帰宅しても休まらない⑧
ハレは腕を組む。
「処理って言葉がもう怖いんだよ」
女は答えず、車へ乗り込んだ。
ワンボックスは静かに走り去る。
通路には、焦げた匂いと、少しの煙だけが残った。
これで終わり。
そう思えたら、どれだけ楽だったか。
ハレは黒く焦げたガードレールを見ながら、深くため息をついた。
リオンが低く言った。
「ハレ殿」
「何だよ」
「地球は、思った以上に危険な場所ですね」
ハレは空を見上げた。
土曜日。
晴れ。
買い物帰り。
粗悪な魔力媒体。
地球側の協力者。
謎の回収班。
隣室の王女と近衛兵。
そして、会社には八田美香。
ハレは深く息を吐いた。
「……俺、普通にキャンプ道具買いに来ただけなんだけどな」
サラは申し訳なさそうに言った。
「巻き込んでしまいました」
ハレは首を振る。
「もう、そこはいい」
そして、焦げたガードレールを見た。
「ただ」
一拍。
「火ぃ使う場所くらい選べって、敵側にマニュアル配っといてくれ」
源三が低く笑った。
「それは山でも街でも同じだな」
ハレは顔をしかめた。
「俺の休日、どこ行ったんだよ……」
遠くで、救急車でもパトカーでもない、何かの車の音が小さく遠ざかっていった。
地球に戻ったからといって、日常に戻れるわけではない。
むしろ、異世界の方が分かりやすかったかもしれない。
敵は敵。
魔法は魔法。
星門は星門。
だが地球では、会社の新人が部長を黙らせ、知らない組織が隣の部屋を押さえ、黒い車が敵を回収していく。
ハレは小さく呟いた。
「……異世界より、地球の方が情報量多くないか?」
サラが不思議そうに首を傾げる。
「そうなのですか?」
リオンが真面目に頷いた。
「確かに、地球の戦場は複雑です」
「戦場にするな」
ハレは買い物袋を持ち直した。
熊よけスプレー。
ロープ。
カラビナ。
携帯食。
本来なら、ただのアウトドア用品。
だが今のハレには、どれも妙に頼もしく見えた。
「帰るぞ」
「はい」
「承知しました」
源三が店の前から声をかけた。
「晴良」
ハレが振り向く。
「次は、もう少し普通に来い」
ハレは苦笑した。
「俺もそうしたい」
源三は短く笑い、店の中へ戻っていった。
ハレはサラとリオンを連れて歩き出す。
土曜の街は、何事もなかったように動いていた。
だが、ハレの週末はもう、完全に普通ではなくなっていた。




