静かな日曜日のはずだった④
八田はケースを閉じた。
「今回の媒体については、地球側だけでは情報も知識も足りません」
「王国側でも確認が必要、ということですか?」
サラが言うと、八田は頷いた。
「はい。王国側の聖石職人、星門管理者、あるいは王の側近の方々にも確認していただきたい。こちらの分析だけでは、判断を誤る可能性があります」
サラの表情が引き締まる。
「そうですね。父上に報告しなければなりませんし、一度戻りましょう」
ハレは皿を見た。
まだトーストが半分残っている。
「今から戻るのか?」
「はい。実物を持ち帰り、王国側でも確認します」
八田が静かに言った。
「私も同行します」
ハレは目を向ける。
「地球側の人間が、異世界に?」
「過去に数度、王に謁見しています。今回の件は重大です。こちら側からも、直接報告する必要があります」
「……普通に行き来してんのかよ」
「必要な時だけです」
ハレは眉を寄せた。
「というか、報告に来たんじゃなかったのか?」
八田は表情を変えずに答えた。
「報告も目的の一つです。ただ、主目的はサラ様に同行し、王国側で直接説明することでした」
「最初からそのつもりだったのかよ」
「はい」
「手際が良すぎるんだよ」
八田はスマホを取り出した。
「車を呼びます」
「神社までですか?」
サラが聞く。
「はい。星門付近まではこちらでお送りします」
ハレは眉を寄せる。
「普通にタクシー呼ぶノリで星門行くなよ」
「必要な移動です」
「ほら出た」
八田はすでに通話を終えていた。
速い。
早すぎる。
本当に車を呼んだのか、最初から待たせていたのか分からない。
ハレはそのへんを考えるのをやめた。
考えると、また嫌な線が形になりそうだった。
数分後。
サラと八田は、出発の準備を整えた。
リオンは当然のように立ち上がろうとする。
だが、サラがそれを止めた。
「リオンは、ハレの護衛を」
リオンの目が動く。
「ですが、サラ王女」
「私は八田さんと一緒です。王国へ戻れば、父上の護衛もいます」
「しかし」
「地球側でハレを一人にする方が危険です」
リオンは一瞬、ハレを見る。
そして、静かに頷いた。
「承知しました」
ハレは思わず口を挟む。
「いや、俺の意見は?」
サラがにこりと微笑む。
「守られてください」
「お願いの形をした命令やめろ」
サラは玄関で靴を履いた。
「では、ハレ。少し戻ります」
「おう。行ってこい」
「すぐ戻ります」
「別に急がなくてもいいぞ。こっちは久しぶりに静かになるしな」
サラは少しだけ目を細めた。
「……そうですか」
「何だよ」
「いえ。では、行ってきます」
サラと八田が部屋を出ていく。
ドアが閉まる。
部屋が、急に静かになった。
ハレは大きく伸びをした。
「……やっと静かになったな」
リオンは部屋の隅で直立している。
「はい。警護は継続します」
「お前はいるのかよ」
「任務です」
「まあ、いいけど」
ハレはコーヒーを飲んだ。
静かだった。
昨日からずっと、サラの声があった。
テッテレーだの。
神社からまっすぐ来ましただの。
地球側の協力者だの。
父上の許可が出ませんでしただの。
うるさいと思っていた。
実際、うるさかった。
なのに。
静かになると、妙に部屋が広く感じた。
ハレはカップを置く。
「……せいせいするな」
わざと、そう言った。
リオンがじっと見る。
「寂しいのですか?」
「違う」
「そうですか」
「違うって言ってんだろ」
「では、そういうことにしておきます」
「お前、地球に来てから言い方だけ妙に覚えてないか?」
「観察の成果です」
「嫌な成長だな」
ハレはテレビをつけようとして、やめた。
サラがさっきまで座っていたソファーを見る。
湯呑みが残っている。
少しだけ茶が残っていた。
「……片付けてから行けよ」
そう言いながら、ハレは湯呑みを持った。
自分で片付ける。
その時点で、もう負けている気がした。




