表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/34

帰宅しても休まらない⑥

現れたのは、五十代後半ほどの男だった。

日焼けした顔。

太い腕。

無造作に伸びた髭。

鋭いが、どこか人のいい目。

源三。

ハレの祖父の知り合いで、現役猟師。

今でもたまに山へ入る。

店ではアウトドア用品を扱っているが、山の道具と危険については、普通の店主よりずっと詳しい。

源三はハレを見て、開口一番言った。

「今度は何を壊した」

「挨拶それ?」


「お前が来る時は、だいたい何か壊してる」

「熊よけスプレーとロープと、あと休日」

源三は少しだけ眉を上げた。

「休日は売ってねぇな」

「知ってる」

源三の視線が、サラとリオンへ移る。

一瞬、目が細くなる。

だが、驚きはしない。

「……ずいぶん変わった連れ連れてんな」

ハレは少しだけ顔をしかめた。

「説明すると長い」

源三はあっさり頷いた。


「じゃあ聞かん」

「助かる」

サラが丁寧に頭を下げた。

「サラと申します」

リオンも胸に手を当てる。

「リオン・ヴァルツです」

源三は二人を見て、短く言った。

「山に入る顔じゃねぇな」

「分かるのか?」

「分かる」

源三はリオンの立ち方を見る。

「そっちの兄ちゃんは、山より戦場の歩き方だ」


リオンの目が少し動いた。

「……鋭いですね」

「猟師やってりゃ、足を見る」

ハレはため息をついた。

「頼むから店内で戦場の話すんなよ」

サラは店内を見回していた。

ランタン。

寝袋。

携帯浄水器。

固形燃料。

折りたたみ椅子。

レインウェア。

熊鈴。

非常食。


ひとつひとつが珍しいらしい。

「これは、野営用の道具ですか?」

「そう」

「これだけあれば、かなり安全に休めそうですね」

「まあ、使い方次第だな」

リオンは別の棚で立ち止まっていた。

ロープ。

カラビナ。

ナイフ。

斧。

鉈。

防災用ライト。

目が真剣すぎる。


「おい、リオン」

「はい」

「キャンプ用品店で戦場の目をするな」

「良い装備が多いです」

「その感想は店主が喜ぶやつだけど、方向性が怖いんだよ」

源三は低く笑った。

「兄ちゃん、刃物見る目がガチだな」

リオンは真顔で答える。

「よい刃は、戦場で命を救います」

ハレは即座に言った。

「キャンプ用品店で戦場の話すんなって言ったばっかだろ」


しばらく、ハレは必要な物を選んだ。

熊よけスプレー。

細めのロープ。

カラビナ。

携帯食。

小型の防水袋。

予備の手袋。

源三は品物を見ながら言った。

「熊よけ、また買うのか」

「この前使った」

「熊か?」

「……熊ではない」

源三は少しだけ目を細めた。


「じゃあ聞かん」

「助かる」

会計を済ませ、三人は店を出た。

その時だった。

リオンの足が、ほんのわずかに止まった。

「ハレ殿」

「ん?」

「後方に不審な者がいます」

ハレは振り返らなかった。

リオンの声は低い。

冗談ではない。

「何人?」


「二人。先ほどから距離を保っています」

サラの表情も変わる。

「魔力反応は?」

サラはほんの少しだけ胸元の精錬聖石に触れた。

「……微弱ですが、あります」

ハレは小さく息を吐いた。

「土曜の買い物くらい普通にさせろよ」

リオンの手が、自然に外套の内側へ動きかける。

ハレは即座に言った。

「剣は出すな」

「まだ何もしていません」

「手が動いてんだよ」

リオンは静かに手を止めた。


店の脇、駐車場へ続く細い通路。

人通りは少ない。

ハレはあえて、そちらへ足を向けた。

「人目の少ない方へ行くのですか?」

サラが小声で聞く。

「向こうが仕掛ける気なら、通行人が多い場所よりマシだ」

リオンが頷く。

「誘導ですね」

「そういうこと」

数歩。

背後の足音が、わずかに近づいた。


「……来るぞ」

ハレが低く言った瞬間。

通路の奥から、男が一人出てきた。

もう一人が、背後を塞ぐ。

見た目は普通の地球人だった。

だが、その片方の手には、小さな黒い金属片のようなものが握られている。

サラの顔色が変わった。

「……魔力反応があります」

リオンの目が鋭くなる。

「敵ですか」

「たぶんな」


男の一人が、低く笑った。

「確認だけでいいと言われていたが」

手の中の黒い金属片が、淡く赤く光る。

「反応を見るくらいは、構わないだろう」

サラが一歩前へ出ようとする。

ハレは腕で制した。

「撃つ気だ」

「ハレ!」

次の瞬間、赤い光が弾けた。

火球。


だが、キールのような精密さも、圧倒的な出力もない。

粗い。

荒い。

不安定。

それでも、普通の人間が受ければ危険な威力だった。

「伏せろ!」

ハレはサラの肩を押し、横へ飛ぶ。

火球は通路脇のガードレールに当たり、バンッと音を立てて弾けた。

煙。

熱。

焦げた匂い。


ガードレールの表面が黒く焼け、白い煙が細く上がる。

男の手の中で、黒い金属片がひび割れる。

サラが言った。

「あれは粗悪な媒体です! 一度撃てば、もう保ちません!」

「使い捨てロケット花火かよ!」

男は舌打ちし、逃げようとした。

もう一人の男も、手元の黒い媒体を握り直す。

赤い光が、指の隙間から漏れた。

「二発目来るぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ