』
「俺に話通せよー」
『今、通しています』
「事後報告を話通すって言うな」
電話の向こうで、ほんのわずかに間が空いた。
『明日の朝、迎えを出します』
「迎え?」
『午前七時半頃、現住所前に車が着きます』
「いや、俺の住所も当然のように把握してるな?」
『業務上必要な情報ですので』
「だからそれ答えになってないんだよ」
『行き先は、アウトドアショップ源です』
ハレは額に手を当てた。
「完全に話通ってんじゃねぇか……」
『詳細は追って送ります』
「今、全部言っただろ」
『失礼します』
「あ、待て。八田さん」
『はい』
ハレはちらりと、部屋の隅で茶を飲んでいる八田優香を見た。
本人は、何も聞こえていないような顔で湯呑みを傾けている。
「八田優香って人、今いるんだけど、知ってる?」
一瞬。
本当に一瞬だけ、通話の向こうが静かになった。
『よくある名字です』
ハレは目を細める。
「名字だけじゃなくてさ」
『はい』
「昨日から、どっかで見たことある気がしてたんだよ」
『どこにでもある顔です』
ハレは部屋の隅を見た。
八田優香は、表情を変えずに茶を飲んでいる。
「……自分で言うな。いや、お前じゃないけど」
ハレは続けた。
「あと、八田さんに雰囲気似てる」
『どこでも売っている雰囲気です』
「どこでも売っている雰囲気です」
電話の向こうと、部屋の中。
二つの声が、ほぼ同時に重なった。
ハレはスマホを見て、次に八田優香を見た。
「……お見通しだ。あと、雰囲気は売ってねぇよ」
八田優香と目が合った。
しかし、彼女は何事もなかったように、すっと視線を逸らした。
『では、明日から一週間、よろしくお願いします』
「おい、絶対関係あるだろ。八田さん? 八田さ——」
通話は切れた。
ハレはスマホを見つめた。
「……切りやがった」
リオンが真面目に言う。
「敵ですか?」
「味方のはずなんだけど、やり方が敵より怖い」
その直後。
ハレのスマホにメッセージが届いた。
迎車予定。
翌日、午前七時三十分。
行き先。
アウトドアショップ源。
開始時刻。
午前八時。
ハレは画面を見つめ、ゆっくりと息を吐いた。
「外部研修って、普通の出勤より早ぇじゃねぇか……」
サラは申し訳なさそうに微笑んだ。
「地球側の協力者の方々は、手配が早いですね」
「早すぎるんだよ」
ハレは天井を仰いだ。
「とりあえず」
「はい」
「今日はもう事件起こすなよ」
サラは申し訳なさそうに目を逸らした。
リオンも無言で目を逸らした。
八田だけが、表情を変えずに言った。
「保証はできません」
ハレは天井を仰いだ。
「静かな日曜日って、どこで売ってんだよ……」
誰も答えなかった。
ただ、テーブルの上のコーヒーだけが、すっかり冷めて、妙に日常の顔をして残っていた。




