静かな日曜日のはずだった③
八田は黒いケースの留め具を外した。
カチリ、と乾いた音がする。
中には、透明な袋に密封された黒い破片が入っていた。
昨日、男たちが持っていた媒体だ。
ひび割れ、焦げ、内部の一部が露出している。
ハレは眉を寄せた。
「……実物持ってきたのかよ」
「必要でしたので」
八田はさらに、薄い写真を数枚並べた。
媒体の断面を拡大したものらしい。
「こちらが断面の分析画像です」
「粗悪な聖石……みたいなやつだったよな?」
サラが頷いた。
「はい。ただ、普通の聖石具とは違いました」
八田が続ける。
「問題は、加工痕です」
「加工痕?」
「自然な研磨や、王国側の魔法加工とは違います。かなり均一です。機械で削ったような痕跡があります」
ハレの手が止まった。
「機械?」
リオンが低く言う。
「異世界側では、聖石をそのように加工する技術は一般的ではありません」
サラの表情も硬い。
「少なくとも、私の国の技術ではありません」
ハレは、透明な袋の中の黒い破片を見た。
ひび割れた媒体。
中に見える細かい線。
魔法具というより、何かの部品に近い。
「機械で加工ってことは、地球側の誰かが関わってるってことか?」
八田はすぐには答えなかった。
「可能性はあります」
「地球側の関係機関とは別の勢力?」
「現時点では断定できません」
その言い方が、逆に嫌だった。
否定ではない。
調査中という意味だ。
サラが小さく息を呑む。
「地球側の協力者とは別の勢力……もしくは」
リオンが低く続けた。
「協力者を装った裏切り者」
ハレはトーストを置いた。
「日曜の朝に聞く話じゃねぇな」
八田は淡々と頷く。
「こちらとしても、望ましい報告ではありません」
「そういう冷静な言い方が一番怖いんだよ」
八田は、写真の一枚を指差した。
媒体の断面が拡大されている。
「ただし、これは完成品ではありません」
「完成品じゃない?」
「はい。粗悪な聖石を機械加工し、魔力媒体としてどこまで性能を引き上げられるかを試した試作品です」
「性能を引き上げる?」
「人工的に品質を底上げする、という表現が近いです」
ハレは写真を見た。
「つまり、昨日の奴らは、実験も兼ねていたってことか」
「可能性は高いです」
サラが唇を引き結ぶ。
「王国の精錬聖石は、職人と術者が長い時間をかけて整えます。機械で削れば作れるものではありません」
「でも、敵はそれをやろうとしてる?」
「はい。少なくとも、近づこうとしているのだと思います」
ハレは、粗悪媒体の写真を見下ろした。
「粗悪品を削って、魔力の通り道を整える。人工的に聖石としての質を上げて、術者への負担を減らすってことか」
八田は頷いた。
「その理解で近いです」
「魔法世界の話なのに、やってることが工場ラインなんだよな」
「そこが問題です」
八田は淡々と言った。
「魔法を、工業製品にしようとしている」
その一言で、部屋の温度が少し下がった気がした。
魔法。
サラたちの世界では、才能や訓練や血筋や聖石の質が絡むもの。
それを、誰でも使えるように削り、揃え、規格化する。
便利なようで、嫌な響きだった。
八田は、媒体の断面写真を指で押さえた。
「敵国側には、聖石不足を補うための魔力発動装置があります」
「装置?」
ハレは眉を寄せた。
「聖石の代わりになるものか?」
「完全な代用品ではありません」
サラも頷く。
「それどころか、通常の聖石の代わりにもなりきれていません」
「そこまで?」
「はい。装置は魔力を蓄えることができません。魔力を変換し、発動を補助するものです。一撃の出力は高いのですが、安定性に欠け、使用者の身体への負担も大きいのです」
八田が続ける。
「地球では大気中の魔力が薄いため、通常の聖石でも一発撃てるかどうかです」
「じゃあ、その装置は?」
「一発撃てる可能性はあります。ただし、通常の聖石で一発撃つよりも、術者への負担は大きいと見られます」
ハレは顔をしかめた。
「威力はあるけど、使う側が持たないってことか」
「はい」
「無茶な兵器だな」
サラが静かに言った。
「装置だけでは足りない。聖石も足りない。だから、粗悪な聖石を人工的に加工し、少しでも負担を減らそうとしている」
ハレは写真を見下ろした。
「装置だけに頼らず、人工的に底上げした聖石を使うための改造テストか」
「はい」
八田は頷いた。
「そして、その先にあるのは、聖石媒体の工業化です」
ハレは小さく息を吐いた。
「サラの国を狙う理由もそこか」
サラの表情がわずかに硬くなる。
「はい。王国には、まだ聖石資源と精錬技術があります。職人も、星門の管理技術も」
「王国を乗っ取れば、材料も技術も手に入る」
「そういうことになります」
ハレは口元を歪めた。
「最悪だな」
誰も否定しなかった。




